21 招待
出会い初めの頃から、彼らのエドに対する思いがただの"仲間"ということだけではない感じに疑問を抱いていた。なんというか、まるで不治の病にかかった者に対する悲壮的な思いというか…。
先日に彼らがそう思っている確証たる会話を耳にし、そして今朝、話を聞くだけでは想像もし得なかった[壊れたエド]を目の当たりにした。
そんな彼をめぐる彼ら、レイバー、ディール、アイトワ、他四人の対立もあり、私はまず仲間の統一を目指し作戦を立てたが、アイトワには『俺たちは絶交みたいなガキくさいことはしない』と言われ作戦は転じて話し合いとなり、それもこじれて結局皆バラバラとなってしまって、今に至る。
「………」
ロナは森の中でボーッと突っ立っていた。すると
「ロナちゃん」
「……!
レイバー…!
………ごめん、私余計なことしたみたいだ…」
レイバーは悲しそうな彼女に困った様に笑ってみせた。
「余計なことじゃないさ。
こんな風に話す機会がなかったら、今朝のことも、アイトワがしでかしたことでエドが今どんな風になってるか、とかも想像出来なかったし」
そう言ってロナの頭をなでなでする。
「……レイバー…」
そして次に彼女の両手をぎゅっと握った。
「…あのさ、今朝アイトワにあの日のことを言われたとき、エドは…実際どんな感じだった…?」
「……!
それは…─」
ロナは今朝のことを頭に思い浮かべる。そうすると今でも背中にぞくっとするものが感じられた。
少し躊躇われるものもあったが、ロナは心を決め、彼女が見たままのエドをレイバーに語った。
「──…………………!!」
レイバーはしかめた眉間に手を置く。
当時のエドを想像でもしたのだろうか、少しの間そのまま彼は言葉を失っていた。
そして再びロナを見つめ、尋ねた。
「その時のエドを見て、ロナちゃんはどう思った?」
「…どうって…」
今朝のエドは、まるで別人のようで、今まで彼の笑顔は私の心の支えとなっていてくれたけど、アイトワを殴ったその時の『笑顔』は、正直…
「……正直…少し恐いと思った…」
「…………」
そうか… とポツリと呟いたレイバーに向かってロナは でも! と続けた。
「私はエドを遠ざけたいとは思わない!!
あいつを助けたい!いつか嘘の笑顔が無くなるように、いつか、本当の意味で共に笑えるように、ずっとあいつを支えていきたいんだ!!だって……………だって、仲間だから…!!」
「!!………
…………はは、さっすがロナちゃん!」
レイバーはほっとしたように、そして本当に嬉しそうに笑顔になった。
「良かった……。
…じゃあロナちゃん、オレは今からエドの方へ様子見に行くけど…」
「行く!!」
ロナは元気よく、そしてキリッとした顔をレイバーに向ける。
そうだ、私たちが行こうとしていた街の隣にも町があって、エド達はそこで仕事を探しているんだった。
「─よし!!
行こう!」
二人は少しでも早く着くように、駆け出した。
◇◇◇◇◇
「─……………今、なんて言った?」
ここはエド達が仕事をしに訪れていたビスティという町。
いかにも下町な感じで、酒場では昼間から酒を入れ騒ぐものがいた。
ロナとレイバーはエド達を探しにビスティにやって来たのだが走って喉が乾いたので酒場に入ったところ、エドとともに仕事を探しに行ったレオイやロッジ、その他三人と出くわした。
何やら神妙な面持ちで話し合っていた彼らは二人を見つけると、必死な顔をして衝撃の発言をする。
騒がしい酒場ではうまく聞き取れなかったので、彼らは外にでることにした。
酒場で一部分だけ聞こえた単語から、ロナとレイバーはまさか、あるはずがないと思いながらも確認するように尋ねた。
「すまないが、もう一度、言ってくれ」
ロッジは再び一呼吸してだから…と続ける。
「兄貴が…エド兄貴が、王子様になっちまったんだよ!!」
「「…………は?」」
驚きというか呆れというか、とにかく意味不明なその言葉に二人は思考停止した。
そんな二人をみてレオイはロナ達が来る約一時間前に起こった出来事を話し始める。
「俺たちが仕事をとりに役場へ入ろうとしたときのことだった…─」
▽▽▽▽▽
「そこの者、待ちたまえ」
「!」
エド達が声のした方を向くと、そこには王宮仕えのような立派な身なりをした男が数名立っていた。
コソッ「兄貴…何かやらかしたんすか?」
コソッ「アホ。見るからにお偉いさんの奴らにやらかす一般人がどこにおるんや」
コソッ「え!兄貴一般人のつもりだったんすか!!」
コソッ「え…!?俺一般人やろ………!?………よな?いや、そーじゃなくて、お前らこそなんかやらかしたんやないとか」
コソッ「俺らは一般人すから!」
コソッ「とにかく、何の用か聞いてみましょうよ!」
コソッ「「おおう…!」」
「……何をコソコソしている」
「あぁ…!すまねぇ。
─あんたら…見たところ、お偉いさんの様だが、俺らに何の用で?」
ロッジの問いに王宮仕えの(ような)者達は首を横に振る。
「……?」
「貴様ら全員に向けての言葉ではない。
我々が用があるのは、─そこの長身の青い目の男である」
「「!!」」
長身で青い目の…
…って一人しかいねぇよ
「兄貴…!やっぱり何かやらか」
「やけなんもしとらんて!」
なんもしとらんけど…!
