第65話 凱旋〜そして帰還
魔王討伐を終え、英雄親子は王都へ凱旋します。
歓喜の先に待っていたのは、祝福だけではなく“別れ”の時。
父が娘に託した想いと、由香里が選んだ未来を見届けてください。
王都は、歓喜に包まれていた。
城門が開かれた瞬間――
割れるような歓声が、空を震わせる。
「英雄だ!!」
「魔王を倒した親子だ!!」
「由香里様ーっ!!」
花びらが舞い、祝福の声が降り注ぐ。
街道の両脇には、民、騎士、冒険者、老若男女の姿。
達也と由香里は、その中心を歩いていた。
「……すごいね」
由香里は、少し戸惑いながらも微笑む。
「これが、お前が守った世界だ」
達也の言葉に、由香里は胸を張った。
王城では盛大な祝勝会が開かれ、
英雄親子の功績は、何度も何度も語られた。
笑い声。
涙。
感謝。
だが――
宴も終盤に差し掛かった頃。
空気が、ふと変わった。
「英雄・達也、由香里。創造神アルバンがお呼びだ」
その言葉と共に、光が二人を包む。
⸻
気づけば、そこは神の神殿だった。
白と金で彩られた、荘厳な空間。
玉座に座るのは、創造神アルバン。
そして、その傍ら――
新たな存在が、静かに降り立っていた。
透き通るような銀髪。
慈愛に満ちた瞳。
「……初めまして」
柔らかな声で、女神は言った。
「私はスカーレット。
かつての創造神ユグニスの三姉妹、その三女です」
由香里は息を呑む。
「父であるユグニスは、世界を守るため命を落としました」
「その意思を継ぎ、私はこの世界に降臨しました」
スカーレットは一歩前へ出ると――
深く、頭を下げた。
「この世界を救ってくださった"英雄" 親子に、心から感謝を」
神が、頭を下げる。
それだけで、どれほどの重みかは言うまでもなかった。
「そして……」
スカーレットは、達也を見る。
「あなたの望み通りに」
「由香里を現代へ帰還させます」
「今後、この世界は由香里の人生に一切干渉しないことを、ここに誓います」
由香里は、はっとして達也を見た。
「……え?」
達也は、静かに頷く。
「……それでいい」
由香里の胸が、ざわつく。
「ま、待って!」
「私……まだここに……!」
由香里は、一歩踏み出した。
「一緒に戦って、守って……」
「私、ここに残りたい……!」
震える声。
達也は、ゆっくりと由香里の前に立った。
「由香里」
その声は、厳しく――
だが、誰よりも優しかった。
「お前には、お前の世界がある」
「これ以上、両親を泣かせるな」
由香里は、唇を噛む。
「ちゃんと勉強して」
「一人前になって」
「自分の人生を、自分で選んで歩け」
達也は、そっと由香里の頭に手を置いた。
「それが……父親としての、俺の願いだ」
由香里の視界が、滲む。
(……ああ)
(私は……)
大きな、大きな愛に――
包まれていた。
「……うん」
涙を拭い、由香里は笑った。
「約束する」
「ちゃんと生きる」
「胸張って、戻ってくる」
「それでいい」
光が、再び満ちる。
由香里の身体が、ゆっくりと光に溶けていく。
「……おとうさん」
「……ああ」
最後に見えたのは、
誇らしげに笑う父の姿だった。
⸻
現代。
由香里は、自分の部屋で目を覚ました。
窓から差し込む朝日。
変わらない日常。
けれど――
胸の奥には、確かな強さが残っている。
「……行ってきます」
そう呟き、学校へ向かう準備をする。
遠い異世界で、
一人の父が、静かに空を見上げていた。
最強の父と娘。
それぞれの世界で、
それぞれの未来へ――歩き出す。
――物語は、ここからまた続いていく。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
この物語は、強さの話であると同時に「親が子を送り出す話」でした。
由香里は愛に守られ、自分の世界へ帰っていきます。
それぞれの未来は違っても、親子の絆は変わりません。




