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友情 6話

いつもより長いww

早く妹ちゃん出したい


あと、何気に前向きなサブタイになりました。というか、今までが重すぎたww

 HONDA制作自動車アコードツアラー。二〇三二年に発売され、二〇〇八年に発売された初代から数えて五代目、アコードワゴンから数えるなら九代目のワゴン車となる。


 結衣と黒谷の二人は、そのアコードツアラーの後部座席に座っていた。祐介は一樹の命令通り、二人を家まで送る為に自動車を運転してくれていた。


 初めて彼を見た時、どう見ても祐介の外見年齢は十八歳未満にしか見えないと思った。今目と鼻の先に見えている後ろ姿も、一度認識してしまうと同年代にしか映らない。

 某学園都市のピンク色の髪をした先生ならいざ知らず、現実にそのような特殊人物がいる訳はない。だからこそ実際の年齢も、結衣や黒谷の同年代であろうと踏んでいる。

 つまり、祐介は十八歳未満にも関わらず、自動車を運転しているということになる。


 もしも、二十年前の道路交通法ならば、警察に見つかるや否や五月蝿いサイレンを鳴らされ、車を止められた後に三人揃って事情聴取を受ける羽目になる。いや、そもそも話、彼が警察代わりなので、権力を振り翳せばなんとかなるかもしれないのだが……。


 しかし、現在の私達は捕まることはないだろう。何故なら、二〇二八年に道路交通法の改正が行われ、普通自動車の取得年齢が十八歳から十六歳へ引き下げが行われたからだ。


 同時に労働基準法も改正され、一六歳以上になると一般の社会人として認識され、十時以降の労働が可能になった。これは際限のない少子高齢化の余波によるもので、若い世代の労働者を増やそうという考え方からきているのだろう。


 事実、改正法案が施行されてから、深夜での学生のバイトが多々見掛けられるようになった。しかし、実際の所。この政策はあまり良いものとは言えない。深夜のバイトが学業に影響し、近代の学力低下が問題視されているのだ。また、十六歳以上の学生が深夜に外出することで、若年層の犯罪が急増しているのも理由の一つである。結果、事件解決の為に人員が削られ、人員が足りなくなるという堂々巡りをしているのだ。


 ちなみに私は、普通自動車免許は取っていないものの、普通自動二輪車免許を今春に取っている。ただ、白羽学園への通学方法は電車と徒歩なので、教習場を卒業して以来、乗り慣れていない為、今は乗れるか怪しいところだ。


 結衣は取り留めのないことを考えながら、隣で眠る黒谷の顔を眺めていた。骨が折れるほどの重症ではなかったが、至る所に怪我を負っている。祐介は結衣を家に送り届けた後、彼を病院にまで連れて行ってくれるらしい。


 ただ怪我を負うことにより、不必要にも身体に熱が篭もっているようだ。証拠に、額には数滴の汗が滴っており、辛そうな吐息を繰り返している。結衣は彼の額を拭おうと、手持ちのハンカチを取り出そうとする。


「えっと、仁田さんでいいですか?」


 運転席から落ち着いた声が掛けられ、結衣は手を止め、祐介へと視線を移動する。


「祐介さん、どうかしましたか?」


 祐介は、照れ臭そうに苦笑する。


「いえいえ、呼び捨てで構わないですよ。僕は色々あって、この仕事やらせてもらっているだけなんで。それに僕、お二人と同い年なんですよ」


 やっぱり、そうだったんだ。


「祐介君、見た目が凄く若いから。もしかしたらって思っていたんですけど」

「ええ。中学卒業と同時に、自衛隊に入らないか? って、スカウトされたんです」

「え……ス、スカウトッですか? それって――」


 本当に凄いことなんじゃ……。

 当たり前の話だが、ただの中学生や少し武芸に秀でた程度の人へ、自衛隊が勧誘に来ることはない。 その程度の人員を集めた所で、戦場では全く役に立たないことは自明の理だ。


 だからこそ大半の学生達は、自分にはない技術や経験を身に付ける為、白羽学園へ進路を希望する。結衣もその他大勢の一人である。

 祐介君と結衣や学園の皆では、比較にならない実力差があるのだろう。


 周囲から非難の声を受けた時の冷静さや余裕の在り方は、どこか黒谷君に通じる点がある。彼も周囲の人々から嘲笑の声を浴びようとも、それに怒り狂うような事はせず、冷静に対処していた。見た目は 全く違うけど、やっぱり何処か二人は似ている。