どういうことや…?
俺はこの国で有名人なわけでもないし、それどころか今日初めてこの国を訪れたのに…!
………!
まさか………………!!
コツ……コツ………と品の良い靴の音がゆっくりと近づくにつれ、ドクッドクッと全身の血管が脈打つのがわかった。
「兄貴…?」
兄貴…何にやけてんだ…?
コツ…コツ…
「……っ」
レオイ達を連れて、この場から逃げ出してしまおうかと思い、足に力を込めた瞬間─
バッ
「!?」
エドの目の前に、何かの用紙が突きつけられた。
「………?
………………!これは…」
よく内容を見てみると、そこに書いてあったのは
「ぶ…ぶとうかい…??」
どうやら、明日、この国の王が開く舞踏会についての伝令のようなものみたいだが…
そこでオホンと本当に王宮仕えのものが改まり、話を進める。
「つい先刻、この国の次期王陛下であらせられるキュイリアス姫が城下の様子を御覧に御訪問なさっていたのだ」
「…はぁ」
「明日の舞踏会はキュイリアス様の婚約者を探す場でもあるのだが…困ったことに、キュイリアス様は舞踏会に訪れるどの王子もお気に召さないと仰る」
「……へぇ」
「どうしたものかと、頭を悩ませていたところ、キュイリアス様が興味を示された男がいたのだ」
「そりゃあ…」
「─貴様だ」
「………え?」
エド達は耳を疑ったが、明らかに、男の目差しはエドをとらえていた。
レオイやロッジ達は口をあんぐりさせてびっくり目でエドを見る。当の本人も同じ様な顔をしていた。
「え…え?そしたら兄貴はどうなるんだよ…!!」
当然 というような平然とした顔つきで男は言う。
「もちろん姫の婚約者候補として城へと上がってもらうが」
「「えー――――!!!!」」
「兄貴、逃げやしょう!」
「!?
待て!なぜ逃げる!?
貴様にとって良い話ではないか!王位だぞ?」
エドはあんぐりしていた口をなんとか閉じ、やれやれといった風に腰に手を置いた。
「はぁ…。
残念やけど、お断り。
他あたってくださいな。
俺は権力とか、地位とかそういうの興味ないけぇ、すんません」
にこり、と彼らに微笑みかける。
「兄貴…!」
じーん
「…………」
しかし男たちはエドの返事を聞いても残念がる様子はなく、ただ淡々とこう言った。
「何を言っている。貴様に選択権はないのだ」
「……!…は」
「聞こえなかったか、貴様の意見など聞いてはいないと言ったのだ。これは命令。貴様が何と言おうとこの命令に背くことは許されない」
「何だとテメェ!!」
バッと右手を出しエドは部下たちを制止する。
「兄貴!」
「……嫌だと言ったら?」
彼の問いに、男たちはニタァと笑う。
「─…そうだな…。
貴様の目の前でその後ろの者達を縛り首にでもしてやろうか」
「「!!」」
「このっ─」「……わかった」
「「!?」」
「兄貴…!?」
何言って…
「…あんたらの………言う通りにしよう。
やけ、こいつらには手を出すなよ」
「兄貴!」
「フン、どの道貴様に選択権はないのだから同じことだがな。
それにしても、王位に興味がないとはなんと無欲な男か」
そうフンと鼻で笑うと、男らは自分たちが乗ってきた馬車の方へと向かうようにエドの背に手を当て促す。
抵抗もなく歩き出すエドに部下は喚いた。
「ちょっと!兄貴!
何バカなこと言ってんすか!あんた今、あの時のロナと同じことしてるんすよ!」
「そうすよ!
そういうことすんのが一番愚かだってこと、兄貴が一番わかってんじゃないんすか!?」
「あに─」
「あの時と今とじゃ状況が違うだろ!!」
「「!!…な」」
部下たちの言葉を遮り立ち止まったエドは、振り向き様に言う。
「─…じゃあな!」
エガオで短いその一言をあまりにもあっさり言い捨て、彼は役人たちと共に去っていった。
▽▽▽▽▽▽
「─…それで途方に暮れた俺たちは、取り敢えず兄貴をどうやって取り戻すか策を練ってたんだが…」
「相手が…相手なだけにな…」
「そんな…」
レイバーは顔を青くする。
そんな…こんなところで…!
