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ちゃっぴーの日常3

俺は飲んだくれの冒険者ちゃっぴー、今日もギルドの酒場で飲んだくれている。

「チャッピーさん、またそんな顔して……」エフィーナの優しい声が俺の意識を現実に戻す。「心配しなくても大丈夫よ。今日は依頼の件で来たの」


「依頼?俺に?」思わずグラスを握る手に力が入る。最後にまともな依頼を受けたのはいつだったか思い出せない。


「そうよ。王都からの指名依頼なの。しかも今回は災害級ではなく普通のランクとしての依頼よ」彼女は微笑みながら一枚の羊皮紙を差し出した。


そこには確かに王家の紋章が押されていた。


「マジかよ……」読み進めるうち、俺の表情は複雑なものになっていく。「『王女の護衛』だと?冗談きついぜ」


「冗談じゃないわ。正式な依頼よ」エフィーナは真剣な面持ちで続ける。「王都の外れで行われる祭典に参加される王女様の護衛を、なぜかチャッピーさんが指名されたの」


「なぜかって……俺は災害級だぞ?依頼なんてほぼ来ないのに……」俺は疑念を隠せない。


「それが今回の依頼主の希望なの。『強くて信頼できる人物』というのが条件で、なぜかチャッピーさんが選ばれたみたい」


「ふーん……」俺はグラスを傾けながら考える。正直なところ、王族の護衛なんて面倒くさい役割は避けたいが……久しぶりのまともな依頼だ。それに報酬も悪くない。


「受けてもいいけど条件がある」俺はエフィーナを見据えた。「腕輪か何かで力を抑制するアイテムを貸してほしい。俺の全力が出たら城が吹き飛ぶかもしれん」


「もちろん準備してあるわ」彼女は小さく笑った。「今回は首輪じゃなくて手袋にしておいたから安心して」


エフィーナが差し出したのは黒革の指なし手袋だった。掌の部分には細かい魔法陣が刺繍されている。


「これさえ着けていれば普通の人程度の力しか出なくなるはずよ」


「助かる」俺は素直に受け取り、右手に装着した。違和感なく馴染むが、確かに力が抑制されている感じがする。


「準備はいい?明日の朝一番で王宮に行くわよ」


「了解」俺は頷いた。「それまで飲むか」


「もう……仕方ないわね」エフィーナは苦笑しながらも席を移動して隣に座った。「私も一杯だけ付き合うわ」


翌朝、まだ太陽が昇りきらないうちに俺たちは王宮へ向かった。正直眠くてしょうがないが、王族を待たせるわけにもいかない。


王宮の大広間に通されると、豪華なドレスを着た少女が待っていた。歳の頃は16歳くらいか。金髪碧眼の典型的な美少女だが、どこか冷たい印象を受ける。


「貴方がチャッピー殿ですね」少女は澄ました口調で言った。「私はセレナ王女。今回お手伝いいただくことになりました」


「どうも……チャッピーです」俺は頭を下げた。こういう堅苦しいのは苦手だが仕方ない。


「詳しいことは馬車の中でお話します。すぐに準備なさって」


「わかりました」


護衛の騎士たちに案内されて馬車に乗ると、王女と二人きりになった。沈黙が気まずい。


「あの……一つ訊いてもいいでしょうか」俺は勇気を出して切り出した。


「何でしょう?」王女の青い瞳が俺を見つめる。


「なぜ私を選ばれたのですか?災害級の冒険者なんて、普通なら敬遠すると思うのですが」



「それは……」王女は少し俯いた。「実は私、貴方の過去の活躍を聞いたことがありまして」


「活躍?俺がか?」


「はい。三年前に起きた『ドラゴンの降臨事件』の解決に関わられたと」


確かにそんなこともあった。たまたま居合わせたドラゴン退治に協力しただけだが、あれが俺の災害級認定のきっかけにもなった。


「あれは偶然だよ」俺は照れ隠しに頭を掻いた。「でも今回は何があるんだ?ただの祭りだろ?」


「実は……」王女の表情が曇る。「私の命を狙う者がいるとの情報がありまして」


「刺客?」


「ええ。王国内部からの可能性が高いそうです」


なるほど。それで普通の騎士ではなく俺みたいな変則的な戦力が求められたのか。


「了解した。全力で護衛するよ」


「お願いします」王女は初めて柔らかい笑顔を見せた。


祭りの会場である森の中の広場に到着すると、すでに多くの人々で賑わっていた。露店が並び、音楽隊が演奏している。


「まずはお祭りを楽しんでください」王女は俺に言った。「刺客が現れるとしても夜だと思いますから」


「わかった」俺は頷いた。とりあえず彼女の周りに注意を払いながら適当に過ごすことになる。


「あの……もしよかったら一緒にお祭りを見て回りませんか?」突然の提案に驚いたが、


「ああ、もちろん」祭りを楽しむ王女の姿を見ながら護衛していると、ふと彼女の表情が変わる瞬間があった。人混みの中で何かを見つけたようで、視線が固定される。


