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11 存在意義⑤

船の揺れが小さくなり、碇を下ろす音が聞こえる。




停泊か…?




ダグラの船はある地につけていた。



だんだんとロナたちがいる部屋へ足音が近づいてきたと思うと、バンと激しい音を立ててドアが開けられた。



「おはよーう!

未来の奴隷共。さあこれからてめーらの飼い主を探しに行くぜー?」




「!!」



…遂に来たか…



彼らの船が着いた地は、奴隷市場が盛んに行われているスレイバーケンという街であった。

街と言えども勢力は一国ある程だという噂で、保安隊もなかなか手が出せない状態でいる。

ただでさえ手がつけられない荒くれ共が一所に集まり街を作り上げ堂々と犯罪を犯せるのだ。

これ程恐ろしいことはない。




だから助けも来る望みは無いと。

あーあ、私の人生もこれで終わりか。




ロナはもう抵抗する気力もなく言われるがまま檻から出て船の外へと歩いて行った。










一方エドたちは船内の広間の卓上で地図を広げていた。





「人拐いの目的地は大体目星が付いとる。

スレイバーケンだ。

あの街が一番安全に高く売ることができる。

そこは現在地から北東に8時間ってとこやな…。

あれからかれこれ7時間弱…、奴等が既に着いとるとしたら一刻の猶予もない。

すぐに船を出したいところだが…」




エドはそろりと視線を上げてみる。彼の周りには10人程の部下たち。残りはディールのように負傷し直ぐには動けない者ばかりである。




「…まずこの動けなくなった船をここじゃない他の近くの安全な島へ引いてもらおう。

ヴィレッタは海賊やら盗賊やらが多くうろつきよるからな…。─そこで船大工を雇って俺らの動きと同時進行で船を直してもらう。

そしてアイトワ。お前医療の知識持っとったよな?

すまんがディールたちについとってくれんか」



「おう任せな、(かしら)


半ば40代のアイトワは元気に応える。



その応えにエドは微笑しつつ次の指示を他の部下達に伝えた。


一通り動きを教えるとエドは難しそうな顔をして



「さて…ディールの計画がうまく運べばいいんやが…」



とこぼす。



すると



「大丈夫っすよ!

万が一のことが起ころうと、俺らの逃げ足の速さに勝てる奴なんか居ねーっすから!!」



わはは

と部下達が笑う。




「はは…頼もしいわ」



エドもつられて笑顔になった。



「さあ気ぃ抜くなよ野郎共、俺らは別の船に移って今からスレイバーケンへと向かう。

…絶対保安官を取り戻すぞ!」



「「おう!!」」










頼むから…まだ売られんでおくれよ…

無事でおってくれ…ロナ…!










「ほう、ダグラ。

今回はなかなか上玉なやつを捕まえて来たじゃないか」





ロナは売買会場の奥にある檻に入れられていた。




「ああ、そうだろう?

そいつはある小っせぇ船に乗ってたんだが、そこのあたまがなんとまぁ貧弱でなあ、その女が身代わりになる始末で…」



「それは可哀想なことに」



がははは と笑い声が響く。




「あいつのどこが貧弱だ」



「あ"ぁ?」




その笑い声に割って入ったのはロナだった。ロナは両手を縛られたまま立ち尽くし、檻越しにダグラとブローカーを睨み付けていた。




「数人がかりでも倒せなかった上あんな卑怯な手を使っといてどっちが貧弱なんだか…!」




「なんだと!?」



ガシャン!!


ダグラはロナに掴みかかる。



「や、やめておくれよ!大事な商品に傷でもついたらどうすんだい!!」



ブローカーは慌てて二人の仲裁をした。




「傷物にでもしちゃあ高く売れるもんも売れなくなっちまう!