─こんなところで…、こんな風にエドが居なくなるなんて…。
嫌だ…!嫌だ!こんなの…!!
俺はあいつが最後まで笑っていられるように見届けるって、あの日誓ったんだ…!
「どうにかならないのか…!?」
そう顔をしかめるレイバー。
そこでそれまで呆けていたロナが口を動かした。
「…取り敢えず街に来た奴らだけでも集めよう」
「!…ロナ」
「何か策でもあるのか」
「…………いや、残念ながらないが…。
だが、なんとかならないか可能性を考えるより、自分たちでなんとかするしかない!それが不可能と思われることでもだ…!!行動あるのみ!─そうだろう?」
「!」
「ロナちゃん」
「………そうだ…な…!」
皆の顔にほんの少しだけ明るみが戻った。
「だが考えないと何も始まらんがな…!!」
「う゛…」
「でも今は行動あるのみってのも確かだ!」
おし!じゃあ手分けしてディールたち探そうぜ!」
「おう!
って、ん?
そもそも何でお前ら二人はこっちの方に来たんだ…?」
ギクリ
「…や!まあ!そこは!
気にしないでくれ!」
「………?」
こいつらは本当のエドを知らない。
今下手に話しても話がややこしくなりそうだからやめておこう。
そしてロナ達はディール達を探しにまた隣街へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
小高い山にまるでおとぎ話の様な絢爛豪華な城、ナキーザがそびえていた。
城からは彼方地平線まで広がる国の街町が見渡せる。
窓の内からそんな景色を眺めながらキュイリアス姫は彼の訪れを心弾ませながら待っていた。
「…………あ!」
すると、一台の馬車が城門をくぐるのが見えた。
◇◇
「失礼致します。キュイリアス樣」
ガチャ
と応接間に入って来たのは近臣と例の男だった。
男は腰から剣を外され、後ろ手にしばられている。
「ケスト(近臣の名)!ごくろうさま!
嗚呼!やったわ、やった!やっと手に入れた!
理想の人!さあ、私にその顔を見せなさい!
面をあげよ!」
それまで跪き顔を臥せていた男は彼女の命令に応えゆっくり顔を上げた。
「…………!まぁ!」
まず姫の目に映ったのはとても美しいブルーの瞳。
そしてスッと通った鼻筋に、爽やかな、茶色がかったゴールドの短髪。
顔立ちはそこら辺の王子みたいになよっちくはなく、ただむさくるしくもなく、凛として精悍であった。
嗚呼なんて素敵なの!?
勿体ないわ、こんなに綺麗な顔をしているのにただの下民だなんて。
「ふふ、でももう私の物ね」
見たところ16歳程度のお姫様は椅子から男を見下ろして無邪気に笑った。
「姫樣。
わかっておいででしょうね」
ケストの声に姫は眉をひそめる。
「わかってるわよ。
どんなに顔が良くても所詮は卑しい地位の者。婚約を交わすのは他の王子とするわ」
そこで椅子から降り彼女は男の頬を掴んで告げた。
「折角政権を握れるチャンスだと思っただろうけど残念。あなたは地位が無いから無理なの。変わりにあなたと私の子が政権を握るわ」
「姫樣。
その男を連れてくる際無傷で済ますためついた嘘は無駄でございました。
それは王位や権力に興味がないのです」
「なんですって?」
「その男に仲間がおりまして、素直に応じない場合はその仲間を処刑するとしたところあっさりと。
なんと珍妙な者がおりましたことでしょうか」
姫は信じられないといった様子で小さな口が開いたままだ。
「………そう…欲のない男なのね…」
そうやって男を見つめる。
「…………っ!」
ぎゅうっ
「お嬢様!?」
「…!!」
キュイリアス姫は男を思い切り抱き締めた。
「気に入ったわ!!なんて完璧なの!?顔が良くて欲が無くてその上自分より他人思いなのね!」
「お嬢様!はしたのう御座います!」
ケストの言葉が聞こえていたのかいないのか、姫はとびきりの笑顔で言った。
「よくやったわ!ケスト!凄く嬉しいっ!」
「 ! …………」
ケストもつられてふ…と顔が緩む。
「…………」
抱きつかれたままの男は今までの二人の会話を聞きウンザリ顔をしている。
「そうだ!まだ名前聞いてなかったわ!あなた何ていうの?」
ここで初めて男は口を開いた。
「………………エド」




