ちゃっぴーの日常6
俺は飲んだくれのちゃっぴー、今日もギルドで飲んだくれてる
「おいおい、冗談じゃないぞ、これをつけてると完全に犬扱いじゃないか」
エフィーナは悪戯っぽく微笑んだ。「でも効果はあるでしょう?封印具として使えば力の抑制にもなるわ」
「確かにそうだが……」俺は首輪を受け取った。「新しい封印具ができるまでの一時的な措置だよな?」
「もちろんよ」エフィーナは肩をすくめた。「永久にこのままなんて言ってないわ」
マークが咳払いをした。「えっと……お二人さん?ペットプレイで盛り上がるのはいいんですが、ちょっと落ち着いてもらえませんか」
「ああ、すまん」俺は我に返った。「それで、これからどうする?」
「まずは報告書の作成ですね」マークは紙束を抱えながら言った。「魔狼の特徴と今回の戦闘データをまとめていただきます」
「面倒くさいなぁ」俺は椅子に凭れた。「別に必要ないだろ」
「必要です!」マークは強い口調で言った。「特にちゃっぴーさんの戦闘方法は参考になりますし、何より今回は魔物化の原因を探る重要な手がかりになるかもしれません」
「まあ……そうだな」仕方なく納得する。「エフィーナ、手伝ってくれるか?」
「いいわよ」彼女は微笑んだ。「でもその前に村長さんに挨拶に行かないとね」
村長の家に向かう途中、俺たちの周りには自然と人だかりができていた。先程までの戦闘を目撃した住民たちが好奇心と恐れの入り混じった表情でこちらを見ている。
「すごい人気ね」エフィーナが小声で言った。
「ああ……」俺は疲れたような声で答えた。「俺はただ平和に暮らしたいだけなのにな」
村長の家に到着すると、老人は深々と頭を下げた。「助けてくださりありがとうございます」
「気にするな」俺は軽く手を振った。「それより被害状況を教えてくれ」
村長によれば、畑は一部壊滅的な打撃を受けたものの、人的被害はなかったという。また、近隣の村からも同様の襲撃報告が入っているとのことだった。
「やはりスタンビードの前触れなのか……」俺は眉をひそめた。
「可能性は高いですね」エフィーナも深刻な表情で同意した。「このまま放置すれば被害が拡大するのは時間の問題です」
「ギルド本部に応援を要請しましょうか?」マークが提案した。
「いや、それでは遅い」俺は首を振った。「今のうちに根本原因を突き止めないと」
「それなら、私たちで調査しましょう」エフィーナが言った。「ちゃっぴーと私がペアを組めば効率よく進められます」
「賛成だ」俺は頷いた。「ただし封印具なしでは危険だからな……」言いかけて首輪に手を触れた。
「この首輪で我慢しよう」俺は決意を固めた。「一時的な措置だが、少なくとも力を過剰に出し過ぎる心配はない」
こうして俺とエフィーナはペアを組んで森の探索を開始した。封印具としては強固な鎖付き首輪をエフィーナに手綱にされ歩くのは正直気恥ずかしかったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
「このあたりから異常な魔力を感じるわ」エフィーナが立ち止まった。森の奥深くに差し込む陽光が葉の間から地面に斑模様を作る。
「本当か?」俺は耳を澄ませたが特別な音は聞こえなかった。
「ええ……ここよ」彼女は特定の方向を指差した。
そこにあったのは苔むした岩壁。特に何もないように見えるが……
いや、よく見ると岩肌に不自然な亀裂がある。
「洞窟か?」近づいてみると確かに人の通れる穴が開いていた。奥からは冷たい風が吹いてくる。
「どうする?」エフィーナが尋ねた。
「入るしかないだろう」俺は剣を抜いた。「何かあるとすれば、こんな分かりにくい場所だろうしな」
エフィーナが先導し、私はその後に続いた。暗闇の中を進むにつれ、湿度が増していく。岩肌からは水滴が滴り落ち、足元が滑りやすくなっていた。
「灯りが欲しいわね」エフィーナは呟いた。
