第68話 達也が来た理由
第68話です。
父・達也が現代へ来た理由、そして静かに動き出す“違和感”。
日常の賑やかさの裏で、次の波が近づいています。
親子と家族、それぞれの想いを感じていただければ幸いです。
突然の訪問に、一同は驚きを隠せなかった。
「相変わらず、由香の手料理は美味いな」
達也はそう言いながら、料理をつまみ食いしている。
「……おとうさん。どうして……」
由香里が、恥ずかしそうに問いかけた。
つい数時間前、涙の別れをしたばかりだ。
再会があまりに早く、頭が追いつかない。
「あの後、アガレスから依頼があった。
創造神ユグニスを探してほしいってな」
達也が淡々と事情を説明する。
――ユグニス?
「……私の父よ。エリザベートに殺されたわ」
重い沈黙の中、由香が口を開いた。
「たっちゃん、どういうことなの?
いくら創造神でも消滅したって聞いてるし、エリザベートは父の力を奪ったはずよ。復活なんてありえないでしょ」
疑問をぶつける由香に、達也は頷いた。
「確かにそうだ。俺の目の前で霧散したからな。
でも、創造神アガレスが“兄が現代に存在する”って感じたらしい」
達也自身も不可解に思ってはいたが、アガレスを信じることにした。
「それに……こっちに来れば、お前たちにも会えるしな。
ユグニスがいなかったとしても、慰安旅行って思えばいい」
随分と呑気な理由だった。
「おとうさん、また道場で寝泊まりするの?」
由香里が心配そうに尋ねる。
「いや、今回は新堂の親父を頼るつもりだ。
……なんとなくだが、その方が動きやすそうでな」
達也の“勘”である。
「おとうさんがそう言うなら仕方ないよね。
紅音……良かったね」
由香里が、いたずらっぽく紅音を見る。
「……知らない……」
紅音は顔を真っ赤にして俯いた。
「とりあえず、クソじじいの運転手でもするか」
達也が軽く言うと、
「達也……うちの運転手は採用基準が色々厳しいのよ。さすがにね……」
瑠璃が即座に釘を刺す。
「ああ、それなら大丈夫だ。もう電話してOKもらった」
何でもないことのように言う達也。
「……達也さん……何をなさったの……」
瑠璃はプルプル震えている。
「兄貴には貸しが多いしな。
それに、ガキの頃の話をされるのが一番嫌らしい」
悪戯っぽく笑う達也。
「瑠璃……たっくんに何言っても無駄よ。
たっくんのワガママは筋金入りだから」
紅音が半ば呆れ顔で言った。
「……帰ったら親父に捕まるわね……愚痴の二時間コースよ……」
項垂れる瑠璃に、
「瑠璃……私も付き合ってあげるから」
紅音がそっと寄り添う。
「兄貴のヤロウ、相変わらずネチネチしてんな。俺がガツンと――」
「止めて!!
これ以上、親父を追い詰めないで!後始末が大変なのよ!」
瑠璃の威圧に、達也は肩をすくめた。
「まぁまぁ。たっちゃん、新堂家に行くのはいつから?」
由香が話題を戻す。
「すぐでもいいが、日曜の午後に兄貴と約束してる。
それまでは、ここに世話になるかな」
その言葉に、由香里は嬉しそうに微笑んだ。
「わかりました。これから帰って、我が当主に今後のことを話してきます」
瑠璃は覚悟を決めて立ち上がる。
「たっくんの部屋は、百合子さんたちに用意してもらうね」
紅音は、どこか楽しそうだった。
達也の乱入で多少の騒ぎはあったが、それぞれ今後の話をし、夕方には解散となった。
⸻
加山家では賑やかな夕食を終え、由香里と久美は自室へ戻っていく。
居間には、達也・正樹・由香の三人が残り、久しぶりに酒を酌み交わしていた。
「正樹。兄貴との新しいエネルギー開発、進んでるのか?」
唐突な問いに、正樹が目を丸くする。
「そんなことまで知っているのか。まだ来たばかりだろう」
「俺は由香里が帰還して二時間後には、こっちに来てた。
すぐ“セイラ”に今起きてることを調べさせたんだ。
昨日の夜に兄貴に会ったのは、居候の件とエネルギー開発の話だ」
すべてお見通しだと語る達也。
「……だから新堂家に……」
「まぁ、あんなのでも兄貴だからな」
「昔から優しいよね、たっちゃん」
三人は互いをよく理解していた。
「それに……違和感が拭えない」
達也は静かに言った。
「由香。スカーレットって、どんな妹だった?」
「……私は、こちらの世界に来てしまったから会ったことがないの。
生まれてすぐ、魔力制御ができないって理由で隔離されて……
父、ユグニスからは場所も教えられなかった」
由香はそう答える。
「最悪の場合、俺が封印したエリザベートは本人じゃない可能性もある」
達也の見解に、
「……ありえない話じゃないわね……」
由香も頷いた。
「アガレスも、なんとなくだがヤバそうだ。
俺の中で“危険だ”って反応してる」
「……そんな話、して大丈夫なのか?」
「創造神だ。こっちだけに構ってもいられないだろ。
まぁ、バレたらバレたで……色々楽しそうだけどな」
悪戯っぽく笑う達也に、由香と正樹は嫌な予感しかしなかった。
「それより正樹。錬成してほしい物がある」
目を輝かせる達也。
「……どんな武器だ?」
「なんで武器だってわかるんだよ」
「お前、武器以外に興味ないだろ」
「……他にもある」
「どうせ女だろ。しかも“格闘家になれるか”が基準の」
「……やりにくいな……全部お見通しかよ」
「悪い所は全部知ってる。
まぁ、ここまで親バカとは思わなかったが」
「……弾力性と強度を極限まで高めた素材で、弓を作ってくれ。
最先端の西洋弓にも負けないやつだ」
「……わかった。明日、構築してみる」
話が一段落し、由香がコーヒーを淹れて戻ってきた。
「……やっぱり、こっちの世界のコーヒーは美味いな。
異世界のは、もっとドロドロしてる」
そう言いながら、達也は視線を向ける。
「……そこにいないで、中に入ったらどうだ」
恐る恐る現れたのは久美だった。
「……全部、聞いてたの?」
「創造神の話から……」
久美は正直に答える。
「由香里のことが心配なんだろ。
俺が来て、歓迎されてる雰囲気でもなかったしな。
巻き込むつもりはないが……因子持ちは、否応なしに巻き込まれる」
現実を突きつける達也。
「……わかってる。私は小さい頃から因子が目覚めてた。
だから、由香里に因子が目覚めた時は……達兄を恨んだわ」
淡々と語る久美。
「達兄が来なければ、目覚めなかったんじゃないかって……」
一呼吸置いて、
「でも、自分と対等でいてくれる妹がいるのは……正直、嬉しかった。
因子持ちの生き様を体現してる達兄は、今でも尊敬してる。師だと思ってる」
「……師だなんて、ありがたいな。
俺みたいなのでも……お前たちのおかげで、親の幸せを知れた」
達也は、深く頭を下げた。
「その才能……天性かもね」
久美が笑う。
「??? 何が?」
『人たらし!』
三人の声が重なった。
夜は更け、コーヒーを入れ直しながら、四人は朝まで語り合った。
想いは一つ。
――由香里を守る。
かけがえのない存在を守るために。
両親、姉、そして実の父は、それぞれの覚悟を新たにするのだった。
ここから物語は、再び大きく動き始めます。
達也の勘、創造神の影、そして由香里を巡る因子。
守りたい想いが重なるほど、選択は重くなる――
次話もお付き合いいただけると嬉しいです。




