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17 疑念

ある日の暁頃、数人の男達が未だ寝静まったままの街を慎重に駆け抜けていく。

今回は警告鐘を鳴らされずに済んだので、彼らの足取りは軽い。



「さあ、みんな、気を付けるんだぞ!!」(小声)


「「おー!」」(小声)



男達は街の港につけてあった船に架けた板を忍び足で静かに登っていく。

もう少しで船の上というところで



「お前ら…何をしている…?」


「「!!」」


この声は…!


男達が恐る恐る顔を見上げると…やはり彼女だった。



「何でお前がいるんだ!ロナ!!」(小声)



約数ヶ月前に新たに彼らの仲間となった少女、ロナが腕を組み、仁王立ちして彼らを見おろしている。


「いや、何だか今日は早く目覚めてな…。

なんとなく甲板に出て月を眺めてたんだが…。

というより、何故お前らが街の方から出てくる?寝ていた筈じゃ…」



「よりによってこんな日に何超早起きしちゃってんだよ!」(小声)



「ディール。なんで小声なんだ」



「しーっ!!兄貴が起きちまう!!とにかくそこどいてくれ!」(小声)



「ああ…」



ロナは横に避け、次々と登ってくる男達を見る。

するとあることに気付いた。


「………………ん?」



この面子は…



「おい待て」


「「!!」」



ロナはすぐさま船内に入ろうとしていた彼らを呼び止める。


「…な、何だよ」



「お前らまさか、…盗みをしてきたんじゃないだろうな…」



ギクゥゥ!!



「っわあ!!」



バサササッ



「あっバカっ!!」



男達のうちの一人が何かを落とした。


バサササ?


「…何だそれは…。盗品か?」


ロナが近づこうとすると必死にディールが前に立ちはだかる。


「ち…ちげぇ!!ただの紙切れだ!つか盗みなんかしちゃいねぇよ!」



「…じゃあその紙を見せてみろ」


「い…嫌だ!」


「エドに言い付けるぞ」



「「!!」」

彼らの顔は焦りの色で一杯である。


…反応からして、やはりあいつら盗みを働いたんだな。



「どうしてこんなことをする。後々困るのはエドなんだぞ。 そもそも賊の真似事なんて許されたものじゃない。

それを返せ」



ロナは促すように彼らに手をのばした。



「ディール、やっぱりもうこいつにも話し─」

「黙れ!

絶対駄目だ!」



「…?」


何の話だ…?



「これは…俺らの問題だ…

ロナを巻き込む訳にはいかねぇ。

だから…すまねぇが、見逃しちゃくれねぇか…」



「嫌だな。今は保安官でなくとも悪事の片棒など担ぎたくない。

それに、私を巻き込む訳にはいかないとは…随分みずくさい事言うんだな。

仲間なのに」



「お前の他にも知らねぇ奴はいる。

それに、これは悪い盗みじゃねぇ。世の為になる盗みなんだよ」



「そんな盗みがあってたまるか。仲間の罪は仲間が償う!仲間とはそういうものだろう!」


「…その仲間意識は嬉しい限りだけどさ、この状況では一番迷惑なんだわ!それ!」



両者はギッと睨み合う。


張りつめた空気が続く中、沈黙は突如切り裂かれた。ダッとロナがディールへと駆け出す。

ディールも身構えた、その時


バコッ


「あでっ」

「うおっ」


船室の扉が開かれ扉の前に立っていた者がそれにぶつかった。

「「!!!!」」



兄貴………!!!!

やべぇ!



「…なんなんお前ら…こんな朝っぱらから…ドタバタと」



ババッ


男達は瞬時に例の物を隠す、が



「エド、丁度いいところに。

聞いてくれ、こいつら、また盗みをしたみたいなんだ。

私の町で盗んだ時とまったく同じ面子で」



「!!お前ら」



「いや、ででででも!兄貴!

俺ら今回も何も盗めなかっ─」

「違う。ちゃんと今回は盗品があるぞ!!」



「!!」




ロナ…!!この野郎!



「……お前ら、とうとう…」エドの目付きが変わる。


「兄貴っ」


「今まで何回も盗みに行っとったのは知っとるが…どれも未遂に終わった。やから、お前らはただ無断侵入するんを楽しみにしとるんかと思ってたが…遂にやってしまったようやな」



エドはとても冷めきった表情で部下達を見た。

「………っ」

男達はたちまち背筋が氷る程の気迫で圧倒される。



「出せ」


「…っ…はい…」




……おぉ…

彼らと共に旅をし始めて早3ヶ月程になるが…

今まで一度もエドが仲間に本気で怒っているのを見たことがなかった…

成程、とても…恐い…!

