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22 舞踏会

さて…どうやって逃げ出すか…



キュイリアスから与えられた部屋のダブルのベッドに腰掛け、エドは考えていた。




ハナからこうなるだろうとは思ってたよ。位を持たないましてや余所者の俺なんかが政権委ねられるとかありえんし。

─あいつら抜きの人生なんて考えられんしな…


しかし結局逃げ出すつもりなのを奴らに気付かれないようにするためとは言え、あいつらとはあんな別れ方したんや。


きっと今頃俺を取り戻すために色々やっとるに違いない。あいつらのことや。無茶をしよるかもしれん…。

早いとこ、ここから出らなな…。


それに、これから鑑賞用兼、種として生きるんは御免やし…!



「…………」



ふと、先程の二人の会話を思い出す。



地位…権力…

王族や貴族社会の方々はこれが全てだと、信じて疑わないんだろうな…


あの子…キュイリアスとかいったか。

生まれた時から地位を持ち、全てを不足無く与えられてきたんじゃ…尚更だよな…


彼女にとってはそれが当たり前で、地位をもたない俺らは彼女の所有物。

身分差はあれども人であることには変わらず、自分と同様心をもつということも知らずに。


あの子は自分以外の心を感じたことがあるだろうか…。

俺との間の子をつくると、そう言っていたけれど…、俺をそういう〈奴隷〉にしていることを、あの子は分かっているだろうか…





権力や地位をもつということはつまりはそういうことだ。

人を道具のように扱ってしまう…。

それを理解してそうならないように気を付けられる人もたまにはいるけど。



俺がこのまま逃げてしまったら、あの子はあのままだろうか…



「………」



─てめぇは邪魔なんだよ!!─



「………っ」



権力は、時に人を変えてしまう恐ろしい力だ…



昔の友人を思い出し、自然とエドの口が真一文字に結ばれる。


─うあああああああああ!!─



ズキン…



左手の、以前薬指と小指があったところが痛みだした。



ズキンズキン…



そういえば…今朝のロナ、ちょっと変だったな…。

アイトワを殴ってしまったのがまずかっただろうか…。


でもちゃんと笑顔つくって誤魔化したつもりだけど…、もしかして上手く笑えてなかったかも…


いけないいけない、ちゃんと、笑わなきゃ…



ズキン…ズキン…




そのままエドはうずくまり、口元には笑みを浮かべていた。








◇◇◇◇◇◇◇










「─アイトワは?」


「いや…見つけきれなかった…。もしかしたら船に戻っているのかもしれない」


「そうか…」



ディール達と合流したロナ達は、街の飲食店でエド奪還計画を練っていた。




「ったくアイトワの野郎どこまでも迷惑かけやがって…。

じじいのくせにしょうがねぇ奴だな」



ディールが口を尖らす。



「…………」



「……!

…なんだよ。ロナ。

人のことんな珍しそうな目で見やがって」



「や…別に?ただ案外アイトワのこと怒ってないんだなと」


「はあ?」


ギロリといかにも不愉快そうな声色でディールはロナを睨み付けた。


「はは、照れ隠ししたって無駄だぞ」


「─ふざけんなよ。俺は未だにあいつを許しちゃいねぇ」


すごい剣幕でズイと迫ってきたので本当なのだろう。


「…そ、そうか」


「ただてめぇと違ってガキじゃねぇってこった」


「なっ」


「なんだ、アイトワと喧嘩でもしたのかディール」


「「!!」」


何も事情を知らないレオイが話に割って入ってきた。




「え?いや…まあ…」


「へー珍しい。一体どんな…」

「さ、さあ作戦会議だ!ほらほらレオイ!!」


「ん?ああ」



─…ふー。危ない…

迂闊に話題にしていい話ではないな。


ロナは心の中で額の汗を拭った。


皆(アイトワと船番以外)が揃ったのを確認すると、レイバーが切り出した。


「─さて、レオイ達の話にあったようにオレは明日ある舞踏会が絶好のチャンスだと思うんだが」


「そうだな、真正面から返せっつってもどうこうなる相手でもないし…」


「問題は兄貴がどこにいるかじゃねぇか?」


「舞踏会だし、ダンスホールの中にはいるだろ」


「そうだな…なら脱出経路の確保は?」



そこでニタリとロッジ他四人が自慢気に笑った。



「それならご安心あれ!」


「「!」」


「それは…」



「城の見取り図〜」(小声)



