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19 壊れた人間

なんだか長くなりました!すいません!






「はい、ロナちゃん。

今日は〜ロブスターのトラカオ焼きグリルバジルソース添えオリーブの実を乗せて〜です。

─召し上がれ」



「わあっ。ありがとう、レイバー!いただきます!」



「「…………」」



ロナに、いや正確にはロナの皿に、男どもの熱い視線が注がれていた。



「どー?」



「凄く美味しい!!ロブスターの身がふわふわしてて甘みがバジルソースで引き立っている!オリーブの香りもすごくいい!!まるで宮廷料理だな!宮廷料理食べたことないけど!」



「あはは!

それは良かった!そのロブスター、朝市で買ってきたから新鮮なんだ!」




二人の会話を呆然と眺める男共の脳内は満場一致で、



【あれ食べてぇ】



よだれが滴るやつがいるほどに。

そんな中、ディールが口火を切った。


「おいおいおいおい!

レイバー!ちょっと、いや、かなりおかしいんじゃねーか?」


「……何が」



「何がじゃねぇだろ!確心犯だろてめぇ!

なんだこの差は!!

何でロナが んな豪華な朝食で俺達が大皿のミートスパゲティなんだよ!!安上がりだな!」


「ああ、安上がりだ。

家計に優しくて助かったよ、ありがとう」


「─んなこと言ってんじゃねぇよ!俺達とロナの朝食の差をつけた理由聞いてんだよこっちはぁ!!」


ミートスパゲティグループはそうだそうだと野次を飛ばす。


レイバーはやれやれといった風に首を振る。



「…そんなの、わかりきったことだよ」


「…な、何だよ!」


辺りは張りつめた。

ロナの食事するカチャカチャという音だけが食堂に響く。




「それは……愛だよ」



ブーッ

エドが飲みかけていた水を吹き出す。


「うわ汚ったねっ!兄貴!」


「はは、すまんすまん…」


あ…愛、すなわちラヴやと…!?あいつ…この前嘘てゆうたやないか…!!

………ん?いや、そもそもなんで俺はこんなに焦ってるんや??

…まあいいか





「あ…愛……だと…?」



「そうだよ。愛だよ。

ロナちゃんとてめぇらには決定的な差がある。

それがなんだかわかるか?」


「性別か…!!」


「そこじゃねぇ。

確かにロナちゃんは可憐でお前らはむさ苦しいが。


─食への美徳だよ」


「は?んだよそれ」


「最初はいい食事をと色々気を遣ってたが、お前らはただただ貪るばかり。試しに一度少し傷んだ料理を出してみたら案の定気にも留めずに平らげやがった。」

「おい」

「美味しいとも言われずただ消化されるだけの料理を作る毎日。そこにロナちゃんが現れた。ロナちゃんはオレの細かな気配りにも気付いてくれ、何より凄く幸せそうに食べてくれた。だから俺はロナちゃんにはとびきり旨いもんを食べさせてあげたいと思ったわけだ。

味も気にしないお前らには何を食わせたって同じだろ?たまには豪華なもんも作ってやるが、普段はそれで充分だよ。もうオレにお前らに対する愛情はないからな」



「途中聞き捨てならねぇことがあったが………っ…何も言えねぇ…」




まるで熟年夫婦の喧嘩のようになった食堂の空間。

突如、レオイが口を出す。



「じゃあ!ディール!!お前このミートスパゲティの感想言ってみろよ!俺らも味くらい気にしてること、証明しようぜ!!」



なるほど!!


「…それでいいか!コック!」


「ああ…いいよ…」



ディールは勢いよくフォークを掴み構えた。緊張で手が震える。この一口で、彼らの今後の(食事の)命運がかかっているのだ。



スパゲティを慎重に巻き取り、ミートソースにしっかり絡ませた後、おそるおそるそれを口に運んで、入れた。

ゆっくり、しっかりと噛み締める。


皆が見守る中、スパゲティはディールの喉を通っていった。

そして彼は口を開く。










「わかったぜ…!味っていうもんが…!!」


「………言ってみろ」



ディール!!頑張れ…!!



「これは…!!