そしたらあんたも俺も骨折り損じゃないか!」




「…ふん」




ダグラは不満げに彼女を突き放す。

そのせいでロナは豪快に床に体を打ちつけた。



「…っ」



「だからっ!傷が…!!」




「その生意気な口叩けねぇように塞いどいてやれ」



ダグラはそう怒鳴るとご機嫌斜めな様子でドシドシと会場から出ていった。



「…ったく」



ブローカーは檻のカギを開け中に入りロナに近づく。そしてダグラの言う通りに彼女の口を持ってきた布で縛り塞いだ。



「むぐっ…」



「お前は女のくせにどうやら口が悪いようだね。もうこれでトラブルなんか起こさないだろう。頼むから最低でも顔を傷つけるようなマネはしてくれるなよ」



それから彼女を抱え壁側に移動させた。

ロナは終始睨み付ける。

ブローカーはそれを見て一つため息を吐いた。




「なんだい。助けが来るとでも思ってんのかい。

諦めな、お前もスレイバーケンの名は聞いたことあるだろう。

保安隊までもが迂闊に手を出せないこの街に敵う奴なんていないのさ。例えあんたのかつての仲間がどんなに強者だろうとな」



そう言うとブローカーは檻の中にいる商品の数と名簿を照らし合わせて、数が合っていたのかそのままどこかへと去って行った。




「…」




別に助けが来ることなんて端から諦めていた。この地の名は私のいた町にも届いていたからな。

たださっきダグラに噛みついてしまったのは…あいつをバカにされたから…かな。

無性に腹が立った。


たった三日しか共に過ごさなかったとしても…

あいつは私を受け入れて、すごく優しくしてくれた。

あいつの笑顔が…とても暖かった…





檻の中は広いが窓一つなく天井にぶら下がったランプだけがフロアを薄暗く照らしている。

壁の色もあってか、そこの空気はドンヨリとしていた。


どこかで子供のすすり泣く声が聞こえる。その子も誰かに売られていくのだろう…

そしていずれは私も…



ロナは固く目を閉じて口を塞がれたせいで言葉にもならないその名を呟いてみた。



「ふぇふぉ…」







◇◇◇◇



「アイトワ。

あとどれくらいで動けるようになる」




「そうだな…、早くて一週間ってとこかな」




「……」




ディールは顔をしかめた。


船外からは金槌を打ち付ける音がガンガンと鳴り響いている。

ヴィレッタでできるだけ速さの出る船を借り、船大工を雇って、動かなくなったこの船を別の島へ移動させることには案外時間がかからなかった。

あの街は賊のオアシスと言えども、金をせびったり喧嘩をふっかけてきたりしない真っ当な人間も中にはいる。

エドたちはちょくちょくヴィレッタを訪れていたので、快く依頼を請ける人間を粗方記憶していたのだ。






「不満そうだな、ディール」



アイトワがからかうように笑う。

ディールはベッドに寝かせられたままだ。




「俺があのとき奴等を見つけていられたら…こんなことには…」





「ははん。

お頭を奮起させたものの、当の自分は助けに行けなくてもどかしいって顔だな…。

やめろやめろ。

しけた面が更にしけるぜ。

それに、あんな暗闇じゃあ気づかないのもしょうがねぇ。


…お頭達なら心配いらねぇよ。それぐらいわかるだろ、お前なら。なんせ俺とお前とレイバーはあの人と昔っからの付き合いだからな」





アイトワは懐かしむように目を細めた。

しかしその反面、ディールは眉間にしわを寄せる。




「だからやめろって…

昔なんか…」




「やめろ…?

その昔とやらに固執して俺らは未だに探し回ってんだ。

今さら話に出すくらいでぐらついてんなよな。新人にも当たるんじゃねぇ」




「……」



二人の間に少し重い空気が流れる。

沈黙が数秒続いた後アイトワがため息を吐きディールの頭を軽く撫で、部屋から出ていった。


アイトワの足音が小さくなるのを聞きながらディールは目を閉じる。



真っ先に脳裏に浮かぶのはエドの笑顔。彼は昔もよく笑う人間だった。

そしていつだったか彼がよく世話になったという人が亡くなったときに見せたくしゃくしゃの泣き顔。

そして最後は─





ああ、やっぱ今でも思い出すのが辛い…






◇◇◇◇










エドたちが船を出して約8時間後


彼らはようやくスレイバーケンへとたどり着いていた。




「急げ!!野郎共!!

また会場で落ち合おう!」




彼らは仲間一人と船を海賊船ばかりが停まっている港に残し、各自の目的を遂行するためバラバラに散った。








頼む…間に合ってくれ…!










◇◇◇◇◇◇







「番号402出ろ。」




売人が奴隷を呼び、意気消沈な様子の奴隷が檻から出て連れてかれていく。


どうやら一人ずつ客に披露され、その場で競り落とされるようだ。

売買は既に始まっており、三時間ほど経った今檻の中の奴隷の数は半分程までに減っていた。


ロナはただただボーッとしついた。

─真横に一時間程前からピクリとも動かない奴隷が倒れているのを横目に見ながら。



口から血を流しているのを見て、恐らく舌を噛み千切ったのだろう。



奴隷を呼びに来るブローカーはそれに気が付いていないのか、はたまた気にも留めていないのか、どうする気配もない。







奴隷になるなら死んだ方がマシということか…

そうだな…私もいっそ死んでしまおうか。



─私の存在意義などもう有りはしない…




そうだ、死んでしまおう。








舌で歯を触り感触を確かめる。

そして上顎の歯と下顎の歯で舌を挟み、目を閉じた。







さようなら母さん、そして今からそっちに行きます、父さん。




舌に強く痛みが走った

─その時





ドカアアアン!!





何処かで激しい音がした。

そして会場の方だろうか、人の悲鳴やらが飛び交っている。




何だ…!?





暫くして通路の暗闇の方で男性の呻き声と倒れる音がした。



檻の中の者たちが目を凝らして闇を見つめる。すると闇から黒いコートを着てフードを深く被った人間が現れた。



その者は檻の前に来ると、さっき男性から奪った鍵を使って檻の扉を開きこう言った。





「もう自由だ。君達は裏道を通って港へ行け。保安隊の船が迎えに来ているはずだ」





この言葉を聞くや否や奴隷たちは歓喜し我先にと走り出した。

しかしロナは動かない。

何故ならこの声に聞き覚えがあったから。




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