「どうしました?」


「いえ……」王女は一瞬で平静を装ったが、「少し疲れたので休憩したいです」


「了解。人目のつくところに行きましょう」


適当なベンチを見つけ腰掛けると、王女が小さく息を吐いた。


「チャッピー殿」彼女が真剣な眼差しで俺を見る。「先程見かけた人影……おそらく私の命を狙う者です」


「え?本当か?」


「確証はありませんが……以前見たことがある顔でした。兄上の側近の一人です」


「お兄さん?」俺は混乱した。「それはつまり……王位継承争い?」


「詳しくは言えませんが……そういうことです」


なるほど。これが王国内部の権力争いなら厄介だ。


「夜になる前に対処した方がいいな」


「そうですね……でも今すぐに行動するのは得策ではありません」王女は悩ましげな表情で言う。


「なぜ?」


「確証がないまま告発すれば……逆に私が不利になります」


「難しい問題だな」俺は腕組みして考えた。「なら今夜、相手が動き出すのを待つか」


「そうしましょう」


夜が更け祭りが終盤に差し掛かる頃、やはり不穏な気配が漂ってきた。人気が少なくなった会場の端で王女の様子が変わる。


「……きました」彼女が小声で言った。


木陰から数人の男たちが姿を現す。全員黒装束に身を包み、手には武器を持っている。


「王女殿下」先頭の男が低い声で言った。「おとなしく来ていただければ危害は加えません」


「断ります」王女は毅然と言い放った。「私の命を狙う者など信用できません」


「残念ですな」男が合図を送ると、仲間たちが一斉に武器を抜いた。


「王女様、下がっててください」俺は手袋越しに拳を握りしめた。「ここは俺が」


「ですが……」


「大丈夫。これさえ着けてれば暴れすぎないから」


王女を背に庇いながら男たちと対峙する。黒装束の集団は約十人。数が多いが今の俺には余裕だろう。


「行くぞ!」


先頭の男が斬りかかる。俺は最小限の動きでかわし、軽く殴りつけた。衝撃で吹き飛ぶ男を見て仲間たちが動揺する。


「なっ!?ただの平民ではないのか!?」


「チャッピーより平民っぽい冒険者はいないぜ」


そう言って次々と敵を倒していく。手加減しているとはいえ、災害級の力を完全に抑えることは難しい。あっという間に半数が倒れた。


「くっ……撤退だ!」残りの男たちが逃げ出そうとする。


「逃がすか!」


全力で追いかけようとした瞬間、手袋の魔法陣が強く光り熱を帯びた。これ以上力を出したら破れてしまいそうだ。


「くそっ!」速度を緩めるしかない。結果的に一部の敵を逃がしてしまった。


「大丈夫ですか!?」王女が駆け寄ってくる。


「ああ……問題ない」俺は乱れた服を整えながら答えた。「けど全部は捕まえられなかった。ごめん」


「いいえ、十分です」王女は安堵の表情を浮かべた。「チャッピー殿のおかげで助かりました」


その後は無事に帰路につき、王宮に戻ることができた。王女の兄である第一王子は真相を知り、陰謀の首謀者を罰することになったらしい。


「チャッピー殿」別れ際に王女が言った。「ありがとうございました。とても勇敢でした」


「いやいや」照れ隠しに頭を掻く。「依頼だからさ」


「それでも感謝しています」彼女は微笑んだ。「もし良ければ……また会えますか?」


「機会があれば」


「嬉しいです」王女は小さく頷き、「ではまたいつか」


こうして珍しい依頼は無事に終わった。翌日ギルドに戻るとエフィーナが待っていた。


「おかえりなさい」彼女は手袋を受け取りながら尋ねた。「どうだった?」


「ああ……色々あったけど何とかなったよ」俺は肩をすくめる。「でもちょっと手加減しすぎて敵を逃がしちまった」


「そう」エフィーナは意外そうな顔をした。「チャッピーでも手加減するんですね」


「だって王女様が見てたからな」俺はグラスを手に取りながら言った。「あまり怖がらせたくないだろ?」


「ふふ……優しいんですね」彼女は柔らかく笑った。


「いやいや、それより報酬が楽しみだ」俺は話を逸らすように言った。「しばらく飲み明かせるな」


「本当に……チャッピーは変わらないわね」


エフィーナの言葉に少し照れながらも、俺はいつも通りの日常に戻っていく。災害級の冒険者にとって、たまにはこういう任務もいいものだ。


「さぁ、帰ろうぜ。一杯やって寝たいよ」ホッとしたのも束の間、彼女が差し出したのは金属製の首輪だった。


「次はこれで抑えるわね♡」


「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」





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