「俺が持とう」俺はポケットから小さなランタンを取り出し点火した。「これなら十分明るいだろう」
光の中で洞窟の内部が露わになる。壁には濃厚な魔力が蓄積しており、それが魔物を呼び寄せていた理由がなんとなく分かった。
「こいつだな」俺は壁の一部を指差した。そこだけ紫色に染まり、脈打つように明滅していた。
「魔石の欠片ね」エフィーナが分析した。「かなり古いものだけど、まだ活性化してるわ」
「つまりこれを除去すれば、魔物は寄ってこなくなるわけだ」俺は剣を構えた。「簡単だな」
「気をつけて。簡単に割れないかも」彼女が警告する。
「大丈夫だって」俺は壁に向かって一閃した。
魔石は粉々に砕け散った。予想以上の脆さに拍子抜けしながらも、これで完了だと思ったその時。
砕けた破片が空中で舞い上がり、一つの塊となって再構成された。
「なにっ!?」驚きの声を上げる暇もなく、その塊は急激に膨張し始める。
「避けろ!」俺はエフィーナを押し飛ばした。同時に自分も後方に跳躍する。
洞窟全体が轟音とともに崩れ始めた。天井から岩石が落ちてくる中、俺たちは出口へと急いだ。
外に飛び出た瞬間、背後で大規模な崩落が起こる。巻き上がった土埃が視界を遮り、しばらくの間前も見えなかった。
「無事か!?」咳き込みながらエフィーナを探す。
「大丈夫よ!」彼女の声が聞こえた。近くの岩陰にいるようだ。
「良かった」安心して息を吐く。だが次の瞬間、俺たちの目の前の空間が歪み始めた。
突然の異変に二人は固唾を飲んだ。目の前の空間がゆがみ、渦を巻くように歪み始める。青白い光が幾重にも重なり合い、徐々に安定した形状を形成していく。崩落した岩が消え去り、代わりに現れたのは地下へと続く階段のある入口だった。
「まさか……ダンジョンだ」エフィーナが呟いた。
「なんだと?」俺は目を疑った。「あれだけの騒ぎで何も起きないと思ったら、もっと面倒なものが生まれるとはな」
ダンジョン入口からは異様な雰囲気が漂っていた。湿った空気と魔力が混ざり合い、独特の臭いを放っている。明らかに先ほどまで存在していなかったものだ。
「あの魔石がダンジョンの種だったのか」俺は納得したように言った。「砕いたら目覚めてしまったようだな」
「興味深いわ」エフィーナは近づいて入口を観察した。「かなり新しいダンジョンね。出来立てだからマナ濃度が非常に高いわ」
「だから魔物が湧いてくるのか」俺は眉をひそめた。「これじゃあスタンビードどころか、ダンジョンハザードの兆候かもしれないな」
「どうするの?」彼女が振り返った。「一旦ギルドに報告すべきじゃない?」
「いや……」俺は考える。「報告するのもいいが、せっかくだから少しだけ調べてみないか?内部構造が分かれば後々役に立つかもしれない」
「あなたらしいわね」エフィーナは苦笑した。「でも私も気になるところよ。新しいダンジョンなんて滅多に見れるものじゃないし」
俺は鎖のついた首輪を触った。相変わらずエフィーナが手綱を握っている格好だ。「これさえなければもっと堂々と歩けるんだけどな」
「可愛いじゃない」彼女は楽しそうに引っ張った。「さあ行くわよワンちゃん♡」
「うぐ……」反論できない自分が情けない。「もう分かったよ……行こうぜ」
階段を下りていくと、すぐに空気が変わるのが分かった。ダンジョン特有の冷たく湿った空気が肌を撫でる。壁は水晶のような素材で覆われており、薄暗い光を放っていた。
「人工的な構造物というよりは……」エフィーナが壁に触れながら言った。「生きているみたいね。脈打ってるわ」
確かに彼女の言う通りだった。壁面には微かな振動があり、まるで血管を流れる血液のように魔力が循環しているのが感じ取れる。
「面白い」俺は素直に感嘆した。「こんなダンジョンは初めてだ」
さらに進むと広間のような空間に出た。中央には巨大な結晶があり、そこから細い根のようなものが床一面に伸びている。その根の隙間からは様々な種類の魔物が這い出してきていた。
