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不穏 1話

 仁田結衣は、今までに何度も読み返し、皺の出来た古びた雑誌をそっと閉じた。

 この雑誌には、一年前の事件で他界した父のことが記載されていた。父親はフリーのライターで、アグレッサーと呼ばれる地球外生命体を追いかけていた。

 

 そして十年前。

 アメリカロングアイランドにて突如出現した正体不明の浮遊物体。それは地球に地球外生命体が訪れたことを示していた。ただ、彼等が乗ってきたのはマンガや洋画等に存在するような円盤の形状ではなく、意識を持った機械の集合体だった。

 アグレッサーの宇宙船は、アメリカ全土を包み隠すほどの体積があり、当時のアメリカは太陽が当たらない暗黒世界と化していた。


 九月五日。宇宙船より無尽蔵のアグレッサーが降下し、たった数時間の内にアメリカを支配するに至るという事件を起こした。

 当時、国際連合の名の下に、世界中の国々が軍事力を集結させた。

 だが、アグレッサー陣営の圧倒的な戦力の前では、例え戦闘訓練を受けたプロの軍隊といえども、状況を巻き返せるだけの力は無く、ただ人間側の犠牲者だけが増え続けていった。


 それから十年後。

 世界の約八割がアグレッサーの支配下に収められ、日本も東京を除く全ての土地を占領された。


 そもそも、アグレッサーの核を構築する金属、【水晶金属】は、地球上に溢れる鉄、銅、亜鉛から希少金属である金、銀、バナジウム等とは全く性質が異なる。

 水晶金属は耐久性も優れていることながら、何よりも注目すべき点は、人間で言う所の言語機能、神経を兼ね備え、生命維持活動を行うことを可能にする意思を持った金属ということだろう。自律的な活動は勿論のこと、ただ闇雲に暴れまわるのではなく、個々が目的を持った行動を起こすのが確認されている。

 これは、人間でいう所の脳に近い役割を果たしていたのだ。

 彼等がただ無能に、純粋に暴れ回るだけならば幾らでも手の打ちようはあったのだろう。しかし、アグレッサーは互いに情報を共有し、緻密な作戦の上で行動することにより、より確実性を増した侵略を可能にしたのだ。


 そうして、十年の歳月が経った現在。

 人類は、再び地球の支配権獲得の為に、アグレッサーと戦争を継続している。


 現在の日本は、元々の少子化の影響があったのか定かではないのだが、人員不足問題が深刻化している。

特に人員の減りが激しいのは、生死の危険性が最も高いアグレッサーと戦う【ユニット】達である。そのような風潮があってか、学生の内からアグレッサーと対峙する為、戦闘技術を学べる白羽学園が建設された。

 仁田結衣もまた、白羽学園の第一期生として学園に通っていた。


「……あっ、もうこんな時間」


 結衣は掛け時計を眺めると、時計の針は八時を過ぎていた。私がぼんやりしている間に、時間が大分過ぎていたようだ。いそいそと鞄に自作NPCノートパソコンとスマートフォンを突っ込むと駆け足で家から出ていった。



「はぁはっ」


 黒谷湊は荒い息を吐き出しながら廃都市を疾走していた。黒を基調としたファスナー式の上衣に、同色のカーゴパンツと厚底ブーツ。腰にはピストルベルトが巻かれ、背中にウージー、両手にはファイアセブンが握られている。


「相手はたった一人だ。回り込んで追い詰めろ」


 誰かが声を張り上げた。


 黒谷は即座にファイアセブンをガンベルトに収納する。

 代わりにM67破片手榴弾を取り出すと、安全レバーに取り付けられているクリップを外すと、安全ピンの先をまっすぐに戻す。人差し指で安全レバーを押さえ込み、安全レバーを引き抜くと同時に、声の発生源へと向かって投げつける。


