異世界に転生したキャンプ女子、マナ通販で快適ソロキャンプしてたら精霊神の使いと誤解されました!
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焚き火のはぜる音を聞いていると心がわくわくしてくる。
パチ、パチ、と乾いた薪が割れる音を聞きながら、私はチタンマグカップに注いだ紅茶を一口すする。
鼻に抜ける香りと、ほんのりしたしまりのある苦みが心地よい。
かなり日も傾いてきている。
ああ、今日もいい一日だ。
――ここが異世界だってことを除けば…だけど。
私が転生したのは、深い森と澄んだ川が広がるファルディア大陸という場所らしい。
私の名前は森山 澄香。28歳の女だ。
週末にソロキャンプへ行くのが生き甲斐の高校の美術の教師だった。
徒歩キャンプの帰りに駅に向かう途中で事故にあったらしい。
その時のことはあまり覚えてない。
気づいたら、身一つで、この場所に倒れていた。
目を覚ます前に神様的な――正確には、相手は精霊神と言っていたが、
『死んでしまうとはなにごとだ!?今一度、チャンスをやるから改めて自然の恵みを感じるがよい』
と、理不尽に怒られたような気がする。
そうして与えられたのが、《マナ通販》という能力だった。
この世界に満ちるマナを媒体に、私の記憶に刻まれた「日本の通販サイト」を疑似的に再現する。
疑似的というわりには、本物のような気がする。
マナを自在に操る能力を得た結果、そのマナを使って私の記憶にあるものを再現する。
それをあえて名前をつけるとするならば、《マナ通販》ということなのだろう。
とりあえず、そのおかげで素行の悪い生徒のことや、苦情だらけの親御さんのことなどを考えずに
私は今、森の開けた川辺で、ソロキャンプを満喫中だ。
もう、ボイン先生と陰口をたたかれることもない。
ドーム型テントはファミリー用の大きめのもので、徒歩キャンプなら絶対に持っていかないものだ。
折りたたみ式コンパクト焚き火台は、軽量コンパクトなものでテントとは真逆のものだが、
こういうちぐはぐ感も異世界ならでは…ということにしよう。
ランタンはLEDで充電式。手に入れた時にはすでに充電されていた。
もし充電が切れた場合には、ポタ電をマナ通販で手に入れれば充電できそうだ。
この世界の人たちの文明レベルはわからないが、きっとテンプレの異世界設定だと思う…。
川のせせらぎ、木々を揺らす風、鳥の声。
日本で見た景色と似ているのに、どこか空が高い。
そんなことをぼんやり考えていた、その時だった。
――ガサッ。
藪が大きく揺れた。
反射的に立ち上がり、焚き火台の横に置いてあるバトニングに使ったナイフを手に取る。
「……誰?」
出てきたのは、泥にまみれたいかにも冒険者風の男女二人だった。
女性のほうは意識が朦朧としているようで、剣士らしい男性が肩を貸してようやく立てているようだ。
「ようやく森を抜け出せたか…?」
男性が剣を杖代わりに女性を抱えながらよろよろと近づいてくる。
私は慌てて駆け寄り、男性の反対側から女性をささえるように肩を差し出した。
「何があったんですか?」
「迷いの森に…」
そこまで言って男性が意識を失い、崩れるように倒れた。
もちろん、私はそんな二人を支えることなどできずに同じように倒れることになった。
シングル用のエアーマットを二つマナ通販から取り出し、焚き火台から少し距離を話したところに置く。
30秒で勝手に膨らむ便利なやつだ。
二人をそれぞれ寝かせて状態を確認してみるが、特に怪我などはしていないようだ。
疲労が溜まっていたのだろうか?人の姿を見て安堵して気を失ったとかかな?
と、思いつつも特に目を覚ます様子がなかったので、
キャンプの醍醐味と言えば、ステーキでしょ!ということで私は準備を始めることにした。
もちろん、材料も器具もマナ通販でサクっと手に入れました。すごく便利。
まずはキッチンペーパーで表面の水分をしっかり取り、塩をしっかりめに両面に振る。
それから黒胡椒振った後、にんにくを薄く塗って、さらにオリーブオイルを薄く塗る。
今回はフライパンでなく、スキレットを使う。
油は少量でよく、肉を置いたら触らない。これ鉄則。
2分ほどしっかり焼き色をつけたら、裏返して同じく2分ほど焼く。
そして、肉の横にバターを落としてローズマリーを入れる。
スプーンで溶けたバターを肉にかけながら焼いて、
これを片面ずつ、5分ほど。
焼いた後はアルミホイルで軽く包んでさらに5分放置する。
あとはカットしてお皿に盛り付け。
黒胡椒と岩塩をさっと振る。これで完成だ!
