チャッピーの日常5
俺は飲んだくれの冒険者ちゃっぴー、今日もギルドの酒場で飲んだくれている。隣ではエフィーナがギルド職員としての仕事をしているが……そんなことは僕には関係ない。冒険者とは自由な生き物なのだから。
「おじさんまた飲んでるの?」
子供にバカにされるほど飲んでいるわけではない。だがこうやって仕事から帰って酒場にいることが多いのは確かだ。まあそのほうがみんな気軽に話しかけてくれるからいいんだがな。
「エフィーナは今日もかわいいなぁ〜」
酔っぱらいは気楽でいいよなぁ〜、そう思いながら酔いつぶれた俺は床で寝ていたらしい……。そして目が覚めたらなんと僕はハムスターになっていた!!
「チュウチュウ……」
人間の言葉は話せなくなったようだが……。ハムスターの言葉なら話せるようになったらしい。ちなみに俺の名前は"ちゃっぴー"。ペットショップで売られている種類のハムスターでよくある名前だが……。まさか自分がそう呼ばれるなんて思いもしなかったぜ!! しかも雌だぜ!?
「きゃー! かわいいぃぃぃ!!」
女性陣は大喜びで抱きつくが……。俺は必死に抵抗した。だって俺は男なんだぜ!? 女の子に触られると恥ずかしいじゃないか!
「ああ……もう無理だ……。限界だ……」
そう思った瞬間……目の前が暗くなり……気がつくとベッドの上にいた。どうやら夢だったらしい……。良かった〜と思いながら起き上がると隣にはエフィーナがいた。「おはようございます。良く眠れましたか?」「ああ……おかげさまでな……」
そう答えると彼女は微笑みながら言った。「そうですか……。それは良かったです♪」その笑顔を見ているとなんだか幸せな気分になるんだよな……。だがその幸せは束の間のものであった……。
「ねぇねぇちゃっぴーちゃん♪」と女性陣の1人が言う。「なんでしょう?」「あのね? 私たちね? 貴方と遊びたいの!」と言われたので俺は答えた。「遊びましょう!」と言った途端に周りの女性陣全員から抱きつかれた……。「うへへ……可愛いですわね〜♪」
そんな感じでハムスターモードに切り替わりました……。でも楽しい夢だったからいいか……。
◇
魔石を取り出し魔石を手に取ってみると、普通の魔石とは明らかに違っていた。通常は水晶のような透明な質感だが、これはどす黒く濁っていて所々に血管のような赤い筋が走っている。触れると微かに脈動しているようだ。
「これは……」俺は眉をひそめた。「通常の魔物の核じゃないな」
「やはり気づかれましたか」マークが不安そうに言った。「この魔石は普通の魔物から採れるものとは違いすぎるのです」
「誰かが意図的に作ったものだろうか?」俺は質問した。
「それなら村の近くで見つかるはずはないでしょう」マークは首を振った。「これはボスウルフの体内から直接発見されました」
「自然発生……か」
俺は再び魔石を見つめた。自然発生したとすれば、これは重大な兆候だ。本来魔物化するためには相当な魔力が必要だが、
「スタンビードの前触れかもしれませんね」
マークが沈んだ声で言った。その言葉に周囲の冒険者たちも緊張した表情になる。
「スタンビード……か」
俺は魔石を指先で転がしながら考えた。通常の生態系ではありえないような魔物化現象が起きているとなると、確かにスタンビードの兆候かもしれない。
「でも確証はないだろ?」俺は慎重に言葉を選んだ。「ボスウルフ一体だけじゃ判断材料としては弱い」
「その通りです」マークは頷いた。「ですが近年、魔物の異常行動が各地で報告されています。これも一つの事例かもしれません」
俺は深く息を吐いた。スタンビードとなれば被害は甚大だ。過去に一度経験したことがあるが、あの惨状は二度と見たくない。
「調べる必要があるな」俺は言う。「明日から調査に出かける。ギルドマスターに報告しておいてくれ」
「ダメですよ、チャッピーさんが調査に赴くと被害が大きくなります」とマークは声を上げた。
「ああ……」俺は苦笑した。災害級の冒険者たる由縁を思い出してしまう。「そうか……確かにそうだな」
改めて自分の立場を考えると複雑な心境になる。強すぎる力というのは時に制約にもなるのだ。