「って、言っても。二ヶ月前にやっと研修を終えたばかりの超新人ですけどね」

「研修って、どんな感じのことをしたんですか?」


 このままいけば、将来的には自分も自衛隊に所属することになるつもりだ。自分は戦闘ユニットとは違うが、どのような訓練を行なっているのか知っていて損はないだろう。


「白羽学園も実施していている――東京周辺、安全範囲圏外での実戦訓練ですよ。ただ白羽学園の場合、訓練時間が数時間程に制限されているんですよね」


 白羽学園のカリキュラムはVR機器での仮想訓練を主としており、その理由は幾つか挙げられる。

 まず、一つ目に物理的危険が低いことが関係している。学園のVR機器は戦闘用にチューニングされており、痛みがフィードバックするように設計されている。それは負傷に伴う痛みの耐性を付ける為に必要な措置である。


 しかし、仮想世界で怪我を負ったからといって、現実の身体が負傷した訳ではない。

 感覚が鈍る、熱が篭もるといった弊害が生じるものの、少し経てば痛みも引き、普段と変わらぬ生活を送ることが出来る。

 二つ目に資材の無駄な浪費を防ぐ為である。弾薬や爆薬等、資材自体は国が支給してくれる。だが、学園の全生徒が訓練の為に消費し続ければ、支給が間に合わなくなるのは自明の理である。そこにVR機器ならではの有用性が存在する。仮想空間内で弾丸や銃を創り出せば、訓練も弾丸の消費もどちらも解決するというわけだ。


 だが、仮想空間内でばかり戦闘訓練をするだけでは、実際に襲撃にあった時、全く対応できないという事態が起こりうる。その為、一年生の後期から、月に一度だけ安全範囲圏外へと趣き、実戦経験を積ませているのだ。


「うん、そうだね。生命の危険が、及ばない程度に考慮されているから……」


 事実は、もっと悲惨だ。


 いつ襲われるかもしれない不安や生死を掛けた緊張感は、予想する以上に重圧を掛けてくる。最近では随分マシになったものの、初めてこの訓練を受けた時には、制限時間を迎える前にリタイヤする人が続出した。例え、時間を考慮されていようとも、私達自身の技術や精神が未熟過ぎるのだ。今年の一年生はまだ体験したことはないのだが、彼等もまた自分達と同じ道を辿ることになるだろう。


「やっぱり、そうですよね。その点、自衛隊では訓練期間が長く設定されていて、最短で一週間。最長で一ヶ月に及ぶんです。一種のサバイバル訓練って感じだと解りやすいかな」

「って事は、その間の食料や拠点を全部自分達で?」

「ええ、携帯食料も支給されるんですけど……それだけじゃ絶対に足りないんです。ですから、先輩方から食べられる雑草や廃屋を活用した拠点造りを教えて貰いました。本当に毎日を生き抜く為だけに、知識や技を必死で学んでいたんですよ」


 結衣は祐介から黒谷へと視線を移しながら「凄いなぁ……」と、誰にも聴こえないような小さな声で呟く。


 丁度、その時。


 眠っていた黒谷が、不自然に身体を揺らす。

 ゆっくりと瞼を持ち上げると、二、三度瞬きを繰り返す。頭を左右に数回振り、結衣が隣にいることに気付いたのか、振り向いて首を傾ける。


「――あれ、仁田さん? ……どういうこと?」


 説明を要求する。と、言いたげな表情を浮かべる。


「黒谷君、おはよう。どうっていわれても……こっちが訊きたいんだけど。まあなにより、そんなに急に動いて大丈夫?」

「へ……ッぅ、痛ッ」


 起きた直後だからか、自分がどういった状態なのか把握していなかった。無理に身体を動かそうとした所為で、全身に痛みが駆け抜けて声にならない痛みに悶絶する。

 よく見ると、自分の身体に包帯やガーゼ、絆創膏で手当てをしてくれていることに気が付く。恐らくは、二人が応急処置してくれたのだろう。と、前向きに考えると、今の状況は悪いものではないらしい。

 考えたくもないことだが、最悪、何処かに監禁される。もしくは、殺されるといった可能性も挙げられたのだ。それに比べれば、百倍良いだろう。


「黒谷さん、平気ですか?」

「本当に大丈夫?」


 ボンヤリと考え込んでいた所為で、余計に不安を煽ったらしい。祐介と結衣が不安そうにこちらを覗き込んでいた。


「平気、平気。慣れてるから」


 右手をヒラヒラ振って誤魔化そうとするが……アレ? なんで、動かないんだ?

