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第80話 "英雄"久美

第80話です。

今回は久美回。達也のもとでの一ヶ月の修行、その成果が試されます。

“力任せ”から“本物の強さ”へ――そして現れる悪神アガレスト。

新たな英雄の一歩を、ぜひ見届けてください。

「達兄、お願い。稽古をつけて」


突然、久美が達也の前に現れた。


仕事終わりの夕方。まだスーツ姿のままの久美は、真っ直ぐ達也を見つめている。


「もっと強くなりたい」


その瞳には迷いがなかった。


悔しさも、焦りも、恐れも越えた先にある――覚悟。


達也は一瞬だけ視線を細め、そして短く答えた。


「……わかった」


「小百合さん。訓練場の使用許可を」


「期間は?」


「18時から1時間。月曜から金曜まで。祝日は除く。期間は1ヶ月」


小百合は即座にスケジュールを調整し始める。


「もっとガッツリやらなくていいの?」


久美が挑発気味に笑う。


達也は首を振った。


「仕事終わりの1時間が丁度いい。継続が最優先だ」


「周りには内緒なんだろ?」


「流石、達兄。わかってる!」


久美はにやりと笑う。


だが達也の目は真剣だった。


「ただし時間が短い分、密度を極限まで上げる」


「望むところよ」


――こうして、初出勤日から修行が始まった。


「前にも言ったが、久美はパワーに頼りすぎな面がある」


「……否定はしない」


「だから徹底的に基本技を鍛える」


地味で単調な反復。


構え。

足運び。

呼吸。

体捌き。

重心移動。

間合い管理。


何百回。

何千回。


汗が床を濡らす。


「もっと速く」


「まだブレてる」


「呼吸が浅い」


達也の指摘は一切妥協がない。


久美は歯を食いしばり、続けた。


派手な技も、奥義もない。


ただ、基礎。


だが一週間。

二週間と過ぎる頃には、動きが変わり始めていた。


無駄な力が抜け、視野が広がり、反応が早くなる。


『基本技が何も考えずに出るまでやれ。それは必ず奥義の底上げに繋がる』


その言葉が、身体に染み込んでいく。



秋葉山公園。


夕暮れ。


「お父さん。一番広いところで展開して」


正樹は無言で頷き、結界を展開する。


空間が静かに閉じる。


その直後――


黒いベンツが公園内へ侵入してきた。


異様な静けさ。


駐車場に停車。


ドアが開く。


三人の男が降り立った。


「加山正樹さん。一緒に来て頂けませんかね。手荒な真似はしたくないので」


マシンガン。

ピストル。

ナイフ。


「お父さん、スタンバイOK?」


「いつでもどうぞ」


久美は深く息を吸う。


「スタート。お父さんはシールドの中に」


瞬間――


防具と徹甲を展開。


一直線に突進。


マシンガンの弾丸が雨のように降り注ぐ。


だが。


徹甲で弾きながら、最短距離を進む。


側面からピストル。


頭部狙撃。


久美は振り向きもせず、首のわずかな動きで回避。


肉薄。


だがナイフの男が割り込む。


鋭い斬撃。


刃は徹甲に弾かれる。


「流石だな。データ通りだ」


「では――こちらも本領発揮といこう」


銃器を捨てる。


槍。

三節棍。

鞭。


サングラスが外れる。


肉体が膨張。


魔力が膨れ上がる。


「……やっぱり。魔族」


久美は静かに構えた。


三方向同時攻撃。


槍の連撃。

鞭の変則軌道。

三節棍の不規則打撃。


だが久美は慌てない。


槍は足運びでかわす。

鞭は見切る。

三節棍は体術で流す。


無駄がない。


力任せではない。


「くっ……データより速い」


「短期間でここまで……」


三人の魔力が跳ね上がる。


武器が紫電を帯びる。


触れれば即死級。


久美は息を整える。


一体目が突進。


懐へ。


掌底。


魔核、貫通。


二体目。


鞭を蹴り上げ。


跳躍。


回し蹴り。


魔核粉砕。


最後の一体。


三節棍投擲。


奇襲。


だが。


体を沈め、回転。


掌底一閃。


三体、崩壊。


「……やはり貴方も“英雄”でしたね」


肉体が崩れる。


だが――


「様子がおかしい。久美、離れろ!」


融合。


塊。


絡みつく。


久美は動じない。


爆散。


「戦っている時、違和感があった」


「別の目的があるって」


視線は黒いベンツへ。


「姑息な手段はやめたら? 悪神アガレスト」


沈黙。


ベンツが歪む。


鉄が軋み、人型へ。


「ククク……よくわかりましたね」


闇が溢れる。


「いくら“英雄”因子を持とうと……私と単独では無理がある」


神格が顕現する。


空気が重くなる。


久美は一歩踏み出す。


「そうかもね」


「でも――」


脳裏に浮かぶ。


汗だくの訓練場。

達也の背中。

繰り返した基本。


「ここで逃げるわけにはいかない」


その目に宿るのは、恐怖ではない。


覚悟。


アガレストの魔力が爆発的に膨れ上がる。


「貴方の体と、加山正樹の頭脳――頂戴します」


闇が世界を覆う。


久美は静かに構えた。


その姿は、もはや“守られる側”ではない。


――新たな英雄。


久美と正樹。


二人だけの戦場。


想像を絶する戦いが、今――始まる。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

久美の成長回、いかがでしたか?

基本を積み重ねた先にある“英雄”の形を書きました。

次回、悪神アガレストとの本格戦闘へ。

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