ちゃっぴーの日常8
俺はちゃっぴー今日もギルドで飲んだくれている
「もう一杯!」
木製のジョッキをカウンターに叩きつける音が店内に響く。周りの冒険者たちは既に見慣れた光景で誰も気に留めない。
「マスター!エールもう一杯!」
カウンター奥から髭面のマスターが黙ってジョッキに泡立つ琥珀色の液体を注ぐ。俺はそれを奪うように受け取り、喉を鳴らして飲み干した。
「ぷはぁ~最高だぜ!」
妻でギルドの受付嬢のエフィーナは言う
「ほらちゃっぴー、飲んだくれてないで薬草採取行ってちょうだい」
「新人冒険者はどうした?」
「ほら初心者ダンジョンができてそっちに行ってるのよ」
とエフィーナは言う
「それに、最近近くの森で新しい薬草が発見されたみたいなのよ」
「へぇーどんな奴なんだ?」
「詳しいことはわからないんだけどね、とにかく貴重なものらしいわよ。それでギルドから依頼が来てて……」
「なるほどなぁ……で?報酬は?」
「銀貨五枚よ♪」
「うーん……まぁ行ってみるか」
「ありがとう!助かるわ」
「おう任せときなって!」
「ねぇちゃっぴー」
カウンター席に腰掛けていたエフィーナが背後から声をかけてきた。今日は白い制服姿ではなく私服姿だ。長い銀髪を結い上げた姿は妙に艶っぽい。
「んあ?」ジョッキを傾けながら振り向く。「どうした?仕事が溜まってんのか?」
「違うわよ」エフィーナは小さく笑いながら隣の席に座った。「あなたの噂話よ」
「俺の?」怪訝そうな顔で聞くと彼女は続けた。
「ええ。『ちゃっぴーの初心者訓練所』が大人気になってるわ」
思わず吹き出しそうになった。まさかあの酔っぱらいダンジョンが人気になるとは。
「まじかよ……」
「本当よ。毎日行列ができてるわ。初心者冒険者たちが列を作って待ってるくらい」
エフィーナは優雅に紅茶を一口飲みながら言った。「今日も朝から予約待ち状態だったのよ」
「へぇ……」俺は感心した。「そんなに盛況なのか」
「おかげでギルドの売上も大幅アップよ」エフィーナが意味深な笑みを浮かべる。「あなたへの報酬も増えたわ♡」
「おおっ!それは嬉しいニュースだな」思わず声が弾む。「いくらぐらいになったんだ?」
「今までの三倍よ」エフィーナはさらりと言った。
「三倍!?」椅子から転げ落ちそうになる。「嘘だろ……」
「嘘じゃないわよ」エフィーナはくすりと笑った。「毎週銀貨百枚よ。どう?」
「……」
言葉が出なかった。いつもは週に三十枚程度だった報酬が三倍以上になっているなんて。しかもこれは安定収入として計算できる。
「これなら安定して飲んだくれていられるな」ぼそりと呟くと、エフィーナは呆れたような表情を浮かべた。
「まったく……あなたって人は」
「冗談だよ」慌てて訂正する。「でも正直助かる。このお金で新しい封印具も買えるだろうし、それに初心者の被害がなくなるのはいいことだ」
初心者冒険者の怪我人は常に問題になっていた
それが改善されるとなると将来的にはおおくの冒険者が増え、町や周辺の村が安全になる
小型モンスターの農業への被害も減るだろう
「そうね」エフィーナは柔らかく微笑んだ。「それに最近では中級者以上の冒険者も指導に来てくれるようになったわ」
「おお」感心する。「意外だな」
「彼らにとっては経験値稼ぎの効率がいいみたい。低級モンスターを相手に技の練習ができるから」
「なるほどねぇ」
確かにあのダンジョンは低級モンスターしか湧かないように設計してある。しかし魔物を倒すことで得られる経験値は本物だ。初心者にとってはありがたい環境だろう。
「それで?」エフィーナが急に身を乗り出してきた。「報酬の使い道は決めたの?」
「まずは封印具だな」俺は真面目な表情で答えた。「あれがないと俺の力は不安定すぎる」
「そうね」エフィーナは納得したように頷いた。「でもそれ以外は?」
「……考えてない」
「でしょうね」彼女は笑いながら言った。「それじゃあ提案なんだけど」
エフィーナは身を寄せて小声で話し始めた。「新しい封印具を買うついでに、二人でお買い物デートなんてどう?」
「おデート?」思わず声が裏返る。
「ええ」彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。「ずっと忙しくて二人っきりの時間なかったじゃない?たまには普通の夫婦みたいに過ごしたいなって……」
「そ……そうだな」俺は照れ隠しにエールを煽った。「行きたい店とかあるのか?」
「魔法道具店に行きたいわ」エフィーナが目を輝かせて言う。「最新のアイテムを見てみたいの」
「へぇ……」
普段はギルド業務に追われる彼女がこんな風に個人的な願望を口にするのは珍しい。きっとストレスも溜まっているのだろう。
「よし」俺は決断した。「次の休みに行くか」
「本当?」彼女はパッと顔を輝かせた。「嬉しい!」
「ああ」頷きながら考える。ここ最近はダンジョンの件で色々ありすぎてプライベートな時間が少なかった。「たまにはのんびりするのも悪くないな」
「じゃあ詳細は後で詰めましょう」エフィーナはウキウキした様子で立ち上がった。「私はもう少し仕事を片付けてくるわね」
「おう」
彼女が去った後もしばらく考え込んでいた。初心者ダンジョンの成功、増える報酬、久しぶりのデート。すべてが不思議と上手くいっている気がする。
「おい!ちゃっぴー!」
突然背後から声がかかり我に返る。振り返ると常連の男たちがテーブルを囲んでいた。皆酔っ払って赤い顔をしている。
「おい聞いてるのか?」
「ああ悪い」苦笑いしながら立ち上がる。「なんか用か?」
「例のダンジョンの話だよ」一人が言った。「お前が作ったって噂になってるぞ」
「ああ」肩を竦める。「まぁそんな感じだな」
「凄いぜ!」別の男が酒瓶を振りながら言う。「うちの息子が通ってるんだが、毎日楽しそうに帰ってくるんだ!」
「そいつは良かったな」素直に嬉しく思う。
「ああ!」男は興奮気味に続けた。「それに報酬も増えたんだろ?エフィーナちゃんから聞いたぞ!」
「ちょっとはな」曖昧に答える。あまり詳しく話すのは面倒だし。
「羨ましいねぇ」別の男がぼやく。「俺も金が入りゃいいんだが……」
「だったら働けよ」思わず突っ込むと皆が爆笑した。
「そうだな!」最初に声をかけた男が笑いながら立ち上がる。「よし!乾杯するぞ!」
「乾杯!」
一斉にグラスを掲げる。騒がしい声と共に酒場の時間が過ぎていく。これが俺の日常だ。冒険者の酒場で酔っぱらい達と馬鹿話をして、時々エフィーナに叱られて。
それでも今日みたいな日は悪くないと思える。初心者のために作ったダンジョンが人々の役に立っているという事実が、妙に誇らしい気持ちにさせてくれるからだ。
「なあみんな」俺は周囲の仲間たちを見回して言った。「今夜は俺のおごりだ!好きなだけ飲め!」
「やったぜ!」歓声が上がり、新たな乾杯が始まる。
明日からはまた仕事がある。冒険者の日々は続く。だがたまにはこんな夜があってもいいだろう。酔った頭で考えながら、俺は新たなジョッキを掴んで乾杯の輪に加わった。
俺はちゃっぴー今日もギルドで飲んだくれている
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