 一、二、……五秒後。爆発音と共に、複数の悲鳴が聴こえてくる。

 同時に、腰に手を回してウージーを構える。安全装置を解除すると、姿勢を低くしたまま敵がいる方向へと駆け出す。

 T字路を右折すると、敵の有無を確認するよりも先に引き金を引く。毎分六百発の発射速度で9×19㎜パラベラム弾が射出される。


「うわあぁぁっ」「があっぁぁ」


 丁度、Tの字を左折しようとしていた二人組に出会し、彼等が照準を自分に向けるよりも先に撃ち殺す。四十発の弾丸を撃ち切り、胸ポケットから弾倉を取り出して弾丸の補充をしておく。

 今さっき倒した二人のうち、一人が自分と同じウージーを所持していた。もしやと思い、彼の所持品を探ると、換えの弾倉が出てきたので頂いておく。


 黒谷は周囲の様子を探ると、無数の足音が至る方向から聴こえてくる。どうやら先程の奇襲で、敵側に自分の居場所が割れてしまったのだろう。

「……どうする。黒谷」

 この場にある物、状況、自身の身体能力を考慮した上で、何か手はないか考える。

 確か、一対多数の場合。ランチェスターの弱者戦略を活用できる筈だ。

 狭い場所に逃げ込み、一対一の状況を作り出す事が勝利への近道なのだろう。


「いたぞ! こっちだ」「オペレーションγで敵を狙い撃て」


 黒谷は敵から逃げるように逃走を始めるが、的確な判断で逃げ道を防いでいく。

 大通りを走るのは危険だと判断し、建物と建物の僅かな隙間を見つける。迷うことなく隙間へと飛び込むと、いまさっき自分が居た場所に銃弾の雨が降り注ぐ。

 手に汗握る恐怖を感じながら、走る速度を一層に早め、向かいの塀を乗り越える。


 ――だが。

 誠に運の悪いことに、塀の向かい側に偶然にも通り掛かった敵の姿があった。

 一早く黒谷の姿に気が付くと、散弾銃のイズマッシュ・サイガ12を向けた。

(――ヤバッ)

 咄嗟に腰のファイアセブンを引き抜き、相手に向けて構えると、同時に引き金を引く。5.7㎜弾が着弾する直前に、相手の散弾銃が火を噴いた。

 無数の破片が発射され、僅かな距離を詰める。

 黒谷は覚悟を決め、両手をクロスして頭を覆った。


 全身血塗れ状態で黒谷は、背中を壁に預けていた。

 弾丸の大半が腹をめり込み、一部は突き破っている。あまり傷の大きさで痛覚が麻痺しているのが幸いなのだろう。止血剤で血は止めたが、大量の血を失ったことで目眩が襲い掛かり、平衡器官に異常を来している。こんな状態で敵に見つかれば……


 瞬間、目の前をひとつの影が横切った。その主は一度通り過ぎようとしたようだが、黒谷の存在を認めると、足を止めてこちらに振り向く。


「――見つけた」


 口が三日月のように吊り上がり、慢心の笑みを浮かべていた。

 そいつは仲間を呼ぶことをせず、ゆっくりと一歩を踏み出しながら近付いてくる。

 その悠長な時間が恐怖心を刺激してくる。手に持ったCZ75SP‐01が鈍く光る。

追加マウントブロックにはバヨネットナイフを装着したタイプであるらしい。

そいつは俺の首を掴み、ナイフへと近づける。ナイフの照準を俺の右眼に向けると、勢いよく振り落とした。


「がぁあッァ、ァっ」


 言葉にならない激痛が全身を駆け抜け、大量の血液が飛び散った。瞳が発熱源であるかのように熱を発し、次第に熱は全身に回っていく。


「もっとだ。もっと苦しめよ。命乞いしてみせろよ! 僕の両親はお前に殺されたんだ。両親と同じ痛みを受けろ。報いろ。報いろよ」


 何度もナイフを俺の身体に突き刺し、その度に血が飛び散り、ナイフは真っ赤に染まっていた。

 俺は朦朧とする意識の中、もはや声すら発せられない状態へと追いやられていた。

 そんな俺の状態を認めたのか、そいつは俺の頭に銃口を押し付ける。


「死ね。犯罪者め」


 銃声が鳴り響き、意識が暗黒の世界へと堕ちていった。

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