肉と、麺の味だ!」「帰れ」



「どこにだよ!!何が悪かったんだよ!」



「何が悪い以前の問題だてめぇは。帰れ、海に帰りやがれ」




「…はぁ……ディールに任せたのがバカだった…」



「ここはエド兄貴!お願いしやす!!」




「レイバーの作るもんはスパゲティでも何でも旨いんやからいいやろー。お前ら食べんなら先食べとくよ?いただきまーす」


「…………」

「つ…使えねぇ」



「エドはどっちにしろダメだ」


「あ?」


「こいつは味をわかってる。オレの料理もこんな風にいつも旨いと言ってくるからな」


「─いや逆にロナと同じもん食べさせてあげろよ…!!」


「ごめんな。数がない」


「いやいやいや」


「くそ…じゃあアイトワさん!!……あれ、もう食ってる」



アイトワは一人黙々とスパゲティを食べていた。



「…飯なんざ食えりゃいいじゃねぇか。てめぇらも一々細けぇこと気にしてんじゃねぇよ。─ごちそうさん」



そう言うと、席を立ち食堂を出ていった。

ロナはその跡を目で追う。



アイトワとレイバー…二人はあの日から少しギクシャクしてるな…



「………」

自然と食事する手が止まった。


何か私に出来ることはないだろうか…



男共のくだらない料理感想大会を肘をついて呆れ顔で聞いていたレイバーは、ふとロナの様子が気になり視線を移す。

しかし彼女に話しかけることはしなかった。



「おい、ロナどーした?」

「腹一杯か??」


「え」



そして食事を途中で止めているのを、男達は見逃さなかった。



「なんだなんだ、もう食べきれねーのか!しょーがねーな」

「俺達が代わりに食べてやるよ!」


「な…!」


「ほらその皿」


「「寄越せー!!!!」」


「わー!!」


一斉に男達がロナの皿目掛けて飛びかかる。

ロナは必死で皿を持ち上げ料理を死守する。

ぎゃーぎゃーと騒がしくなった食堂。

その様子を見てエドは楽しそうに笑った。

そしてそれを見たレイバーも、嬉しそうに目を細めた。




「く…くそっ」


こうなったら…!!


一方、追い詰められたロナはここで最後の手に出る。


バクッ


「「ああー!!」」


「こいつ…一口で食べやがった!」

「このやろぉ!!」


「×*▽◇$★#※●!!」


「いや、何言ってるかわかんねぇよ!!ロナ!!」



「ぶははははは!!なんやそれ!!ロナ!!頬っぺたリスみたいに膨れとるぞ!パンパンや!はははははは!!」



「#●◇$※▽×*@■%!!」


「はあ…お前らそんなに食べたいの?」


「当たり前だろ!」


男達はレイバーをギッと睨み付ける。



「だってお前の料理旨いもん!!」


「……!」


レイバーは腕をくみ、いつもの様に狐のような顔で笑った。



「ははは…やっと言ったな。というかヒント出してたのに…」


「……?」



「普段からその一言さえ言ってくれりゃ良かったんだよ…!」


「!じゃあ!」


男達は目を輝かせた。


「ああ、明日から差はつけないで中間の料理出してやるよ」


「ロナにあげたやつみたいなのは!?くれねぇの!?」

「そんなの毎日人数分作ってたらオレの身がもたないから!それに今日はそのミートスパゲティがあるだろ!」


「う…いや…そうだな!わかった…!!ありがたくいただきます!!」


「おう!」



「あ!兄貴何一人で半分も食べてんだよ!」


「お前らが騒いどるのが悪い」


「この欲張り!」

「食いしん坊!」

「天然!」

「大食い!」

「ガキ!」

「バカ!」


「なっ…バカとはなんやバカとは!」



「はいはい食事中に喋らない!また追加で作るから、待ってろ!」



困ったように笑ってレイバーは袖を捲る。

ロナは未だに口をもぐもぐさせていた。



「あ、ごめんなロナちゃん。ゆっくり味わせてやれなくて。それにもう毎日は手の凝った料理だせないし」



ロナちゃんには申し訳ないけど、エドも楽しそうだし、こいつらの口からもやっと旨いって聞けたし、自分としては満足なんだ。



ロナはレイバーを見上げる。



「…!」



彼と目が合うと首を横に振り、そしてにこっと笑った。リスみたいな頬っぺたで。



「…!…!!」



……か…かわいい



「……っ」



いつの間にか彼女へ伸びていた自分の手に気付き、少し戸惑ったあとその手を彼女の頭に乗せ優しく撫でる。レイバーは少し苦笑いをした。




危ない危ない…




そしてそそくさと調理場へと入っていってしまった。




…?レイバー?