「他の冒険者を派遣します」マークは続けた。「ただ情報収集くらいならチャッピーさんでも問題ありません。もし何か異常があればすぐに撤退してください」
「了解だ」俺は肩を竦めた。「ところでこの魔石はどうする?」
「一度ギルドの研究部門に持ち帰りましょう」マークは丁寧に魔石を布で包み直した。「分析結果が出るまで少なくとも五日はかかります」
「長いな……」
「それまでは警戒態勢を強化します」
話が一段落したところで、俺はふと思いついてマークに聞いた。
「そういえば……村の人たちは皆無事なのか?」
「ええ、何とか」彼は少し表情を曇らせた。 「村の入り口近くの畑が荒らされましたが……人的被害はありませんでした。村長もチャッピーさんにお礼を言いたがっていましたよ」
「そうか」少しだけ安堵する。「マーク、一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「あの村にしばらく滞在させてもらえないか?もしスタンビードの兆候があるなら早期発見できるかもしれない」
マークは目を丸くした。「本気ですか?チャッピーさんがいると被害が大きくなります」
「もちろん単独ではないさ」俺はニヤリと笑った。「うちの嫁さんも連れて行くつもりだ」
「エフィーナさんと一緒に?」マークの表情が和らいだ。「それなら安心ですね。二人一緒なら最強コンビですから」
「褒めても何も出ないぞ」俺は照れくさくなって頭を掻いた。「とにかく話は決まった。明日朝一で村に向かう」
「わかったよ」マークは承諾した。「ただし条件があります」
「なんだ?」
「定期的に連絡を入れてください。そして何か変化があれば即座に退避すること」
「ああ、わかってるさ」俺は頷いた。「俺だって無駄に騒動を大きくしたくないからな」
ギルドを後にした俺はエフィーナが待つ家へと急いだ。玄関を開けると彼女はすでに夕食の準備を始めていた。
「おかえりなさい」エフィーナは振り向きもせず言った。「マークくんから話は聞いているわ」
「聞いてたのか」驚きながら荷物を置く。「だったら話が早いな」
「村に行くんでしょう?」エフィーナは鍋をかき混ぜながら尋ねた。
「ああ」俺は椅子に腰掛けた。「スタンビードの前触れかもしれない」
「そう……」彼女は火を止めてこちらを向いた。「やっぱりね」
「何がやっぱりなんだ?」
「チャッピーが心配することだからよ」エフィーナは真剣な表情で言った。「あなたはいつも自分のことよりも周囲の安全を気にするから」
図星を突かれて何も言えなくなる。確かに俺は自分の強すぎる力を常に意識していた。普通の冒険者なら軽く済むはずの事態も、俺が関わると深刻化することが多い。だからこそ普段は目立たないように過ごしているのだ。
「私も同行するわ」エフィーナは断固とした口調で言った。「夫婦なんだから当然よ」
「いや……お前を危険な目に遭わせたくない」俺は反対した。
「何言ってるの?」彼女は軽く笑った。「私がいなければ誰があなたをコントロールするの?あなたの力を一番理解しているのは私よ」
「それはそうだが……」
「それに」エフィーナはポケットから小さな道具を取り出した。「これを持って行けば心配ないわ」
それは以前彼女が作ってくれた封印具の改良版だった。以前のものは装着すると力が半減する程度だったが、これはさらに精密に調整されているらしい。
「すごいな……これなら完全に制御できるんじゃないか?」
「試作品だけどね」彼女は少し恥ずかしそうに髪をかきあげた。「でもチャッピーならうまく使えると思うわ」
その夜、俺たちは荷造りをしながら作戦を練った。村で滞在する間は目立たないように過ごし、周辺の森や洞窟を調査する。そしてもし魔物が増えているようならすぐに報告する。シンプルな計画だったが十分だと思った。
翌朝早く、二人で村へ向かった。道中で俺はエフィーナに問いかけた。
「なあ……今回の件がスタンビードだとしたら……どんな被害が出ると思う?」
「わからないわ」彼女は首を振った。「でも今までの記録から推測すると……この地域だけで百人以上が命を失うでしょうね」
想像以上の規模に背筋が凍る思いがした。五年前のスタンビードでは俺も救助活動に参加したが、その混乱ぶりは筆舌に尽くしがたいものだった。