そこまでするとタイミングよく女性のほうが目を覚ました。
「ここは…?」
「気が付いたみたいね。ちょうどステーキが焼けたところだから食べてみて」
私がそう言うと女性は初めは怪訝そうな顔をしていたが、
自分が手当されていることや、エアーマットに寝かされていたことなどから
瞬時に状況を理解したみたい。
「助けてくれたのね…。ありがとう。なんとお礼を言えばよいか…」
「ぐごごごごっ!!」
突如として巨大なイビキが辺りに響き渡った。
と、同時にパーン!と風船が破裂するような音がしたかと思うと
男性がごろごろと3メートルほど転がっていった。
何事かと思ったが、どうやら女性が男性の頬をひっぱたいた音らしい。
「ちょっと、いつまで寝てんのよ!助けてもらったんだから、あんたからもお礼を言いなさい!」
何が起こっているのか理解できないまま、頬に手を当てて、男性は放心したように辺りを見回していた。
男性の頬はすっかり腫れ上がっていた。
「すまない。改めて礼を言わせてくれ」
「いえ、気にしないで。それよりステーキが焼けたところなので、どうぞ召し上がってください」
「ありがとう。何日も何も食べていなかったので助かる」
そう言って二人はお互いに頷きあうとステーキを一口食べ、固まった。
「これは…」
「嘘、何これ?無茶苦茶おいしい…しかもやわらかくて脂身も多い」
「こんな肉は食べたことがないぞ…」
「肉って、硬くて味が薄いものかと思っていたけど、こんなにおいしいものもあるのね…」
うーん、なんだろ。特に変わったことはしてないつもりだけど…。
異世界とは調理の仕方が違うのかな…?
でも、二人がすごくおいしそうに食べてくれるので作ったほうとしては大満足。
「塩や黒胡椒がうまいことお二人の味覚にあったのかな?」
「え?まさか、そんな高価なものを使ってくれたのですか?」
二人がすごく申し訳なさそうな顔をして、こちらをみつめてくる。
「いえいえ、そんな大したことはないので、遠慮しないでください!
それより、何日も食べてなかったってのは、どういうことなんです?」
食後に改めて、二人はこれまでの経緯を話してくれた。
なんでも、このすぐ隣に広がっている森は「迷いの森」として有名で、
森に入って戻ってきた人は、ごくわずかなのだとか。
それでも中に入っていくのは、森の奥に遺跡があって、多くの貴重な宝が眠っているという伝説があるせいらしい。
なんとなくわかっていたけど、二人は冒険者でその遺跡を目指して入ったものの、
散々道に迷った挙げく、食料も尽きて彷徨っていたところ、遠くに見えた明かりに向かっていって
この場所にたどり着いたようだ。
多分、冒険者ランクCとかDとかその辺かな…?知らんけど。
男性の方は、私より年上の30歳で戦士(あくまで自称と思うけど)で名はルード。
細身の筋肉質な体形で、栗色の髪に茶色の瞳をしている、顔はブサイクとは言わないが、イケメンでもない。
それは頬が腫れ上がっているためなのかもしれないが…。
今は、短髪のおたふく面といった印象だ。
女性のほうは、イエラと言い、支援魔法を得意とする魔法使い。歳は56歳と言った。
聞き間違いかと思ったが、その時、ようやく気づいた。
彼女はエルフなのだ。耳がとんがっている。髪は腰まであるロングヘアで金髪碧眼の嫉妬してしまうほどの美少女だ。
見た目は20歳くらいに見える。
エルフもいるし、魔法もあるのかこの世界は!
っていうか、エルフも森で迷子になるのか!?
「遠くに明かりが見えた時には、これは精霊神の導きに違いないと確信しました!」
ん?とエルフの女性の言葉に私は引っ掛かりを覚える。
まさか、このエルフの女性を助けたいばかりに私を転生させたのでは…と微かな疑問が沸き起こる。
「あれは…火ではないようですが…光の精霊の力か何かですか?」
と、テントにぶら下げてあるLEDランタンをイエラが指さす。
「光の精霊…そんな大層なものでは…いや、まあ、そんな感じですかね…」
「すごい!光の精霊の加護を受けておられるのですね!!
やはり、精霊神様がここに導いてくださった!!」
イエラは涙を流しながら感激している…。
焚き火を囲んで二人の冒険譚を聞かせてもらった。
迷宮とかにミノタウロスとかほんとにいるらしい。
二人が出会った時の話とか、ルードが欲を出してミミックに食べられそうになった話とかすごくおもしろかった。
かなり夜も更けてきたので、二人に今日はここに泊まっていくよね?テントは広いから3人余裕で寝れるよ?
と話すとそれはさすがに申し訳ないと渋ってきたが精霊神の御心だよ?というと素直に従ってくれた。
夜は冷えるので、コットを三つ(マナ通販から)取り出し、その上にインフレータブルマット、電気毛布を敷く。
もちろん、電源はポタ電だ。
シュラフも三つ用意する。
二人は興味津々だ。
特に電気毛布の暖かさにびっくりしている。
「これは、いったい…」
「うーん、なんでしょうねえ…大地の精霊の力といいましょうか…」
「なんと、大地の精霊の加護まで!!」
私の半分冗談のつもりの言葉が誤解されてしまった…。
受けると思ったから言ったのに…。
「そうか…私たちは精霊神に導かれ、精霊神の使いと出会った…ということか…」
ええええええ、なんでそうなっちゃうの??
と思ったが、否定すると話がややこしくなりそうだったので、もうそのまま寝ることにしました…。
翌朝、二人は回復し、旅立つ準備をした。
「本当に、ありがとうございました」
「元気になったみたいでよかったです」
「こちらこそ、精霊神の使いの方に出会えて感激しております!」
「………」
二人が去った後、平原はまた静けさを取り戻した。
「なんか、誤解されたみたいだけど、まあ、いいか。二度と会わないだろうし…」
初めての異世界の人との交流に感激と後ろめたさを感じつつ、私は空を見上げた。
「次は雪中キャンプとかしてみたいな。この世界に雪は降るのかな?」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
5/8(金)も21時過ぎに別の短編を投稿しようと思っていますので、
よかったら見に来てください。




