第62話 魔王VS"英雄"親子
ついに魔王バーミリオンが玉座を立ちました。
参謀エバンスの策、その先に待っていたのは――
“英雄”親子を分断する、最悪にして最適な一手。
第62話、魔王VS“英雄”親子、開幕です。
参謀エバンスは、すでに倒れた。
静寂に包まれた玉座の間。
その中心で、玉座に腰掛けていた影が――ゆっくりと立ち上がる。
この城の主。
魔王バーミリオン。
「“英雄”達也、由香里。我が名は魔王バーミリオン。――覚悟は、よいな」
重く、威圧的な声。
それは明確な宣戦布告だった。
「魔王バーミリオン。悪いが、今から討伐させてもらう」
達也もまた、一切の迷いなく言い放つ。
そのやり取りを横目に、由香里は本能的な戦慄を覚えていた。
――今までの四天王とは、何かが違う。
次の瞬間。
「幻日流奥義――破岩脚」
達也が、いきなり踏み込んだ。
狙いは魔王の頭部。必殺の一撃。
だが――
魔王の周囲に展開された多重シールドが、その攻撃を完全に受け止める。
「……やはり、今までの魔王とは違うようだな」
達也は、どこか納得したように呟いた。
「当然だ」
魔王バーミリオンは、不敵に笑う。
「私は、“英雄”に倒されてきた歴代魔王の記憶と経験、そのすべてを受け継いでいる。
――お前のことも、すでに知り尽くしている」
「……“全て”ね」
達也も、口元を吊り上げる。
「悪いがな。今までの魔王相手に、全力なんて一度も出したことはないんだぜ?」
「それも、想定済みだ」
魔王は即座に、床へ巨大な魔法陣を展開した。
――弱体化魔法陣。
正面から力でぶつかることはしない。
それこそが、歴代魔王たちが導き出した“英雄対策”。
「おとうさん……これ……」
由香里が息を呑む。
「今回は、なかなか練った魔法だな」
達也は冷静だった。
確かに力は抑えられている――だが、致命的ではない。
「それでも……足りないか」
達也は、静かに気を練り始める。
「幻日流奥義――幻影拳」
正面にいた達也の姿が、消えた。
「分身からの連続攻撃か」
魔王は即座に判断し、全方向へシールドを展開する。
次々と放たれる達也の攻撃は、すべて弾き返された。
――その最中。
『“セイラ”、すぐに“アデュー”とコンタクトを取れ』
達也は、内なる存在へと緊急通信を飛ばす。
『奴らの狙いは――由香里だ』
違和感は、確信へと変わっていた。
達也の両手に、二振りの刀が顕現する。
執拗に使われる弱体化魔法。
だが、その効果自体は限定的だった。
――問題は、別にある。
「……流石に気付きましたか。ですが、もう遅い」
魔王が、冷たく告げる。
次の瞬間。
「幻日流奥義――空牙」
放たれたのは、達也自身の技。
――由香里が、達也を攻撃した。
邪悪な気をまとい、無表情で立つ少女。
そこにいるのは、“英雄の娘”ではなかった。
「どれだけ検証しても、貴方には敵わない。
ならば――“英雄”を倒せるのは、“英雄”だけだ」
魔王の声が、勝利を確信した響きを帯びる。
「エリザベートの側近、エキドール殿の資料によれば……
“英雄”の娘の心には、暗黒が存在する」
「その闇を精神制御で増幅し、魔法で操る――完璧な策だ」
魔王は、満足げに笑った。
「“英雄”磯崎達也よ。
娘相手に、本気は出せまい。――お前の負けだ」
追い詰められた達也。
だが――
彼は、わずかに笑った。
次の瞬間。
莫大な気が、爆発的に膨れ上がる。
「……何か勘違いしてないか、魔王バーミリオン」
達也の目は、異様なほど輝いていた。
「今、一番戦ってみたい相手は――由香里なんだぜ?」
「こんなに強い奴と戦えるなんて、最高だろ」
「……バカな……」
魔王バーミリオンは、言葉を失う。
「ただの戦闘狂なのか……“英雄”達也は……」
「今のお前なら、全力を出してもいいよな」
達也は、由香里に向けて笑う。
「やろうぜ。――頂上決戦だ」
『“アデュー”。由香里を、ちゃんと守れよ』
次の瞬間。
膨張した気が、魔王城そのものを軋ませる。
今、最強親子同士の戦いが幕を開ける。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
魔王が選んだ答えは「力」ではなく「心」。
そして達也は、その想定すら楽しむように受け入れました。
次話、親子同士の頂上決戦へ――物語はさらに加速します。