「絶対に防がなければな」
「ええ」エフィーナは強く頷いた。「そのための調査よ」
村に到着すると、すでに噂を聞きつけた村長が出迎えてくれた。
「チャッピー様、エフィーナ様」年老いた村長は深々と頭を下げた。「遠路はるばるありがとうございます」
「大したことじゃないさ」俺は慌てて言った。「それより被害の状況を教えてくれないか?」
村長の案内で現場を見て回った。畑は所々踏み荒らされていたが、幸いにも収穫期前だったので実際の損失は少ないようだった。
「これがウルフの痕跡です」村長は地面に残された爪痕を指さした。「普通のウルフとは思えないほどの大きさでした」
「確かに……」俺は屈み込んで観察した。「こんな大きな足跡は見たことがない」
「これも見つけました」村長が取り出したのは一本の毛。「ボスウルフの尻尾から落ちていたものです」
受け取った毛を手に取ってみると、普通の獣毛とは明らかに違っていた。表面に微細な鱗状の模様があり、わずかに青白い光を帯びている。
「これは……」
「魔力を帯びていますね」後ろからエフィーナの声がした。「おそらくボスウルフは完全に魔物化していたのでしょう」
その時だった。
遠くから鋭い唸り声が聞こえてきた。一匹や二匹ではない。数十匹の狼の声だ。
「来るぞ……!」俺は咄嗟にエフィーナを庇った。
村長は顔面蒼白になりながらも叫んだ。「全員家の中に!扉を閉めよ!」
「お前も入れ」俺は村長の背中を押した。「ここは任せておけ」
村長が家に入るのを確認すると、俺とエフィーナは武器を構えた。木々の間から次々と現れるのは先日のものとは比べ物にならない数のウルフたちだ。二十、三十……いや五十を超えている。
「これは予想以上ね」エフィーナが呟いた。
「ああ……」
俺は右手に持った剣を握り直した。「全部倒すしかないな」
「待って」エフィーナが制止した。「チャッピー、その力を使わないで。封印具をつけているとはいえ、暴走したら大変よ」
「わかってる」俺は呼吸を整えた。「最小限で片付ける」
俺たちが身構えると同時に、ウルフたちが一斉に襲いかかってきた。最初の一匹を剣で薙ぎ払う。続いて飛び掛かってきた二匹を盾で弾き飛ばす。だが数が多すぎる。
「エフィーナ!」
「大丈夫よ!」彼女は魔法の詠唱を始めた。「"氷結の檻"!」
前方に氷の壁が出現し、何匹かのウルフが動きを止められる。しかしすぐに別の群れが側面から回り込んできた。
「くそっ……!」
背後からの攻撃を避けるため横に跳ぶ。その拍子にバランスを崩してしまった。まさにその隙を狙って大型のウルフが飛び掛かってくる。
「チャッピー!」エフィーナの声に、「大丈夫だこれくらい、力が抑制されても頑丈さは変わらん」俺は左手で受け止めるとそのまま地面に叩きつけた。
衝撃波が周囲に広がり、近くにいたウルフたちが吹き飛ばされる。何匹かは壁に激突し、その場で動かなくなった。
「チャッピー?」エフィーナが心配そうに近づいてくる。「封印具は大丈夫?」
「ああ……」
俺は手首を見た。封印具からは煙が上がっている。「少し負荷がかかりすぎたかな」
このままではいずれ制御できなくなる。俺は素早く判断した。
「エフィーナ、一度退却しよう。このままじゃ不利だ」
「賛成よ」彼女も同意した。「村に戻って防御体制を整えましょう」
俺たちは村の中心部へと逃げ込んだ。追ってくるウルフたちを牽制しながら、必死で走る。
「なんでこんなに多くなったんだ?」走りながら俺は疑問を口にした。「昨日はあれだけだったのに」
「何か変ね」エフィーナも不審そうに言った。「まるで何かに操られているみたい」
その時、突然地面が揺れた。ウルフたちが一斉に足を止め、どこか一点を見つめている。俺たちも視線の方向を辿ると、森の奥から巨大な影が姿を現した。
「あれは……」
エフィーナの声が震えた。
それは先日討伐したボスウルフよりも数倍は大きい巨体を持っていた。全身が鋼鉄のように硬質化しており、目は真っ赤に輝き、口からは紫煙のような吐息を漏らしていた。
「魔狼……」俺は呟いた。「あんなのが自然発生するわけがない」
「つまりどこからか彷徨ってきたのね」エフィーナも厳しい表情で言った。