「─何であるんだよ」


「お前らまさか…!」


「おっ。流石ロナ、保安官は察しがいいな。そう、これは所謂闇市なる場所で買った品物であーる」


「次いでに爆薬とかも買ってるぜ」


「俺らもう ちょっとしたテロリストだな」


「笑い事か!」


「まあまあロナ。これは兄貴を連れ戻すためだ。目ぇくれぇ瞑ってやれよ」


「…」


「だがそれは本物か?闇市に売ってあるもんは保証出来ないだろ」


「ああ、闇市の確かな筋らしい奴から買ったものだから大丈夫だと思うぜ」



「よし…じゃあ一番肝心な侵入法は?」


「……服や招待状は…?」



「「…………」」










◇◇◇◇◇◇◇◇










─舞踏会の夜─






ザワザワ…




「ねぇ、お聞きしました?キュイリアス樣、どこぞのお家の凛々しい方を城に置いているとか」


「まあ、どこぞのとは、わからないのですか?」


「ええ。私はもう婚約を交わしたお方なのかと思っていたのだけれど、どうやらその方とは結婚なさらないらしいのよ」


「ではどういう?」


「きっと大臣とかその辺りのご子息だと思うのだけれど、キュイリアス樣は姿(かたち)が優れた方をお側に置きたがる人だから…、多分そういう類いじゃないかしら」


「少しお姿を拝見した方によると、周りの王子よりもずっと美しいとか」



「「まあ!」」


「それは是非一度見てみたいものだわ!」




城の中では已に招待されていた貴族やら大臣やらが集まり、早くもエドの噂が立ちつつあった。



「まああ!素敵っ!スタイルが良いからやっぱり白で良かったわね!」



舞踏会のためにエドも着替えさせられ、まるで本当の王子の様な風貌となっていた。




「……………」



「………。

意外。あまりそわそわしないわね。初めてでしょう、こういうのは」



「─そうですね。これでもそわそわしてますよ」


「そう?─…そういえば、あなたダンスは踊れるの?」


「……はい?」


「あなたはこの私と踊るのよ?」



「そんな…。こんな低身分の者が姫とダンスなんかをしていいのですか」



「いいのよ!こんなに良いものを持っていることを皆に見せつけるんだから!それに今日の舞踏会は私の婚約者を探すためのものだけど、もうあなたがいるから後は条件のいい家柄の王子を見つければいいだけだし」



「…………」


この子ほんま性格悪いな…



「で、踊れるの?」


「─…はあ、まあ…。

この地域の踊りは確かツェルカでしたよね…?それなら少し…」


「あら!本当に!?下民のくせに教養があるのね!」


「はは…」



「………いや…もしかしてあなた本当に王子か何かだったんじゃない?」



姫は探るようにエドの顔を見上げた。



「………」

「………」



イラッ



「ちょっとあなた()が高いわよ。跪づきなさい」



エドを跪づかせ再び尋ねる。



「ねぇ、どうなの?

…考えてみればおかしいわ。

下民にあるはずないダンスの知識を持ってたり、ケストからあなたは訛りがひどいと聞かされていたのにそれどころか標準語を使いこなしてるじゃない」


ねぇと自分よりやや低くなったエドに攻め寄る。



「………………」


数秒間沈黙が続いた。

エドの瞳を見つめているとまるで吸い込まれそうだ。


そしてエドは静かに


「まさか」


と笑った。










◇◇◇◇◇◇◇◇









長い豪華な通路を抜けるとこれはまた豪華な両開きの扉がある。



ここがダンスホールか…



召し使いが丁寧に扉を開けた。

キュイリアスが堂々と臣下を引き連れて進む。

エドは最後尾にいた。




わあっ


果実が弾けるように人々の歓声がキュイリアス姫を迎える。


とてもとてもきらびやかな世界。




「もし、そこのお方」


「……!はい」


「もしかして貴方(あなた)がキュイリアス樣の…」


「…………あー、…えぇ…まあ…」


「「まあ!」」


舞踏会に出席していた富豪やら大臣やらの令嬢が一気にエドに群がった。



「っ…………わ」



「まあまあなんて凛々しいお方!」


「本当に!」


「確かに周りの王子よりも品格がありますわね!」


「「オホホホホホホ」」


「や…あの…!」


エド見たさにぎゅうぎゅうと令嬢たちが次々にやってくる。


「きっと素晴らしいお家柄に違いないわ。貴方どこの…?」


「お名前は?」



迫りくる女性達にエドは少し笑顔がひきつる。


ハッと気付くと、あちらで多くの王子に囲まれダンスを申し込まれているキュイリアス姫がこちらを凄く嫌そうな目で見ていた。




そんな顔するなら助けろっての…!



彼女は無言で手招きをする。



自分で来いってか…!