普段温厚なやつを一度(ひとたび)本気で怒らせるとこんなにも危険なんだな…!



ロナはそんなことを思いながら、固唾をのんで彼らを見守る。


コツコツとエドは歩み寄り、部下が差し出した盗品を見た。

そしてそれにかかれているものを見て眉をひそめる。



「これは…」



「「………」」



「どうした、エド」


ロナはエドに近づき、同じように盗品の用紙を覗きこむ。


「………なんだこれ」

「お前ら、こんなの盗んで何がしたかったん」



用紙には、子どもが描いたようなぐちゃぐちゃの絵があった。



「いや…子供部屋に散らばってたんすけど、それに額縁でもはめたら高く売れるかと思って」



「………」



「…あほか。

つか、んなことすな」


ポカッ「あでっ」



エドはさっきの様子とはうってかわって呆れたように溜め息を吐く。しかしそれはどこか安堵しているかのようにも聞こえた。



「一体どんなものを盗んだのかと思いきや…。床に置いてあったもん拾って来ただけかいな。しかもただの落書き。

まあ、お前ららしいっちゃお前ららしいけど。

でも大したものじゃなくても盗みは盗み!

今日からお前らに罰掃除を命ずる!」



「「ええ〜!!」」



「"ええ〜"やない!

悪さしたんやけ、当たり前やろ!

時間は毎朝早朝!今日は今から!ありとあらゆるとこ隅々ピッカピカにするんやぞ!」



「「へぇ〜い」」



"いかにも"不満そうに船員たちは答え、掃除に取り組みに散らばり始める。



「その絵、どうする?」



ロナの問いにエドは笑顔を見せる。



「そうやな、戻しに行くんも危険やし、ただの落書きみたいやから船内にでも貼っとこか」



顔を出し始めた朝日が徐々にエドの笑顔に陰影をつけていく。─左頬が暖かい。


今では見慣れた筈の彼の笑顔。それはぼんやりと輪郭を失って、心の深層を温めながら体全体に染み渡っていく。そんな感覚にロナは陥った。



この感じはなんだろう…

とても……暖かい…



それはきっと太陽のせいだと、ロナは納得することにして、彼女も、今ではもういつも通りとなった笑顔で返事をした。



今日も変わらない楽しい一日が始まる。

そう思った。





◇◇◇◇◇◇◇◇









「だいぶ貯まったな」






エドから受けた罰掃除に取り組みながら、船員の寝起きする部屋で数人が一つのベッドを取り囲んでいた。


そのベッドの上に座り、アイトワは一人難しい顔をしている。


「確かに量はあるが、証拠としてはまだ弱い内容だ。

奴らとはっきりとした繋がりを示すものがあれば良いんだが…」


一人の男がアイトワが手に持つ何かの紙の束に、新たに"今朝盗んできたもの"を加える。



「でもさっきは危なかったな…!

まさかロナが起きていたとは。

まったく良かったよ…、フェイクも盗んでおいてさ。おかげで本物に気付かれずにすんだ」



そう言って、エドがさっき壁に貼った落書きの絵を見る。

エドはお洒落にしたかったのか、数枚の絵を不規則に並べて貼っていた。



「…今度やるときは、アイトワさん、あんたも来てくれ。

俺たちだけじゃやっぱり見落としてんのもあるかも知れねぇ。あんたがいねぇと」



アイトワは紙の束をベッド裏の底板に隠し、ああと静かに答える。




「なーに隠したの?

アイトワ」




!!!!




「…レイバー……」



出入口にはいつの間にかレイバーが立っていた。



「レイバー…!」



レイバーは相変わらず狐のような笑顔をみせる。



「なんてねっ。

中身はもう知ってんだけどさ。

…まだ続けるの?」



「…………」



「五年も続けていまだ収穫なし。

諦めたほうがいいんじゃない?

エドが必死で前に進もうと笑顔で頑張ってるのにさ、俺たちが過去に執着してどうすんの」




「─それが耐えられねぇんだよ!

兄貴はいつも笑顔でいる。あの日から、ずっとだ…!

過去のことは一番兄貴が忘れられない筈なのに、まるで無理矢理それを消しちまったみたいにヘラヘラしてんだよ!

兄貴は独りで抱え込んでる。

アイトワさんや、ディールや、レイバーお前にも泣き言一つこぼさねぇで…!

このままじゃ兄貴どうにかなっちまうよ!」



「だからと言ってその過去を蒸し返して何になるんだっつってんの…!

いくらお前らが頑張ってもし目的を果たせたとしても何が残る…?

何も変わらないさ…!

過去が消える訳でもない…。何をしようが望む未来は来ないんだよ…!」


「─おい」


「うるせぇよ!

