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6 アカリ③

「大丈夫だろうか…」


今だ続く深い森の中で、一人が重い荷物を運びながらここにいない二人の身を案ずる。


「エド兄貴は大丈夫だろうけどあの保安官、何やらかすかわかんねぇもんな…

道に迷ってたりして」


また一人がククッと笑う。


「おい、笑い事じゃねぇぞ。

本当に迷ってるのかも…」


「それはねぇよ、線路に沿って行ったんだぜ。

てか、あいつが迷ったところで俺らになんの関係があるってんだ。」


「あいつは俺らの仲間だろ」


皆が声の方に目を向ける。

声の主は


「…ディール」


「なんだよお前、保安官のこと嫌ってたじゃねぇか」


「ああ嫌いだよ、あんな身勝手な女。今までに会ったことがねぇ」


「じゃなんで仲間なんて」


「…あいつ、兄貴の名前叫んで助けに走ってったじゃねぇか。昨日初めて会い、ついさっきまで敵だと思ってやがった相手にできる態度じゃねぇよ。


嫌いだけどよ、悪いやつには思えねぇ。

それに、兄貴が仲間っつったんだ。あの人は人間性を見極められない人じゃない。

だからだよ」


「…………。わかったよ…。

…よし、急ごうぜ」



荷車の車輪は速く回り始める。










「何黙りこくってんだい。五十年もののボルドーなのに飲まないと勿体無いだろう」


エドと女は低いテーブルを挟み向かい合って座っていた。


「…………あの」


「ヴェラミスだよ」


「…ヴェラミスさん、貴方は俺を………

知る人なんですか」


「……。さあ?」


グラスに注ぐのが面倒なのか、ヴェラミスは瓶のままグビッと音をたててワインを飲む。

そして不敵な笑みを浮かべ、エドの隣に座った。

彼女、声は中年近くであるが、容姿はかなり美しい。長くうねりのある黒髪は動く度に艶やかにたよう。

そして黒水晶のような瞳が、エドを見つめる。


「ヤオルク。あんた向こう行ってな」


ヤオルクはコクンと小さく頷くと、今から何をするのか気になりながら部屋を後にする。


ヤオルクが居なくなったのを確認すると、ヴェラミスはエドを再び見、そして彼の顔に両手で優しく触れ

自分の顔を近づけた。

鼻先が触れるほどに近い。

更にゆっくりと近づける。


片手をエドの首筋に当てると、彼女は一つ溜め息を吐き、パッとエドから離れた。


「あーあ、詰まんない男だねぇ。脈一つ乱れやしないじゃないか。暇だから遊んでやろうと思ったのに」


文句を言いながらも薄ら笑いを見せるヴェラミスに、エドは何心なく微笑み返す。


「なんだいその笑顔は。お前は反射反応で笑うのかい?

呆れた。

昔は笑いたいときに思い切り笑う可愛い子だったろうに」


「その口ぶりではやはり貴方は俺を知ってるのか…

…どういう訳か、知りたいですね…」


「それはこっちの台詞だよ。

でもまあ、辛気くさく話すなんて真っ平だからね。

ワインでも飲みながら語らおうじゃないかい?─」


「“お互い罪人同士”…?」


「!

ククッ!良い子ね」


二人はワインが注がれたグラスを手に取り、乾杯をした。










タッタッタッタッ…


薄暗い洞窟を、ロナは随分と走っていた。


どれ程走っただろう…

流石に疲れてきた


…ふと考えたけど、私は本当にここにいて良いのだろうか。

勝手に勘違いしてあいつらに入り込んで、自分の正義を貫こうなんてバカなこと考えて…

あいつらが海賊じゃないってわかったときには都合が良いように全身全霊を尽くして役に立つなんてほざいて…

無茶苦茶だ。私


でもここを追い出されたら私はどうしたらいいかわからない。賊を捕まえるしか能がないから、一人で生きる術をしらないんだ。

もう故郷にはきっと帰れない。

だから、私の居場所はここしかない。


実は嬉しかったんだ。

一度刃を向けた私を迎えてくれたあの笑顔が嬉しかったんだ…!


でもあいつが居なくなってしまったら、私の居場所がなくなってしまう。他の奴等には私はきっと嫌われてるだろうから…


あいつを助けなくちゃ……!








「………!あった!」


ロナの目前には乗り捨てられたトロッコが。

そしてその先には扉が壁に埋まるようにして取り付けられている。










コンコン!


「おや、来たようだね。入りな!」


ガチャ!!


「失礼しやす。お届けものでーす…─」

「保安隊のものだ!邪魔をする!ここに男が…─ん?」


「今向こうから保安官の声が…」


「あはは

あんたらどっちもあの子の仲間かい?待ってたよ。入りな」


「「…あの子…!?」」







「「あ!!」」


奥に入るとソファーの上でエドが眠っていた。

「まあそういう訳でね。どうだい、あんたらも一緒に呑まないかい?」


「「おー!そんじゃあ…─」」

「お断りします」


「!?てめぇ保安官!お前が決めることじゃねぇよ!」


「へぇ…保安官ねぇ」


「はい。私はトーテルの保安隊弟ニ部隊に所属しており、訳あってこいつらと共に。お言葉は嬉しいですが、ご依頼主に酒を振る舞って頂くのは少し…」


「ククッ

そうか。保安官の言うことなれば致し方ない。もう外は薄暗くなってきているしね。

また今度私を訪ねて来たら、その時は振る舞うとしよう」


「そ…そんな」

「てめぇ保安官許さねぇ…」


「おい、起きろ。」

ロナはペシペシとエドの頬を叩く。

エドは一度唸ると、まだ眠そうに瞼をゆっくりと開き始めた。

「…ありゃ……ほあん…かん」


「まったく何をやっている。だらしない。

ほら、戻るぞ」


コバルトブルーの澄んだ瞳がまだぼんやりとロナを見つめている。


「…何だ」


「…おまえ…追って…きてくれたん…?」


「!」


エドはへにょと笑った。


「……やっぱ…やさし─ぶっ」

バシンと何故か平手打ちを喰らうエド。


「兄貴!」


「くだらんこと言うな!私は役に立つという任務を遂行しようとしただけだ!」


「おぅ…醒めた…

どうも平手打ちありがとう…」

「醒めたんなら立て!夜になる前に戻るぞ」


「…どこに?」


エドはニヤリと笑う。


「どこって、お前の船に」


「へへっ

そうやな!俺たちの船に戻ろうか。

すまんお前ら!心配かけた!

帰ろう!」


「へぇ〜い」

「何だよ兄貴だけー」


ぶつぶつ文句を言う部下たちを尻目に彼らが入ってきた扉を開ける。


「じゃ、ワインご馳走さんでした」


「あいよ。

あたしもいい話聞けて良かったよ。


あんれ、もう大分夜だねぇ…

ランプ持ってきな」


「いや、俺ら闇には慣れてるんで」


また、エドは笑顔を見せる。


「………あんただけは、ヤミに慣れちゃあいけないよ。

────エド」





「………?」




「はいよ、お嬢ちゃん」


「あ、どうも

では」


「気いつけなよ」




ヴェラミスは闇夜に消え行く彼らを見送る。






エド…

どうかそのアカリたちは手離してはならないよ…




ランプの明かりがゆらゆらと揺れる。

今宵は雲が厚く、月光が地に届くことはないようだ…。

























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