「もしや今宵社交界デビューなされたの?」


「あら!それなら私が色々とお教えますわよ」


「いえ!私が!」


「いえいえ!この私が!!」



「─お嬢様方」



一声だけで令嬢の声がピタッと止んだ。



「姫に呼ばれています。道を空けてくれませんか?」



ドキッ


「ご、御免あそばせ?」

ササッと素早く道が空けられた。

エドは軽く一礼をしてキュイリアスの元へと向かう。



「やだなーに?何なのあの爽やかな笑顔!」


「あれは社交界デビューしたばかりの方の身のこなしではないわ!とても手慣れていらっしゃるわよ!」


きゃーきゃーと令嬢達は騒いだ。






「─兄貴すげぇ人気だな」



レイバー、ロナ、他四人がなぜか貴族の服を来てダンスホールの隅に集まっていた。




「ああ…あの顔は貴族うけもいいらしい」


「人が良さそうな顔してるからじゃね?」


「しっ!お前らあまり汚い言葉使って周りにバレないようにしろよ!」


「こう言えばいいんだろ?"わかりやしてございやした"」


「お前もう一生喋んな」


「え?」

「いいか、比較的標準語が上手いロナとレイバー以外隅っこに寄って話し掛けられないようにしてろよ。さ、近くに行ってこい二人とも」



「……わかった」








オーケストラが奏でるワルツが美しく、華やかに舞踏会を飾り立てる。






「まあ美しい…」



色とりどりのドレスがふわりふわりとまるで花が咲いたり閉じたりするように舞う。


その中心でエドとキュイリアスが踊っている。




「…あなた、下民のくせにダンスが上手いのね。詳しいだけじゃないんだ」


「…ありがとうございます。」

「やっぱり本当はどこかの王子」


「─違いますよ」



「…何よ。まあそんなことはどうでもいいからもう少し楽しそうにしなさいよね、まるで私が無理矢理やらせているみたいじゃない」




その通りなんやけど



「はは………、すいません」



とエドは微笑む。







ダンスを見物する貴族たちの端にロナとレイバーはいた。



エド…こうやって見ると何て言うかな…、本当の…王子樣みたいだな…。



姫を華麗にエスコートするエドの姿には、誰もが目を奪われた。



「ロナちゃん、どうやってエドに近づく?あれじゃあ中々近づくどころか気付いてももらえない」



「…そうだな…。こういう時って女性からダンスを申し込んでもいいのか…?そうすればなんとか近づけるかもしれないんだが…」



「わかんないな…」



「「…………」」



二人は立ち尽くす。

すると



「もし、そこの黒いお(ぐし)の方」



「!」


レイバーに一人の令嬢が話し掛けてきた。



「どちらのお家の…」




ボソッ「やばい…!!ロナちゃん、こういう時どう返せばいいの…!?」



ボソッ「え…!!知らないぞ!ご…ごきげんようとか…?」



ボソッ「それって男が使っていい挨拶なの…!?」



ボソッ「知らない!とにかくそれっぽいことを…!!」





「ご…ごき」

「あら、そのお召し物はアドリアス卿のお家ではなくて?」



!!



新たに別の令嬢が来た。



「まあ、馬術で名高いあのアドリアス卿の…!」



それを皮切りに次々と令嬢が集まってくる。

あっという間にレイバーは囲まれてしまった。




成る程確かに前髪を下ろしたレイバーはそこそこ顔立ちのよい貴族に見えなくもない。


イケメンは大変だな…



ロナはそんなことを思いながら横目でレイバーを眺めていた。



「もしアドリアス樣、ダンスをご一緒しても?」


「「!!」」



ここでロナとレイバーは目配せをする。




女性でもダンスを誘っていいんだな…!!



「それでしたらまずこの私と!」


「いえ私と!」




身動きのとれないレイバーに向かって小さく頷くと、ロナはエドの元へと歩き出した。






一曲終わり、キュイリアス姫は他の王子の相手をしており、エドの周りはまた令嬢達が囲んでいた。




よし、チャンスだ…!




と足を早めたその時─



グキッ

ベシャッ



「「!!」」



周辺の人々が注目する。



………っ!!

こ…………こけてしまった…!!


周りが見ている…!すごい恥ずかしいっ…!!

どうしよう!!




「………!」



ロナはパニックになり体を固くしてしまって動けない。

すると前方からコツコツコツと足音が。



高級そうな革のブーツがロナの前まで来たかと思うと、その人物は彼女の手を取り心配そうな声色で言った。



「大丈夫ですか?」






この声は…!



「……エド!」



顔を見上げるとやはり彼だった。

彼女の顔を見たエドは当然ビックリしている。



ロ………ロナ!?






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