第70話 新堂家と達也。
英雄として異世界を救った父。
現代で再び始まるのは、戦場ではなく――“日常に潜む戦い”。
新堂家での滞在が、達也を新たな局面へと導いていく。
「またね。おとうさん」
「達兄、稽古つけてね」
「あまり無茶するなよ」
「もう、夕飯食べてけばいいのに」
加山家の玄関先。
それぞれに声をかけられながら、達也は苦笑して答える。
「悪いな。兄貴と食べる約束なんだ」
「またな!」
そう言って迎えの車に乗り込む。
運転手が一礼し、車は静かに発進した。
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「さぁ、お風呂入って夕飯にしましょう」
「お母さん、今日は何?」
「特大エビフライと肉厚ハンバーグ」
「最高じゃん! 由香里、早くお風呂!」
「久美姉、ちょっと待ってよ!」
加山家は、いつも通りの――穏やかな日常を過ごしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
達也は新堂家へ向かう途中、銀座のレストランに立ち寄っていた。
新堂弦之助との会食のためである。
「兄貴、フランス料理なんて食ってると早死にするぜ」
「一度死んだ人間が言う台詞か?」
「死んだの分かってて、CMに使い続けたのはどこの誰だよ」
「生きてたんだから問題ないだろう」
「相変わらずセコいな」
「傍若無人なお前に言われたくない」
大企業の社長との会食とは思えない会話が続いていたが、
瑠璃と紅音が合流すると、弦之助は自然と“父”の顔に戻る。
「お父様、お待たせしました」
「達也さんも」
達也は軽く手を上げて挨拶を返した。
「瑠璃。例のものは?」
「はい。滞りなく」
「達也、明日使う車を用意した。屋敷で確認しろ」
「了解だ。瑠璃、あとで案内頼む」
「私は父に報告があるから。紅音、お願い」
「……はい」
家族の食事のはずなのに、どこか業務的だな――
達也は内心でそう思っていた。
⸻
会食後、一行は屋敷へ向かう。
先頭の黒いセンチュリーに弦之助と瑠璃。
後方のクラウンに達也と紅音。
銀座から首都高3号線を走り、用賀インターで降りる。
「もうすぐ成城よ」
「次の角を左だ。赤いボタンを押せ」
紅音は瑠璃に即座に連絡。
指示通り、マンションの駐車場に二台が縦列で停まる。
赤いボタン――
それは“セイラ”が設計し、正樹が組み上げたミラージュコロイド。
光の屈折を利用した隠形装置だ。
二台の車は、静かに姿を消した。
「少し待っててくれ」
達也は車を降りる。
「尾行は?」
『前方三台先、シルバーのベンツです』
達也はポケットから携帯ライトを取り出す――が、
それは正樹に頼んで作らせた“弓”だった。
「距離測定。ギリギリで発信機を付ける」
矢が放たれる。
『……1.2。後部バンパーに設置完了』
ライトに戻した弓をしまい、車へ戻る。
「データは情報分析センターへ」
「小物でも、辿れば本体に行き着く」
安全を確認してから、一行は新堂屋敷へ向かった。
「尾行は日常茶飯事ですが、敷地内侵入は初です」
「初日から面倒そうだな」
屋敷に到着後、弦之助は達也に一言だけ告げ、自室へ戻った。
「達也。頼んだぞ」
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「たっくん、ガレージへ」
紅音に案内され、達也は明日から使う車を確認する。
レクサスLS500 AWD。
防弾ガラス、ノーパンクタイヤ。
ミラージュコロイドとエアープロテクト。
耐久性と出力を強化した特別チューニング。
「……文句なしだな」
満足そうに頷く達也。
その後、部屋へ向かうと、
執事の真鍋行雄と、メイドの斉藤百合子が待っていた。
「お久しぶりでございます、達也様」
「真鍋さん。お元気そうで何よりです」
「明日からお世話を担当します、斉藤百合子です」
「百合子さんなら安心だ」
紅音が微笑む。
「明日から、お父様をよろしくね。おやすみなさい」
ようやく一人になった達也は、
走行ルートと危険箇所を再確認し、ベッドに身を委ねた。
これから起こる出来事は――
偶然か、必然か。
達也にとって、忘れられない闘いの幕が、
静かに上がろうとしていた。
第70話は嵐の前の静けさ回です。
日常と非日常、家族と組織、その境界線が少しずつ曖昧になっていきます。
次回から、現代編は一気に緊張感が増していきます。