「おい!ロナ!こっち来いよ!」「!」


先に食べ終わっていたエドと戯れていたレオイがロナを呼ぶ。


「むふ?」(まだ口に入ってる)

「はいこっち向いて!」


エドとロナは向かい合った。


「はい発射!」


ブシッ

ベチャッ「うっ……!」


「あははは!!ロナ砲弾!」



レオイがロナの膨らんだ頬袋を両手でぶったたき、その衝撃で口から飛び出たロブスターの砲弾がエドの顔に浴びせられる。

「てんめぇレオイ!兄貴になんてことしやがる!!兄貴!大丈夫ですか!?顔洗いにいきましょう!」


船員の若い衆はロブスターまみれになったエドを大いに笑い、年嵩の者たちは呆れながらも静かに笑っていた。



「…なんちゅう粗末なことを…。ああ、大丈夫やディール。一人で洗いいける。

それよりロナ大丈夫か?頬っぺた痛くな…」


エドは身震いがした。ロナの肩はわなわなと震え、物凄い怒気が伝わって来たからである。


「ロナ…?大丈夫か…?」

「ガアーー!!!!!!!!」



!?



ロナはそこにあったホウキをわし掴むとすでに他と遊び始めたレオイをはっ倒した。

すごい形相である。



「ぐ…」

「貴様はなんという礼儀知らずだあああああ!!」



ロ…ロナ…!?

誰だよ!




「食べ物で遊んだ挙げ句に人の顔にそれをぶちまけるなど言語道断!!ましてや私の頬を叩き口の中にあったものを吹き出させるなんて、礼儀を知らないにも程がある!!叩き潰してやる!!」


「ギャーー!!!!」


レオイは振り下ろされたホウキを間一髪で避けると、一目散に食堂から逃げていった。しかしロナもその後を追いかけ、ディールもフォークを持って一緒についていった。



「デジャヴだ…」

「………ロナ…ガアーーて言ったんやけど…」






「あそこまでやらないけど、もうロナで遊ぶのはやめよう…」







◇◇◇◇










「やってしまった…」






そこには、立ち尽くす二人と、床に倒れた一人がいた。

言わずもがな立ち尽くすのはロナとディールであり、倒れているのは気を失ったレオイである。

先程イタズラをされて怒ったロナは、エドにまで被害を及ぼされたのを怒るディールと協力し、二人がかりでレオイを追い詰め、仕留めたのはいいものの、さてはっと我に返るとレオイが起き上がらないことに気付いた。




「どうしよう、これ…大丈夫なのか…?」

「息をしていたら大丈夫じゃないか?」


「じゃあお前確かめてみろよ」


「嫌だ!もし息をしてなかったらどうする?」



「「…………」」




「「…………………!」」




「「アイトワー!!」」







◇◇◇








「大丈夫だ。この大きなこぶが元気な証拠だよ。

軽い脳震盪でもおきたんだろ、でもなんでこんなことに…」



「…なんでだろうな…ロナ…」


「ああ…それはかくかく然々なんだ」


言うのかよ!



「はははは!!成る程な!それはこいつが悪い。

でもなあお前ら…」


「「…!」」


「そんなに後悔すんなら手加減してやりゃいいのに…」



「「ごめんなさい」」



「…まあいいさ。

後は俺が看とくから、お前らはもうどっか行っていいぞ」



「ありがとう」



そう言って治療室を立ち去ろうとした時


「あ、……ロナお前はちょっと残れ」


「………?」



ディールが去ったのを確認すると、アイトワはロナを椅子に座らせ自分はレオイが寝ているベッドにドカリと座った。


「………アイトワ…?」


先程まで普通に振る舞っていた彼は、急に雰囲気が変わって暫し何か言うのを渋っているようだった。



しかし何かを決めた目付きでロナを見つめると、口を開いた。



「ロナ…お前…」


「着港!!着港!!上陸の準備をしろー!!!!」


彼が何かを言おうとした瞬間の次の街に着いた知らせが部屋の外で飛び交う。



「─……………」



「アイトワ…?」



「いや…やっぱりいいや…。すまん気にせんでくれ」




変に尋ねて無駄にあの事を知られるわけにはいかない…



「お前ももう行ってい─」

「─ディールが、……〈何か〉を盗んできた日のことか?」




…………!!




