20 ねじれ
彼らと共に旅を続けて約三ヶ月経った。
ここの船の船員達は愉快な者たちばかりで、特に船長は、どんな時にも笑顔で皆を率いる、強くたくましいやつだと思った。
─今日の彼を目にするまでは。
彼の笑顔は、一種のドラッグのようだとアイトワは言っていた。
一時の快楽を得るために笑顔をつくり、それを止めると、また体に刻まれた過去が思い出される。それを繰り返すうちに、笑顔に依存するようになってしまったという。
普段の彼からは、まったくその様な不安定な部分は感じられない。しかし過去の話になると、豹変こそしないが逆にいつも通りなのが不気味だ。
アイトワたちの口振りからしても、彼の過去は絶対いいものではない。なのに辛い表情をしたり泣き出したりすることもなく、いつものようにただ笑顔を見せる。
彼はどこか、壊れていた。
今日のような彼を見なければ、私はずっと彼の異常さに気付くことはなかっただろう。
彼は仲間に手をだした。
しかし感覚が麻痺したように、彼は"笑顔"ですまんと謝ったのだ。
あの仲間思いの彼が。
この船で、彼がこのような状態であるのを知るのは私を含めて八人。
全員の半分にも満たない。
最初にこの船に乗ったのが、エド、レイバー、アイトワ、ディールの四人。
この他に知る者がいるということは、誰かに話を聞いたということだ。
レイバーは勿論話すわけないから、アイトワやディールが広めたのだろう。
エドにバレてしまったから、もうアイトワ達は盗みはしないと思うのだが、いまだ思想的に対立するのがアイトワ側六人とレイバー一人。
彼ら表には出さないが、私には隔たりがあるように感じた。
─そこでだ、私は今日の仕事のメンバーをその七人と行こうと提案した。勿論皆に悟られないように!
エドのことは凄く気がかりだが、まずは仲間を一つにしなくては!!
仲間の危機は、仲間の私が救うんだ!!
さあ、成功させよう!仲直り大作戦!
◇◇◇
─ある森の中
「あのさ…ロナちゃん」
「うん?」
ロナ他例の七人は、仕事場の街へ行くため森の中を歩いていた。
アイトワ達が先頭を歩き、その後ろを少し間を置いてロナとレイバーがついてきているような感じだ。
「もしかしてこれってさ」
「…………」
「─仲を取り持つ気でもいんのかお前ぇ、ロナ」
「!!!!!!!!!!!!」
─バレてる…!!
ガガーン(心の効果音)
レイバーの言葉に続けるようにしてロナの大作戦をあっさりと明かす発言をするアイトワ。
─しかも両側に…!
ガガガーン(心の効果音)
ああ…ロナちゃんすごいショックって感じの顔してる…
アイトワはそんな様子の彼女を気にもとめず続けた。
「お前ぇ俺たちが何年の付き合いだと思ってんだ。例え意見が対立しようが仲間は仲間なんだ、んなガキみてぇに絶交!てなるわけねぇだろ…」
アイトワはとても呆れた顔をした。
─ガキって言われた…!
─てかすでに解決済み…!?
ガガガガーン(心の効果音)
「そ…そんな…。
張り切ってたのに…」
私の計画では、仕事の中で仲間の大切さを実感させる手筈だったのに…作戦を実行する間もなく終わった…!
いかにもがっかりというロナを見かねてレイバーがフォローを入れる。
「いや、でもさ、いい機会じゃん?ずっと俺らその話する度に対立したまま終わってたからさ、お互いを理解するって意味でここで話し合いでもどう?」
「……!」
レイバー…!
「………仕事は」
「エドの方も別の町で仕事探してるんだし、たまにはいいでしょ」
ということで、レイバーの機転により、約五年間も共に過ごしてきた仲間と今になって親睦会みたいなことをすることになった。─森の中で。
森の中の少し拓けた場所で、皆が輪になって座った。
「……………」
「………」
「…………………」
「……………」
「………………」
「……………」
「……………」
「…………」
誰も話さない。
─何を話せばいいんだ…!!
そんなどうしようもないことをロナがレイバーに目で訴えかけると、レイバーは苦笑いをしてじゃあ…と口を開いた。
「オレはレイバー・ウェンハム。26歳で、料理できます。
オレはもう余計なことしないでこのまま楽しく出来ればいいです」「─お前ぇが一番余計なこと言ってるけどな。自己紹介なんざ要らねぇだろ。この話し合いの意味が訳わかんなくなるだろが」
「「…………」」
少し沈黙が続く。
「わ、私はロナ・シュリッヒ!!この頃掃除をよくしている!!17歳だ!!
私は、とにかくこのままじゃいけないと思う!」「─お前俺の話聞いてたか」
「だって誰も話さないから…」
「じゃあ俺はディール─」「お前ぇものるんじゃねぇ!」
「……………ならばアイトワ。お前が話し合いを進めてくれ!」
「……ったく」
アイトワは大きな溜め息を吐き腕組みをして少し考え込む。
「アイトワ…?」
「─…………。よし」
そう言って胡座をかいた膝の上にパシッと両手を置くと
「俺はアイト」「─うぉい!!」
「あんたも余計なこと言ってんじゃねぇか…!!」
「いや…よくよく考えたら、この話し合いは正直に腹割って言わなきゃなんねぇだろ…?