巨大な魔狼はゆっくりと歩き始め、その足跡に触れた地面が黒く腐敗していくのが見えた。近くにいたウルフたちは次々とその魔狼の元へ集まり始めた。
「まずい……」
俺は歯を食いしばった。「あれがスタンビードの核かもしれん」
エフィーナは決然とした表情で言った。「一刻も早くギルドに報告しないと」
「そうだな」俺も頷いた。「だが……」
巨大な魔狼の目が俺たちの方を向いた瞬間、本能的な恐怖が背筋を走った。あれは間違いなく俺たちを標的として認識している。今ここで逃げ出すわけにはいかなかった。
「どれだけ強くても所詮、全力でやればすぐで終わる、ただ地形が変わってしまうがな」
俺は自嘲気味に言った。「それにしてもスタンビードの核か……」
「何を言ってるの?」エフィーナが怪訝な顔をする。
「いや……」俺は頭を振った。「今はあの魔狼を何とかする方が先決だ」
封印具が壊れかけている今、あまり長時間戦闘はできない。短時間で決着をつける必要があった。俺は覚悟を決めると剣を高く掲げた。
「エフィーナ、援護を頼む。あれは俺が引き受ける」
「気をつけてね」彼女は頷いた。「もし危なくなったらすぐに離脱して」
「ああ、わかってる」
俺は魔物に向かって一歩踏み出した。「さあ来いよ、デカブツ!」
巨大な魔物が咆哮を上げる。地響きと共に俺は走り出した。周囲の空気が歪むほどの圧力を感じながら、それでも前に進む。
封印具が悲鳴を上げるように軋む音を立てているが気にしない。
「うおおぉぉっ!」
全ての力を込めて剣を振り下ろす。その一撃で魔狼の前脚が切断された。
「やった!」
俺は勝利を確信した。だが次の瞬間、信じられない光景が目に映った。
切られた傷口から新たな肉が再生し始めているのだ。まるで時間が巻き戻るように、切断面が融合していく。
「こいつ……不死身なのか?」
驚愕する俺に向かって魔狼が牙を剥いて突進してきた。
「避けて!」エフィーナの叫び声が聞こえる。
咄嗟に横に跳ぶが間に合わない。魔狼の体当たりを受け、数十メートル先まで吹き飛ばされた。
「痛て!」
地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まる。封印具からは火花が散り、壊れてしまった。
「チャッピー!」
エフィーナが駆け寄ろうとするが、周囲のウルフたちが邪魔をしている。
「大丈夫だ……」
痛みに耐えながら立ち上がる。しかし身体の感覚が異常に研ぎ澄まされていくのを感じた。
封印が解けたことで本来の力が解放され始めているのだ。
「まずい……」と言いながら魔狼に一撃を加えた。その余波で地面に大きなクレーターができた
。
「これ以上は危険だ……」
「チャッピー!」エフィーナの悲鳴が聞こえた。彼女の周りには十匹を超えるウルフが群がっている。
迷っている暇はなかった。俺は魔狼に向かって再び突進した。
「こっちだデカブツ!」
魔狼の注意を引きつけるように大声で叫ぶ。
狙い通り魔狼はこちらを向き、再び襲いかかってきた。俺はそれを避けずに正面から受け止める。衝撃で腕が痺れるが、もう関係ない。
「お前みたいな奴は許さない……!」
全身の力を込めると魔狼の体が宙に浮いた。そのまま地面に穿ち、何度も繰り返す。
周りの村人たちが「何が起きている?」と怯える中、ついに魔狼は爆散した。
「終わったか……?」
息を切らしながら尋ねる。エフィーナが駆け寄ってきた。
「ええ、もう大丈夫よ」彼女は安堵した表情で言った。「でもチャッピー……封印具が壊れているわ」
「ああ……封印が壊れちまったからな」
俺は苦々しく笑った。「また新しいものを作らなきゃならん」
「それまでこれでまた封印ね」彼女が差し出したのは金属製の首輪だった。
「次はこれで抑えるわね♡」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」
その光景に村人たちは恐怖で凍りつき、マークは額から冷や汗を流した。
「すげえ、あのチャッピーさんを犬扱いとは・・・」
村人たちは口々に言っていた。
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