ロナの虚を衝く言葉に少し動揺するアイトワだが、すぐに平静になった。




「やはり…知ってたんだな…。

─…ディールか?」



「いや…。

実は…聞いてしまったんだ。

お前らと、レイバーが言い合いをしていたのを…」




「…………!

そろそろたちが悪いな。

どこまで聞いた?」



「…………エドが……誰かの身代わりにされたとか…なんとか…」



…!!!!



「…一番聞かれたくないところを……!!……はあ…」



アイトワは頭を抱えたが、すぐにロナに目を向け言った。



「誰にも、特に頭にはこのこと言ってないだろうな…」



彼の気迫に押されそうになるが、ロナも負けじと目に力を込める。



「言ってない…。

………でも」



「でも…?なんだ」



ロナは視線を一瞬下におろし、そしてアイトワをまっすぐ見た。



「でも、エドはもう……全て知っている気がするんだ」







「何?」



アイトワは眉をひそめる。



「何バカなこと言ってやがる。頭は気付いちゃいねぇ。ディール達の盗みが見つかった日も、そんな素振りは見せなかったし、五年間ずっと、そんなことはなかった…!これがいつバレたってんだ!」




「…これは私の憶測だ。言い合いを聞いてしまった日から、ずっと考えてたんだ…。


あの日、誰かが言ってたよな…。『兄貴はあの日から、ずっと笑っている』まだ私がお前らと出会ったばかりの頃、ディールも同じようなことを言っていた。"あの日"に、何があったのかは知らないが、とにかくその時から、エドはどんなことがあろうと、笑顔で全てを隠してきた。

じゃあ仲間が繰り返す奇妙な不法侵入は?

私だったら、"あの日"に起こったことがその不法侵入で調べ得たもので解決しうることならば、すぐに察しがつく。

今の私であれば問い(ただ)すが、もし"あの日"で壊れてしまったなら、それが出来ないのかもしれないな。

そしていつものように笑顔で見て見ぬフリをすれば、仲間とギクシャクせずに済む。


というのが、私の考えだ。ただの想像に過ぎないが、もしこれが合ってたなら…」




「エドはずっと俺らのことを黙って見守ってたってか…?」



「………!………ああ」



「…はっ」



アイトワは立ち上がり、ロナへと迫っていき、彼女を見下()ろした。



「俺とお前と、どっちが長くエドと共にいたと思ってんだ。

俺はあいつがガキん頃から知ってる。あいつがどんなやつかもな…!!お前よりはよく理解してんだよ!

知ったような口きくんじゃねぇ!!」


「長く共にいればいるほど…!!」


ロナも椅子を鳴らし勢いよく立ち上がった。



「─…壊れる以前のエドにとらわれて、今現在のあいつのことがわからないんじゃないか!?」



…………!!!!



「…なん…だと…!?」



「きっと、エドはわかってる。だから、もう無茶なことはやめろ。エドも盗みはやめさせたがってたじゃないか…!!

なあ!」

「じゃあ…!!

じゃあロナ、お前はあいつの過去を聞いて、それでもそんなこと言えるのか!」



「……え…」



エドの…過去…!



それを聞くと、情けない程に先程までの威勢が薄れてしまった。



いったい彼の身に何が起こったのか、彼らをここまで苦しめるものは何なのか…


きっとその全ての理由が、彼の過去にある。




それが何なのか…知りたい…!!







「お前には言っておく…。いいか、誰にも話すな。

絶対に」



ロナは少し躊躇ったが、覚悟を決めて、しっかりと頷いた。




「あいつは昔─」



「やめろアイトワ。」






!!



ドアの向こう側で、声がした。

ドアがほんの少しだけ開いていたため、こちらの声が漏れたのだ。



向こう側の声の…主は…










「……………エド」









彼は静かに部屋に入った。






「な…お頭、なんでこんなとこに…!上陸準備の時はいつも甲板じゃ…!」



にこっと笑顔を見せた。

「それが色々とあってな、顔を奥の方で洗ってたんだ。ついで今日のお前の様子が変だったから、治療室だったらアイトワいるかなーと思って」




ここでロナは彼に違和感を感じた。



……エド…?