今から俺が言おうとしてることを考えるとちょっとムードを軽くしときてぇと思ったんだが…。
それも無責任な話か…」
「あ?」
「どうした…?」
ロナは一人勘づいた。
もしかして…今日の…
「いや…もういい…。
腹くくって話そう…。
─俺は今日、あの日のことを頭に問うた」
「「!?」」
「は…?なんだって…?」
そう反応したのはディールだった。
「おい、てめぇ兄貴に何て言ったんだ…!!」
アイトワはディールの目を見て言った。
「頭は、憎くねぇのかと、何ともねぇのかと、そう…聞いた」「この野郎!!!」
「ディール!!」
ディールはアイトワに掴みかかりロナや他四人が押さえにかかる。
レイバーは立ち上がり、ただアイトワを見て絶句していた。
「てめぇ何てことしやがったんだ!!
兄貴が何ともねぇ筈ねぇだろ!!あの人が一番辛くて憎くてしょうがねぇ筈だ!!
おかしくなっちまうほど、壊れちまうほどの!
苦しみを持ってるのに!!
何で傷をえぐるようなことしてんだよ!!ああ!?アイトワ!!」
「アイトワ…お前、らしくねぇな…。年嵩のお前がどうしてそんな考え無しなことを…!!これじゃあ状況を悪化させたようなもんじゃないか…!!」
「アイトワさん!!どうして…!」
「……バレてたんだよ…」
アイトワは今朝のことを思い出すように、苦い顔をする。
「……あ?」
「だから全てバレてたんだよ!今までのこと、全部!
俺たちがあいつのために盗みをしてきたことも、何を盗んだかも!!
あいつはそれ知ってて!!
…ずっと黙って笑顔で知らねぇフリをしてたんだ…!!それで、カッとなっちまって…!!」
「……!!……………」
「……っ。
そんな…、エド兄貴なら、そんなこと知ったら絶対俺らをどやすと思ってたのに……。
何で今までしなかったんだ…?いつもガキに聞かせるような説教ばかりで…」
「ロナにも言われたが…。俺たちゃそう思い込みすぎてたみてぇだ…。
…俺たちが、そうあって欲しいと望みすぎたせいで今の、変わっちまったあいつを直視してなかったんだと思う」
「ロナ…?そういえば、何でお前が知ってるんだ?」
他四人のうち一人が尋ねる。
「ああ…。今朝アイトワとその話をしてて、そしてアイトワがエドに言ったところも見てしまったんだ…」
「アイトワさん…!!他にも知らねぇ奴がいるのにロナに話したんすか!?」
「ちがう。
あの日、俺とお前らが言い合いしてるのを偶然聞いてしまったんだ…!!」
「レイバー…!ロナ、そうなのか…」
「…うん」
「─…っそれにしてもだ!!
兄貴にカッとなって言っていいもんでもねぇだろがよ!!
ありえねぇ!お前!!」
「すまん…」
「謝って済むんなら保安官も要らねぇって話だ!!
なあ!ロナちゃん!!」
「え!?いや、確かに私は元保安官だが…。
ア…アイトワをそんなに責めないであげてくれ!
そもそも私がアイトワにその話題を出したのが悪かったんだ…!!」
「ロナは関係ねぇ!
俺がしっかりと自制してればこんなことにはならなかったんだ…」
「…チッ。もう話し合いなんかしても意味ねぇよ。あんたには失望した!アイトワ!!あんたが一番兄貴のことわかってると思ってたのに…!!
お前ら行くぞ!」
「なっ…ディール!!待て!」
ロナの制止もむなしくディールは他四人を連れてどこかへ行ってしまった。
「ア…アイトワ」
「すまねぇ、ロナ。暫く一人にさせてくれ…」
と言って、アイトワもディール達とは違う方向へと歩き出す。残ったのはレイバーとロナの二人。
「……………」
アイトワ…!話を進めるんじゃなくて更にこじらせて行ったんだが…!!
どうしよう…
仲間が一つになるどころか、更に細分化してしまった…
ロナはただ、途方にくれていた。
◇◇◇◇◇
一方、ある町
「嗚呼!じいや?」
「何でございましょう。お嬢様」
「明日はなんの日か知ってる?」
「はい。明日は舞踏会。お嬢様の婿殿を御決めいただく大切な日で御座います」
「そう、その通り。
でもね、私嫌なの。だって、来るのは前の舞踏会と同じ方々でしょう?」
「左様でございますが?なぜ?」
「あの方々の中に…、私のタイプの顔をしている王子はいなかったわ!!」
「その様に仰られましても、あなた様にはこの国のお世継ぎをお産みになっていただかなくては…!!」
「私ブスな子は欲しくないの!」
「お嬢様…!!」
「………!」
お嬢様は馬車から身を乗り出して何かを凝視した。
「お嬢様…?」
「じいや?」
「はい」
「良いモノ、見つけたわ」
「……はい?」
そう言って、お嬢様はニタァと笑みを浮かべたのだった。
今更ながら、アップテンポでごめんなさい