「ここがコアね」エフィーナが目を細めた。「あの結晶が魔力を供給して、魔物を生み出してるわ」
ダンジョンは資源。冒険者の間では常識とも言える格言だ。ダンジョンは魔石や貴重な鉱物の宝庫であり、時には未知の技術や魔法アイテムが眠っていることもある。
「これが新しいダンジョンのコアか」俺は結晶体を見上げた。高さ三メートルはあろうかという巨大な水晶柱。表面には複雑な紋様が刻まれ、内部からは七色の光が脈動している。
「通常のダンジョンと違って純粋な形をしているわね」エフィーナが専門家らしく分析した。「一般的なダンジョンは形成過程で様々な階層が混在するけど、これは初段階からここまで完成されているわ」
「珍しいのか?」
「非常にね」彼女は頷いた。「それに魔力の純度も桁違い。普通のダンジョンコアよりも何倍も強いエネルギーを感じるわ」
俺は考え込んだ。ここには莫大な富が眠っている可能性がある。しかも誰も足を踏み入れていない新天地だ。冒険者としての血が騒ぐ。
「どうする?報酬目当てで攻略するか?」
エフィーナは微笑んだ。「あなたらしい選択肢ね。でも忘れないで。これが引き金になったスタンビードが進行中よ」
そうだった。俺は村人やマークの心配そうな顔を思い出した。このダンジョンが魔物の供給源なら早急に対処する必要がある。
「まずは村の安全確保が先決だな」
「同意見よ」彼女は頷いた。「それにギルドへの報告義務もあるわ。でも……」
「でも?」俺は続きを促した。
「報告だけでは味気ないと思わない?せっかくの発見なのに」
俺は苦笑した。「つまり、軽く調査してから報告したいってことか」
「その通り」エフィーナは悪戯っぽく笑った。「冒険者たるもの、目の前の宝に手を伸ばさないのは失礼というものよ」
俺たちは互いに目を見て頷いた。どちらも冒険者としての本能には逆らえない。
「よし」俺は決意を固めた。「だが無茶はしないぞ。まずは周辺の安全確認と、このコアがどこまで影響力を及ぼしているか確かめる」
「慎重派ね」エフィーナは少し残念そうだったが、「でも賛成」と付け加えた。
俺たちは広間を後にして上層部に戻ることにした。階段を登りながらエフィーナが話を続けた。
「ダンジョン内の魔力濃度が高い地域ほど資源が豊富よ。特に結晶が密集しているところは魔石の鉱脈になっていることが多いわ」
「ほう」俺は興味を持った。「そんな知識どこで学んだ?」
「父が昔教えてくれたの」彼女は懐かしそうに目を細めた。「冒険者は目ざとくなければならないって」
俺たちは階段を上り切り、最初の入口付近に戻ってきた。そこで一旦休憩を取りながら今後の計画を立てることにした。エフィーナが小さな羊皮紙を取り出して簡単な地図を描き始める。
「ここから西側には広範囲の採掘エリアがあるわね。東は魔物が集中してるから要注意」
「了解」俺は地図を見ながら考えた。「先に西側の資源を探ってみてはどうだ?コアが機能している限り、魔物が湧き続けるからな。先に実入りのある方から攻めた方が効率的だ」
「理に適ってるわね」エフィーナは満足そうに頷いた。「でも武器や防具に使える鉱石は東側が多いわよ」
俺は苦笑した。「それは困ったな。優柔不断になりそうだ」
「じゃあ両方行きましょう」エフィーナは当然のように言った。「私は魔石担当、あなたは鉱石担当ね」
「おいおい」俺は抗議した。「俺一人で東側に行く気か?」
「大丈夫よ」彼女は自信ありげに言った。「私があなたをちゃんとリードするわ♡」
言いながら彼女は首輪の鎖を軽く引っ張った。これでは完全に飼い主とペットの関係だ。
「勘弁してくれ……」俺は頭を掻いた。「せめて普通に連れ添いたいもんだ」
俺はちゃっぴー、妻に手綱を握られている飲んだくれの冒険者だ
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