第48話 英雄の名を持つ者
四天王最後の二体、その前に立つ由香里。
英雄の血ではなく、英雄としての“意志”が試される瞬間。
静まり返った戦場で始まる、決着の一撃をお楽しみください。
世界が、静まり返っていた。
だがそれは――
戦いが終わったからではない。
終わることを、誰もが直感していたからだ。
由香里の前に立つ2体の四天王。
海竜王シーザリオンと、刃獣王ゴルディアス。
その眼には、確かな動揺が宿っていた。
「……馬鹿な」
シーザリオンが、喉の奥で低く唸る。
「さっきまでとは、まるで別の存在だ……」
「だが――」
ゴルディアスが、爪を地面に立てる。
「我らは四天王。超獣化の力を疑う理由はない」
2体は、同時に魔力を解放した。
海と大地が呼応し、殺意が嵐のように収束する。
「行くぞ、英雄の娘――否」
シーザリオンが、由香里を睨み据える。
「英雄」
次の瞬間――
暴力の奔流が、由香里へと殺到した。
◆
だが。
それは、攻撃ですらなかった。
由香里は、動かない。
構えもしない。
ただ――一歩、踏み出した。
《解析完了》
《最適行動――実行》
“アデュー”の声と同時に、世界が折り畳まれる。
シーザリオンの放った水龍砲は、由香里の横を通過する前に“消失”した。
ゴルディアスの突進は、距離そのものが否定され、踏み込みが成立しない。
「――なに?」
理解する前に、終わっていた。
由香里の姿が、2体の懐に同時に存在した。
剣でも、拳でもない。
由香里が振るったのは――意志だった。
「――ごめんね」
「幻日流秘奥義 天地鳴動!」
その一言が、最後だった。
◆
音は、なかった。
光が走り、
空間が一瞬だけ、静止する。
次の瞬間。
シーザリオンの巨大な胴が、真っ二つに分断される。
切断面は、燃えることも、凍ることもなく、ただ“終わり”を迎えていた。
「……見事、だ……」
崩れ落ちながら、シーザリオンは笑った。
「英雄の名に……相応しい……」
光となり、海へと還っていく。
同時に。
ゴルディアスの身体が、内部から崩壊を始めた。
「は、はは……」
血を吐きながら、それでも立ったまま、由香里を見る。
「刃を極めたつもりだったが……まだ、先があったか……」
最後に、深く頭を下げた。
「貴様と、その騎士団に……栄光を……」
次の瞬間、
刃獣王は黒い粒子となり、完全に消滅した。
◆
――静寂。
次いで。
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
英雄騎士団の歓喜の雄叫びが、戦場を震わせた。
「勝ったぞ!!」
「四天王を、全て討ち取った!!」
誰もが、抱き合い、泣き、叫んだ。
由香里は、その中心で、静かに息を吐いた。
《戦闘終了》
《英雄因子“アデュー”、安定》
「……ありがとう」
《当然です》
《私は、あなたですから》
由香里は、微笑んだ。
四天王との戦いに、ついに終止符。
由香里は「英雄の娘」ではなく、「英雄」として立ちました。
次回は戦いの後――静けさの中で動き出す、人の思惑が描かれます。




