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第58話 勝者と敗者それぞれの誤算

第58話です。

勝利の裏に残った現実と、それぞれが抱えた“誤算”。

英雄として、国として、そして敵として――

決戦前夜へ向けた、静かな転換点となる一話です。

英雄騎士団と国王軍は、確かに勝利した。

だが――そこに祝勝の空気はなかった。


国王軍が一時とはいえ敗走した事実。

魔王軍の巧妙な策略に翻弄され、王城への侵入すら許してしまった現実。


英雄騎士団の団員も、国王軍の兵士も、誰もが理解していた。

この戦いに勝てたのは、自分たちの力だけではない。


――“英雄”が帰還していなければ、敗者は自分たちだったのだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


王城・執務室。


今後の方針を話し合うため、主要人物が一堂に会していた。


国王。

国王軍参謀ケイセン。


英雄騎士団

団長 磯崎達也

副団長 ラーハルト

第一部隊隊長 レガイア

第二部隊隊長 ミューゼ

第三部隊隊長 サイナス

第四部隊隊長 イライザ

第五部隊隊長 ヒュートラン


そして――

英雄 加山由香里。


国王が席を立ち、深く頭を下げる。


「英雄騎士団団長、磯崎達也殿。

 英雄、加山由香里殿。

 今回の戦闘でのご活躍、国民に代わり感謝いたします。本当に……ありがとうございました」


その言葉に続き、参謀、騎士団幹部、全員が一斉に頭を下げた。


「……ありがとうございました」


「頭を上げてください。

 私は、私に出来ることをしただけですから」


由香里は少し戸惑いながら、そう答えた。


「……街の被害は?」


静かに、だが核心を突くように、達也が問いかける。


「王都北側と東側の被害が甚大です」

副団長ラーハルトが即座に報告する。


「市場は三分の一が壊滅。

 残りは国の保有する倉庫街……こちらは全滅です」

第四部隊隊長イライザが続けた。


「……国の復旧が最優先だな」

達也は即断する。


「ですが……まだ魔王と、その参謀が残っています」

第一部隊隊長レガイアが懸念を口にする。


「なら――」

達也は迷いなく言った。

「俺と由香里で倒してくるのが一番だろう」


「っ……“英雄”に、これ以上甘えるわけにはいきません」

副団長ラーハルトが声を荒げる。


「魔王を倒すために俺たちはいる。

 この世界の“英雄”は、そのために存在している」


達也の言葉は、重く、そして揺るぎなかった。


「……しかし……」

それでもラーハルトは言葉を失わない。


「ラーハルト」

国王が静かに口を開いた。

「お主の言うことは、もっともだ。

 だが……情けない話だが、魔王を討つ戦力がない。

 “英雄”殿以外には、な」


国王は再び、深く頭を下げた。


「“英雄”達也殿、由香里殿。

 誠に申し訳ないが……魔王討伐をお願い出来ないだろうか」


「国王、頭を上げてくれ」

達也はすぐに言った。

「俺たちはこの世界の神から依頼を受けている。

 だからこそ、この国の人々は――自分たちの国のために動いてくれ」


「……わかった」

達也はそう言って踵を返す。

「明日の朝、由香里と共に魔王を討伐してくる」


由香里は一瞬驚き、すぐに立ち上がって後を追った。


「……申し訳ありません」

達也たちが去った後、参謀ケイセンが深く頭を下げる。

「我々は、あまりにも弱すぎました」


副団長ラーハルトも続いた。


「達也様と由香里様が作ってくださるこの時間。

 必ずや、強く、豊かな国を築くことを誓います」


その場にいる全員が、同じ決意を胸に刻んでいた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一方――。


参謀エバンスは、魔王城へと戻っていた。


重く、引きずるような足取り。

練りに練ったはずの作戦は、完全に見抜かれ、叩き潰された。


「……想定外、か」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


玉座の間。

闇の奥に座す魔王が、ゆっくりと視線を向けた。


「報告せよ、エバンス」


「……申し訳ありません」

参謀エバンスは片膝をつき、頭を垂れる。

「英雄騎士団、そして“英雄”達也と由香里……

 我が軍は、敗退しました」


沈黙。

だが魔王の声は、怒りよりも冷静さを帯びていた。


「……やはり来たか。“英雄”」


魔王は低く笑う。


「明日、遅くとも明後日には来るだろう。

 磯崎達也と、その娘……」


「はっ……」


「エバンス。城を固めよ」

魔王は命じる。

「これが、最後の戦いになる」


「……承知しました」


参謀エバンスは立ち上がり、拳を強く握り締めた。


敗北の痛みは消えない。

だが――逃げ場は、もうない。


(ここで終わらせるわけにはいかない……)


彼もまた、覚悟を決めていた。


勝者と敗者。

それぞれの誤算が、

やがて――決戦という形で交錯する。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

今回は戦闘後の空気感と、エバンス側の覚悟を重視しました。

次回から物語はいよいよ魔王城へ。

親子の戦い、その結末を見届けていただければ幸いです。

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