だったら兄貴がどんどん壊れてくの黙って見てりゃいいのかよ!そんなの無理だね!

何かすれば変わるかもしれない!変わらねぇわけな─」

「黙れっつってんだよ二人とも!!!!!!!!」



ゴツッ


「「うぐっ」」



二人の額から鈍い音が出る。



「って…」

「す…すまん、アイトワさん…」



「もうそこらへんにしろ。

あんまり騒ぐと(かしら)に聞こえちまうだろ…。それと、……レイバー。

悪いが止めるつもりはねぇ。結果が変わろうが変わるまいが関係ない。ただ、エドを"てめぇ"の身代わりにして酷な仕打ちをしておきながら、自分はのうのうと平和に暮らしやがってる奴がいるのが気に食わねぇんだ」



「…勝手にすれば」



レイバーは立ち上がり部屋を出た。



………………!



部屋を出てすぐ目の端に映ったのは



ロナちゃん…!!



彼女は俯いた顔を少し青くして、壁に力無くもたれ掛かっていた。



「…………」



レイバーは部屋の中にいる者達に気付かれないように彼女の手を引き部屋から離れる。


誰もいない食堂に来たところでレイバーはロナを椅子に座らせ自分も彼女と向かい合わせるようにして座った。



彼女はいまだ俯いたままである。



「…………今の、聞いてた?」



細い首で支える小さな頭がコクンと縦に動いた。

レイバーはしまったな…という様子で片手を自分の頭に置く。


「…………」


「…エド、ずっと苦しんでたのか?」



「…………!」


…どう返事をしよう…

きっとロナちゃんに全てを話せばこの子は十中八九アイトワ側に回るからな…

出来れば巻き込みたくない…



「なあ、教えてくれよ…。

エドに隠れてあいつらは何をやってる?

エドが身代わりにされたってどういうこと?

お前らの過去に何があったんだよ!

どうして私に話してくれないんだ…!

なんでお前らだけで苦しむんだよ…。

…だいぶ前から、お前らの様子を見て少し疑問を感じてたんだ…。

その時はいつか話してくれる日が来ると、そう思ってた。

でも朝ディールが言ってたように、私以外にも知らない奴がいる。つまり私以上長くここにいる奴でも知らないってことは…いくら待っても無駄ということだろ…?」




………ロナちゃん…



「…………」



しかしレイバーは口を開かない。

そんな彼を見て、ロナはボソリと呟いた。



「…………エドに聞いたら、話してくれるかな…」




「…!それは駄目だよ!それは勘弁してやってくれ…。

…ロナちゃん、あのさ、オレはもう昔には縛られたくないんだ。せっかく自由になれたのに、皆まるで鎖に繋がれてるみたいでさ…、そういうの、嫌なんだよ。

オレはこのまま楽しく毎日が過ごせればそれでいい。

だから…ロナちゃんは何も知らないでおいてくれないかな…」


レイバーは上目がちなロナを見つめる。

エメラルドグリーンの綺麗な目が少し揺れた。



「…っ。

私はもう仲間なのにぃ……っ。

除け者だ…っ」



「あらら」


泣いちゃった


「ロナちゃん、ロナちゃん」


彼女の予想外の反応にレイバーは困惑し、とりあえず彼女の背中をさする。



ロナちゃんこんなことで泣く子じゃないと思ってたんだけどな…。

それだけ俺たちのこと大切にしてくれてるっていうことか…


ロナはまた俯いてしまった。

「………」










ぎゅっ



ロナは体が温かいもので包まれたのを感じて目をぱちくりさせる。

─レイバーに抱き締められていたのだ。



「─…レイバー、何してる」


「……ロナちゃんごめんね。

君は大切な仲間だけど、何も話せない…。

ごめん。

泣かないでくれよ…」



「…………」



ロナはハッと我に返り今の状況を把握すると、急に恥ずかしくなって体が固まった。

その時─



バンッ「レイバー!()るかー?次に行く街決まったんやけ……ど…………」


「あ、エド。ああいるぞ」



(ロナ)!!



(エド)!!



「……あ…」

エドはびっくりした様子で二人を見る。



ロナと…レイバーが…

……抱き合ってる…!!

こ…これは…!!


エドが思っていることを悟ったロナは赤くなった顔で弁明するが。

「ち、違うぞ!エド!これは」

「すまん邪魔した!!」バンッ


ドアを閉められてしまった。



「………」



「あれ…?なんか…ごめん。

ロナちゃん」



な………なんか…あらぬ疑いが…!





◇◇◇◇◇◇◇




─甲板




エドは立ち尽くしていた。



あれは……あれは…!……属に言う…


「……………ラヴだ…!!」


ピシャアアアア!(心の効果音)

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