 ――ちょっと、待てよ……なんでないんだ?


「どうしたの?」


 怪訝そうな表情を見せながら、左手で右腕の二の腕に何度も触れる。その様子を不振に思ったのか、結衣は今さっきの黒谷よろしく、首を傾けていた。


「えっと――」


 言って構わないんだろうか? でも、言わないと話進まないしなぁ……


「……?」

「先に言っておくけど。同情とか要らないし、あんまり周りの人にも言い触らさないで欲しいし、気持ち悪いとか思わないで欲しいし、知っているなら教えて欲しいし――」


 グダグダと建前を並べる黒谷に苛立ったのか、結衣は顔を真っ赤にして怒る。


「もう、何の話しているのか分かんないよ!! 同情もしないし、言い触らしたりもしない、気持ち悪いとかも思わない。あと知っているなら、ちゃんと協力するから!!」

「全くもう、そんなに私、信用ないかな……」と、結衣は不貞腐れたようにボヤつく。

「えっと、ゴメン。じゃあ、言うけど……」


 ごくり、と前と横から唾を飲み込む音が聞こえる。

 私の話を真剣に聞きなさい。的なノリじゃないんだから、適当に聞いてもらわなきゃ恥ずかしいんだけど。まあ、いいか。


「腕に着けてたリストバンド。何処にあるか知らない?」

「えっと……リストバンド?」

「リストバンドですか?」


 二人共心当たりがないのか、首を傾げている。


「何ていうか……そう、真っ白の布を輪っかに繋いだみたいな感じのやつ。右腕の二の腕辺りに着けてた筈なんだけど……。無くなっているみたいで」


 結衣は暫く唸っていたが「あっ、もしかして」と、何か思い当たったらしく、膝下に置いてあった救急箱を取り出す。留め金を外し、箱の蓋を持ち上げる。


「えっと、コレだよね。手当の邪魔になったから、取っちゃったんだけど」


 結衣は訝しげに真っ白な布を観察しながら差し出してくる。

 汚れのない純白、厚さ一ミリ程度、半径三センチの輪。

 間違いない。これは、俺が無くした物だ。


 黒谷は結衣からリストバンドを受け取るのに、右腕を伸ばすようなことはせず。わざわざ身体を乗り出して左腕で受け取ろうとする。


 その不自然な動作は、少なからず結衣の注目を引いてしまう。


 その時、右腕の二の腕から先が、力なく垂れたのを結衣は見逃さなかった。


 結衣は黒谷へと身を乗り出すように詰め寄る。黒谷は突然の結衣の行動に呆気にとられてしまい、身動きが出来なかった。結衣は躊躇なく彼の右腕を掴む――その瞬間、強烈な違和感が結衣を襲った。


「っっ!?」


 驚きのあまりに無意識の内に、黒谷から距離を取ろうとしていた。

 変だ。あまりにも変だ。おかし過ぎる。

 結衣が彼の右腕に触れた瞬間、彼の様子とは相反して右腕は微動だにしなかった。普通、唐突に腕を握られるような状態に陥れば、人間はそれに対して無反応ではいられず、大小はあれども行動に出る。


 腕を振り払う。


 震える。


 といった具合に。


 それだけじゃない。彼はさっきまで怪我に苦しみ、熱を発散させるために汗を掻いていた。現に彼の額には数滴の汗が見えている。

 しかし、右腕だけは違ったのだ。


 発汗の消失


 そして知覚消失、運動麻痺の三つから考え出される答えは一つ。


 彼の右腕には、抹消神経が存在しない。恐らくはあのリストバンドは、抹消神経を繋ぐ為の医療キットに違いない。


 現実は余りにも悲惨で、結衣に想像以上の衝撃を与えた。何か言わなくちゃと思っても、それを口に出すことで彼を傷つけてしまいそうで、何も言えなくなる。安易に同情しない、受け入れると言っていた自分を殴ってやりたい。こんなの、こんなのって……ないよ。


 黒谷はそんな結衣の様子を見て、結衣が自分の状態を悟ったのだと理解し「……嫌なもの見せて、ごめん」と口に出していた。


 黒谷は結衣から視線を逸らし正面を向くと、右腕の袖口を巧妙に捲っていく。二の腕辺りまで服を捲り終わると、そこには腕半分以上に渡る古傷が露になる。指先からリストバンドを通し、二の腕まで持ち上げると古傷を隠すように着ける。


