第78話 "英雄"の力 由香里の力
由香里の戦闘描写に焦点を当てた回です。
“英雄”として完成された力、その速度と判断力、そして容赦のなさ。
父・達也とは異なる形で辿り着いた、由香里自身の強さを描きました。
『マスター、防具を展開します。装備はどうなさいますか?』
「両手徹甲。ただし防具はミラージュコロイド仕様で」
由香里の周囲で、空気がわずかに歪んだ。
次の瞬間――
ジミーとバレッタが、左右から同時に展開する。
「加山由香里。その実力、見届けさせてもらう」
「なぜレオとリサが負けたのか……それを知りたい」
ジミーは上段からナイフを振り下ろし、
バレッタは横合いから刃を走らせた。
由香里は、一歩も動かない。
右腕でジミーの刃を、
左腕でバレッタの刃を――同時に受け止めた。
「……今の手応えは、なに?」
「ナイフが……弾かれた?」
二人の顔色が変わる。
制服に触れた瞬間、確かに金属音がした。
だが、刃は食い込んでいない。
「今度は――私の番だね」
由香里は地面を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、ジミーへ突進する。
ジミーは即座に迎撃。
そこへ、体勢を立て直したバレッタも加わった。
だが――
由香里は、すべてを読んでいた。
横蹴り一閃。
バレッタの身体が宙を舞い、地面へと叩きつけられる。
直後、背後から迫るジミー。
由香里は振り返りざま、正拳をボディへ叩き込んだ。
「ぐっ……なんだ、この速さ……」
「高校生の蹴り……? この……パワー……」
二人は悟った。
自分たちは、同じ土俵にすら立っていない。
由香里は攻撃を止めない。
ジミーのナイフを徹甲で砕き、
平手を胸に当てる――発勁。
ジミーの身体が後方へ吹き飛んだ。
背後で、バレッタが再び立ち上がろうとする。
由香里はナイフを持つ腕を左手で掴み、
右肘を鳩尾へ突き刺した。
バレッタは声も出せず、その場に崩れ落ちる。
――戦闘不能。
由香里は二人を車へ乗せ終えると、
何事もなかったかのように自転車へ跨った。
「……ぐっ……バレッタ、生きてるか……」
「ジミー……何、あの……化け物……」
「“英雄”ですよ。由香里様は」
闇の中から、静香が姿を現す。
「今後、由香里様には手を出さないように」
「……まあ、出せないでしょうけど」
そう言い残し、静香は闇へと消えた。
「……周りも、化け物だらけか……」
――“牙”と由香里の戦いは、こうして終わった。
第78話、ここまでお読みいただきありがとうございます。
由香里の力が示された一方で、世界は確実に動き始めています。
次話では“英雄”という存在が、裏の世界にどう波紋を広げるのか――
久美の物語も、静かに加速していきます。