「…ロナも言った通り、わかってたよ。ほら、この通り」



エドは(うし)ろに隠していた紙の束を取り出した。



「!!!!!!それは…!!」


「そう。お前らが必死で集めた盗品五年分。ついこの間見つけた。よくあんなところに隠したな!」


「かしら…!!」



「お前らが俺のために集めてくれたものだから、燃やしたりとかはしないが…内容は見た。もう終わりにしないか?アイトワ」



「………っ。

俺はただ…奴等が憎いだけなんだ…!!」


「………」



少しエドの笑顔が強ばった。




「俺は!!奴等に復讐してぇだけなんだ!!

なあ、おい!

お前は何とも思わねぇのか!」


「アイトワ」



「全てを奪われといて!何ともねぇのかよ!」


「やめろ」


「お前は…!!!!

エドり─」ガッ!!!!!!!!!!



「エド!」



エドはアイトワを左手で殴った。

ロナは慌てて彼を制止する。



「俺から全てを奪った奴等に復讐するかどうかは…!俺が決めることだ…!!

………。

……………!…っ」



エドは何かを抑え込むように、左手を右手で握り締める。




あのエドが…仲間のアイトワを…殴った……!?

でも別に怒りが頂点に達した故の行動でもなさそうだ…

だって…彼の表情は…



─笑っていた。


しかし狂気に満ちているわけでもなく、ただ静かに、口角を上げていたのだ。




ああ…

彼は壊れている…

あいつらが言う通り、エドは…壊れているんだ…




アイトワは殴られた拍子で床にしりもちをついている。



「………今のは…すまん…頭」


「…………」



エドは両手で顔を覆い、しりもちをつくアイトワと同じ視線になるようにしゃがんだ。



「……?」



「ばあっ!!」

「!!」


覆っていた手をバッと開き顔があらわになる。


「……!」


アイトワはキョトンとしていた。



「ははは!

俺もすまんかった!殴ったりして、っつってもこんな左手やけ力も入らんかったけどな…!痛くなかったやろ。

─全てを奪われたと言っても、俺にはもうお前らがおるけぇ平気や!」



そう、思いきりの笑顔で言った。





「─…っ頭」


「ほら上陸上陸!俺は先甲板行っとくけんな」



と、まるで何事もなかったように、笑顔でエドは甲板へと向かった…





アイトワに立ち上がる気配はない。




「……アイトワ」

「─確かに、お前の言う通り、俺は以前のあいつにとらわれて、全てバレているかもしれないという考え方を出来なかった、いや、しなかったというほうが的確かもしれない…」


「……」


「変わらないでいて欲しいと、強く願いすぎちまったのかもな…」


「………」


アイトワは殴られた右頬をさする。



「だがお前も見ただろう…。

あれが今のあいつだ…。

あいつをあんな風に歪ませてしまった原因は…過去にある。

もう今になってお前にそれを話そうとは思わないが…」


「………」


「ただ俺は…(かしら)をあんな風にした奴等が憎い…。

復讐してぇ…」


「アイトワ…」



「お前も…見たことあるか…?頭が時々夜の海を眺めて笑ってるの…」


「…!

そういえば…以前」


「きっとああやって、昔の記憶を抑え込もうとしてんだ…。俺はあの姿を見かける度、怖くなる。

今にも暗い海に飛び込んじまうんじゃないかって…」



「……!!!!そんな」



「ああわかってるさ…!!バカな考えだってのは…!!

でも…今のあいつは、何考えてんのか、わかんねぇ…」



「………」



「俺たちが出来るのは、奴等を憎むことと、あいつが一時だけ過去を忘れるための、笑顔に付き合ってやるくらいだ…」



「…っ」


ロナは何も言えなかった…

彼の過去を知る者が語るエドを、この目で見てしまったから…









一見、ただのお気楽な人物だと思っていた彼は、確かに、笑顔しか見せない何かが欠如した、壊れゆく人間だった…。

ロナがエドに違和感を覚えた点は、主に言葉遣いです。

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