 純白の布が淡いライトブルーの光を発光する。黒谷は何度か右腕を持ち上げたり、右手の指先を開いたり、閉じたりしながら調子を確かめる。

 誤作動はないようだ。


 車内に重たい空気が流れる。息が詰まりそうになる。結衣はただ沈黙するしか出来なかった。彼の事を同情している自分では、この雰囲気を変えることは不可能だと悟ったからだ。

何分間、沈黙を貫き通しただろう。いや、まだたった数十秒かもしれない。体内時計が、まるでネジが外れたように壊れている。


 そんな重たい雰囲気を消し飛ばしたのは、他でもない黒谷であった。


「祐介さん。俺、ここで降ります」


 黒谷の突然の言葉に、祐介と結衣は思わず彼の方を見る。


「黒谷さん。そんな怪我しているんですよ!! 病院に行かなくちゃ……」「黒谷君、そんなに大怪我しているのに……」


 二人は言葉途中で、それ以上何も言えなくなってしまう。

 彼がどうしてそんな事を言ったのか理解してしまったから。


 自分の所為で、居心地悪そうにしている二人を気遣ったのだ。


 彼の虚実な笑みが、物語っている。彼の微笑みは一見、もう自分は大丈夫だと。二人に告げているように感じさせる。だが、その奥底にはそんな明るさよりも悲惨な自己犠牲が隠れている。

試験の時だってそうだ。

 自分一人が悪者になろうとした。

 彼等の敵意を、私から自分へと向けさせるように煽った。そうすることで、彼一人が馬鹿にされる代わり、私を助けてくれたのだ。


 けれども、それは彼が持ち合わせる一面に過ぎない。彼だって、本当は辛い筈だ。国中の人から批難され、罵られることに、平然と対処出来る訳がない。慣れられる訳がない。表面上では明るく振る舞っていようとも、それは裏で辛い現実と戦っているのだ。


(だからこそ、私は決めたんじゃないのか?)


『本音で接し合える友達になりたい』


 なら、こんな所で――彼の障害を知った程度で揺らぐ訳にはいかない。それがどうしたの? と、堂々と胸を張って受け止めてあげられる度胸がなくちゃいけないんだ。


「なら、私も降りる」


 結衣は二人に聞こえるよう、堂々とした口調で告げる。

 黒谷と祐介は、それぞれ別種の驚きを浮かべている。


「仁田さん? まだ、家の近くじゃ……」

「黒谷君を、家までは見送ってあげたくて」

「……えっと。俺の怪我を心配してくれているなら、大丈夫だよ? これぐらいの怪我、慣れてるから」


 その言葉は本心からきたものだろう。彼は私達とは違い、アグレッサーとの戦争では、最前線に立つ機会が多い。その分、怪我に対する耐性も強いのだろう。事実、十数人に寄って集って袋叩きにされたにも関わらず、彼は存外平気そうにしている。


 だけど、そんなことと、私が彼を送ることとは関係ない。


「うん。でも、せめて家までは送らせて。目の前で傷ついている人を、見過すような人間にはなりたくないから」


 黒谷は困った表情を浮かべた後「うーん」と、少しの間考え込むように唸る。考えが纏まったのか、再び顔を合わせる。


「俺と一緒にいるとこ見られると、変な噂が流れるかもしれないよ。そしたら、迷惑が掛かるかもしれな――」


 いい加減、彼の自己保身がウザくなってきた。

 彼自身としては、私の身を案じているのだろうが。私にとっては迷惑千万だ。


「――私は全然構わないよ。そんなの言いたい奴に、幾らでも言わせて置けばいいのよ。それを一番知っているのは、あなたでしょ? 黒谷君」


 黒谷は結衣の口からそんな言葉が飛び出るとは思いもよらず、間抜けながらも呆気に取られる。

 だが、その一言で黒谷を動かすには事足りた。

 黒谷にとって結衣は学園でも指折りの美少女であり、あの事件を起こした自分が、生涯関わることもないと勝手に思い込んでいたからだ。しかし、彼女はいつの間にか自分を見透かした。堅く閉ざしている檻を打ち破ってくれたのだ。

 気付けば、黒谷は表面上だけの偽り笑みではなく、本心から笑みを零していた。


「ああ。陰口を叩かれるのは、慣れっこだから」

「なら、決まりだね」


 結衣はそう微笑んだ。

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