第57話 英雄の読みとエバンスの誤算
最強は、力だけではない。
英雄の“読み”と、娘の“覚悟”が交差する第57話。
戦場に残された由香里と、王城へ戻った達也――
それぞれの選択が、四天王と参謀の運命を大きく狂わせていく。
親子の絆が、戦況を覆す。
エバンスは、ただ立ち尽くしていた。
目の前にいるはずのない存在――“英雄”達也が、王城中庭に戻ってきている理由が理解できなかった。
「俺ならどう攻めるかって考えただけだ」
達也は、淡々とそう言った。
「超獣化した四天王が、まだ三体も戦場に残っているというのに……なぜ戻って来られた……」
参謀エバンスの声は震えていた。
「覚醒した“英雄”は伊達じゃない」
達也はどこか誇らしげに、だがそれ以上に“父”としての自信を滲ませる。
◆◆◆◆◆◆
その頃――
戦場の中心では、異変に気付いた四天王たちが立ち尽くしていた。
「バカな……なぜ、気付けなかったのだ……」
超獣化したシーザリオンが、低く唸る。
「……甲冑だ」
ゴルディアスが、悔しげに歯を食いしばった。
「同じ甲冑……だが、手の装備だけが左右逆だった。攻撃のたびに左右を入れ替え、こちらの認識をずらしていたのだ。
我らは“違い”を探そうとして、逆に罠に嵌った」
「ふん……まぁいい」
ガニメデが、不敵な笑みを浮かべる。
「娘一人を残したこと、後悔させてやる」
「一人だとしても“英雄”には違いない」
シーザリオンが構えを取り直す。
「我ら三体、同時に仕留める」
三体の四天王は、限界まで力を高めた。
大地が軋み、空間そのものが歪む。
「ダイダロス・インフェルノ!」
「メテオ・ファイナル!」
「超聖霊砲!」
三つの必殺技が重なり合い、特大のエネルギー弾となって由香里へと迫る。
「“アデュー”……二人のおとうさんが託してくれた、みんなの希望で――断ち切る」
由香里は腰に付けた飾りを強く握り、天へと翳した。
眩い光の中、一振りの日本刀が目を覚ます。
刀身は白く、温かく、確かな意思を宿していた。
「そんな刀で、我らの力を断てるものか!」
「エネルギーを刀で斬るなど、聞いたこともない!」
疑いすらなかった。
――斬れるはずがない、と。
だが。
「二人のおとうさんの願いと希望は――こんなエネルギー弾なんかに負けない!」
由香里の身体が光に包まれ、気が爆発的に高まる。
――一閃。
特大エネルギー弾は、真っ二つに両断された。
斬撃は止まらない。
切り裂かれた衝撃波がそのまま突き進み――
「なっ――」
ガニメデの巨体を、縦に両断した。
声すら上げられず、四天王ガニメデは崩れ落ちる。
「……二体、残ったね」
由香里は静かに刀を構えた。
「来るぞ、ゴルディアス!」
「言われるまでもない!」
二体の四天王が同時に襲い掛かる。
だが――
「幻日流剣技 天照!」
速い。
重い。
そして、的確すぎる。
由香里の動きに迷いはなく、一撃一撃が致命だった。
ゴルディアスの剛拳を正面から受け止め、体勢を崩した瞬間に胴を断つ。
シーザリオンの飛翔を読み切り、空中で跳躍――首元を一太刀。
「ば……かな……」
二体の超獣化四天王は、ほとんど抵抗できぬまま撃破された。
――戦場は、静まり返る。
◆◆◆◆◆◆
場面は変わり、王城中庭。
「う、うわあああっ!」
達也は一人で、魔王軍の残党を蹂躙していた。
拳が振るわれる度に、敵は吹き飛び、恐怖だけを残して逃げ惑う。
「……撤退だ! 撤退しろ!」
エバンスは歯を食いしばり、命からがら転移魔法を展開する。
「こんな……こんなはずでは……」
光に包まれ、彼は魔王城へと逃げ帰った。
その背後で、王城には静寂が戻る。
そして――
戦場の空には、“英雄”親子が勝利した証だけが、確かに残っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は「英雄の強さ=戦闘力ではない」という点を意識して描きました。
由香里の成長と、達也の信頼が噛み合った一話です。
次回も親子の物語をお楽しみください。




