第66話 家族の絆 再び
日常へ戻る、その一歩。
異世界から帰還した由香里を待っていたのは、変わらない家族の朝と、温かな再会でした。
激動の戦いの後、ようやく描かれる「帰る場所」。
今回は戦いではなく、家族の絆に焦点を当てたお話です。
加山家に、穏やかな朝が訪れた。
「ヤバいぃー! 遅刻するー!」
嵐が通り過ぎたかのような勢いで、久美が飛び起きる。
「また久美は寝坊? ご飯どうするの」
母・由香が、呆れたように声をかけた。
「30秒ください!」
そう言った瞬間、久美は席につき、猛烈な勢いで食べ始める。
「どこにそんなに入るの……はい、お弁当置いとくね」
由香が言い終わるころには、すでに皿は空になっていた。
「行ってきまーす!」
玄関を勢いよく開け、久美は駅へと走っていく。
「おはよー。お姉ちゃん、すごい勢いで出ていったねー」
制服に着替えた由香里が、リビングに顔を出す。
「いつものことよ。由香里も朝ごはん食べなさい。お弁当も用意してあるから」
由香はそう言いながら、日常が戻ってきたことを噛みしめるように微笑んだ。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『お姉様、お子様をお返しします』
思念による通信が、三姉妹の長女――アグライア、すなわち由香の元へ届いた。
送信者は三女スカーレット。
由香は、はっとした表情で道場へと向かう。
正樹も、久美も、ほぼ同時に駆けつけてきた。
その瞬間――
天から一筋の光が降り注ぎ、道場の前を包み込む。
やがて光が消えると、そこに立っていたのは――
一か月前、達也と共に姿を消した由香里だった。
「……ただいま……」
申し訳なさそうに呟く由香里。
だが、その言葉を言い終える前に――
由香、正樹、久美が一斉に抱きついた。
涙に包まれる、家族の再会。
「……おかえり、由香里……」
由香は涙を溜めながら、娘の顔を見る。
「まったく。いつもは奥手なくせに、急に大胆になるんだから」
久美は呆れた口調のまま、泣いていた。
「ケガはないか? ……まあ、達也が一緒なら、無茶しても由香里だけは守るだろうがな」
正樹は、娘の無事を確かめるように肩に手を置く。
「……ごめんね。お父さん、お母さん、お姉ちゃん」
由香里は、自分の行動で家族を心配させたことを、深く反省していた。
「……まあ、気持ちは分かるわ」
久美が静かに言う。
「今のお母さんも大事だけど……もし亡くなったお母さんが生きてたら、少しでも一緒にいたいって思うもん」
「由香里は、たっちゃんに似てるのよ」
由香が懐かしそうに続ける。
「思いついたら体が先に動くタイプ。行動してから後悔するのよね」
「そうそう」
正樹も苦笑する。
「動いたあと、ものすごく落ち込むんだ。だったら最初から動くなって言いたくなるけど……出来ないんだよな、あいつ」
「……でもね」
由香は由香里の頭に手を置く。
「無事に帰ってきてくれただけで、十分よ。おかえりなさい」
「もう遅い。家に入ろう」
正樹が優しく促す。
「由香里はお風呂に入って、今日はゆっくりしなさい」
「今日は金曜日だし、明日ゆっくり話聞かせてよ」
久美が明るく言う。
「達兄の活躍とかさ」
「そうね。紅音さん達も呼ばないと」
由香が頷く。
「すごく心配してたし、瑠璃さんが学校と掛け合って休学にしてくれたんだから、お礼しないとね」
「えー、明日は家族だけにしようよ」
「そんなわけいかないでしょ。新堂家も静香さんも、もう家族みたいなものなんだから」
「……この続きは明日だな」
正樹が締めくくる。
「さあ、家に入った入った」
こうしてようやく話はまとまり、一同は家の中へ戻っていった。
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由香里は、湯船に浸かりながら、異世界での出来事を思い返していた。
「……おとうさん。ありがとう」
湯気の向こうで、ぽつりと呟く。
「少しは……人間として成長できたかな」
「そうね。少し大きくなったかもね」
「‼」
「久美姉!? いつの間に入ってきたの!?」
「入るよって言ったでしょ。物思いに耽ってて気づかない由香里が悪い」
「ちょ、ちょっと! いつまで私の胸触ってるのよ! 久〜美〜姉〜(怒)」
「ヤバっ! 由香里が本気で怒った!」
「アンタたち、また何やってるの(怒)」
脱衣所から由香の怒声が飛ぶ。
――こうして。
いつもの日常が、加山家に戻ってきた。
仲間との再会。
家族の絆。
そして――
運命の歯車は、再び静かに回り始める。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は久しぶりに“何も起きない幸せ”を描きました。
でも、日常は次の物語への助走でもあります。
再会した仲間、深まった絆――
これから再び動き出す運命を、引き続き見守って頂けると嬉しいです。




