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十時十分、十字路で。  作者: 七賀ごふん
寂しがりや

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2/25

#2



眩しい光と騒々しい音は扉を閉めただけでピタリと止まった。たった一枚の板を挟んだだけで、ひとつの世界を遮断したかのようだ。

ジャケットを羽織り直し、暗くじめっとした裏路地を行く。

抱き合っている男女や地面に伏せて吐いてる者をたまに見かける。初めて来た時は驚きや嫌悪感を抱いたはずだけど、二度三度来ただけで慣れてしまった。


この順応性は大人になって身につけたものなんだろうか。子どもの頃の方が吸収が早いとばかり思っていたけど、自分は大人になってからの方が何でも上手くこなせた。知らず知らずのうちにコツを覚えた。仕事も人付き合いも要領が良くなったように感じている。「こういうものだ」と割り切ることが一番の秘訣かもしれない。

深く考え過ぎないこと。

それはただの妥協に近いが、考え方さえ変えれば人間は死ぬまで適応し続ける生き物らしい。


ひとまず終電には間に合い、改札を抜けていつもの乗り場、いつものシートに座った。

ここが一番ホッとする。電車に揺られ自宅の最寄り駅で降りた。途中コンビニに寄り、ビールを二本、つまみになりそうな物をカゴに入れてレジへ向かった。

ふと通り道のスイーツ置き場に目が留まる。

迷ったものの、適当なケーキをひとつ手に取った。


「……疲れた」


自宅に安着し、息をつく。買い物袋をテーブルに置き、鞄をソファに放った。

すでにバーでも飲んでいるが、家で飲むことに意味がある。プルタブを開けてビールを胃に流し込んだ。

二十代半ば、これが自分の日常。仕事は真面目に、プライベートは適当に、人付き合いは程々に。

無難な人生だ。

死ぬまでこうして生きてくんだろうか。同じ会社で、ずっと独りで。……恋愛もしないで。


憂鬱な気持ちになりかけたが、そのための酒だ。あっという間に一本飲みきり、二本目を開ける。

一気に仰ごうとした時、買ってきたケーキを思い出した。苺の乗ったショートケーキ。つけてもらったプラスチックのフォークを添えて、じっと眺める。


「お前も……もう二十五だよな」


確かちょうど、明日が“彼”の誕生日だ。

だから買ってしまった。明日はきっと一日中部屋で寝て、外へ買いに行くことはないだろうから。

清心は毎年この日にケーキを買っている。

自分が食べる為ではなく、大切な人に贈る為に。十年前、自分の前から姿を消した少年のために贈る、最低限の祝福と、罪滅ぼし。


「ごめん……」


何年も何年も、同じことを口にする。それが自分にできる唯一の償いだった。





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