第44話 由香里と英雄騎士団
中央砦後方で進む、由香里と英雄騎士団の戦い。
父・達也と共に戦い続けた騎士たちとの連携の中で、由香里は“英雄の娘”から“一人の英雄”へと踏み出します。
四天王ガニメデとの激突、その結末をお楽しみください。
達也が東の砦で暴れている頃――
中央砦後方では、王国軍参謀ケイセンが英雄騎士団と最終確認を行っていた。
「西の砦方面は、魔法防御を中心とした王国軍が受け持ちます」
ケイセンは地図を指し示す。
「正面――中央砦へ向かう敵主力は、由香里様と英雄騎士団にお願いします」
その言葉を引き継ぎ、ラーハルトが一歩前に出た。
「由香里様には、四天王の一角をお願いします」
静かな声で、だが力強く告げる。
「左翼は第一部隊・第五部隊。右翼は第二部隊・第四部隊。中央後方は第三部隊とする」
団員たちの表情が引き締まる。
「この戦いに勝つことが――今まで散っていった仲間への恩返しだ」
ラーハルトは拳を握りしめた。
「全員、“生きる”ことを最優先に行動しろ」
これ以上、大切な仲間を失いたくない――
その想いは、全員に伝わっていた。
その時。
「伝令! 西の砦、陥落!」
息を切らした兵が叫ぶ。
「魔王軍、進撃を開始しています!」
「……来たか」
ケイセンは即座に判断を下す。
「これより戦闘を開始する。総員――進軍!」
号令と同時に、戦場が動いた。
「幻日流・加山由香里。突貫します!」
由香里は迷いなく、先陣を切って駆け出した。
中央砦へ雪崩れ込む魔物の群れへ、一直線に。
「第四部隊! 由香里様に続け! 右翼にも展開!」
第四部隊長イライザが剣を掲げる。
「第二部隊、身体強化魔法を由香里様と第四部隊へ!」
ミューゼが魔法陣を展開し、同時に索敵魔法を広げる。
「第一部隊、左翼の王国軍を援護しつつ敵部隊を殲滅!」
レガイアが先頭に立つ。
「第五部隊、撃ち漏らしは一体も残すな!」
ヒュートランが弓を引き絞る。
「第三部隊は回復専念だ。状態異常も全て治す!」
サイナスの声に、癒しの魔力が広がった。
完璧な連携。
それは、達也と共に戦い続けた英雄騎士団の集大成だった。
そして――
由香里が、魔物の先頭へと躍り出る。
「幻日流奥義――空牙!」
達也と同じ技。
放たれた斬撃が、魔王軍の先陣を一気に薙ぎ払った。
「幻日流奥義――炎舞一式!」
久美から受け継いだ蹴撃が、炎の軌跡を描き、魔物たちを吹き飛ばす。
「……凄い」
後方から見ていたイライザが思わず唸った。
「魔王軍を、正面から割っていく……」
第四部隊は、由香里が切り開いた道を突き進む。
残敵を確実に仕留めながら。
「幻日流奥義――大瀑布!」
叩きつけられた一撃。
だが、その先に――巨体が立ちはだかった。
「四天王ガニメデ……!」
巨大な甲羅を持つ魔物が、腕を交差させる。
「この程度で、ワシの甲羅を撃ち抜けると思うな」
由香里は、口元に小さく笑みを浮かべた。
「……じゃあ、これは?」
助走。
跳躍。
天高く舞い上がり、全体重を乗せて――
「幻日流・秘奥義――竜破斬!」
竜の鱗すら引き裂く一撃が、ガニメデを襲う。
防御に出したその瞬間――
甲羅ごと、左腕が肩から裂けて吹き飛んだ。
「が……ふっ……ば、馬鹿な……」
由香里が放った《竜破斬》により、
四天王ガニメデの左腕は、甲羅ごと無惨に裂けて地へ落ちた。
「が……あ、あり得ん……ッ!」
重厚な甲殻こそが誇りであり、絶対の防御。
それを――真正面から破壊された事実に、ガニメデは理解が追いついていなかった。
「由香里様! 今です!」
後方からイライザの声が飛ぶ。
「第四部隊、援護に出る!」
「第二部隊、由香里様に魔力増幅! 防御も重ねます!」
ミューゼの展開した魔法陣が輝き、由香里の身体を包み込む。
一瞬、身体が軽くなった感覚。
「……ありがとう」
由香里は短く答え、再びガニメデを見据えた。
「小娘がァァァ!!」
激昂したガニメデは、残った右腕を地面へ叩きつける。
衝撃波が大地を割り、土砂と瓦礫が吹き上がった。
「第三部隊、前線回復! 衝撃波の被害を抑えるよ!」
サイナスの魔法が、味方を守る。
「第一・第五部隊、周囲の魔物を殲滅! 由香里様を孤立させるな!」
ラーハルトの指示が的確に飛ぶ。
英雄騎士団は、完璧に“由香里を主軸とした戦場”を作り上げていた。
由香里は瓦礫を蹴り、一直線に距離を詰める。
「幻日流奥義――空牙・連!」
斬撃が連続して叩き込まれ、ガニメデの甲羅に無数の亀裂が走る。
「ぐっ……!!」
「終わりだよ、ガニメデ」
由香里は深く息を吸い、足に力を溜める。
――父から学んだこと。
――仲間と戦う意味。
――そして、自分が“英雄の娘”である理由。
「幻日流・秘奥義――」
身体が跳ね上がる。
「――《竜破・天墜》!!」
天から落ちる流星のような一撃。
全魔力を乗せた踵が、ガニメデの胸部――甲羅の中心へ叩き込まれた。
轟音。
次の瞬間、
ガニメデの巨大な身体が、甲羅ごと内側から砕け散った。
「……ば、かな……」
断末魔の言葉と共に、
四天王ガニメデは黒い粒子となって霧散する。
――沈黙。
やがて。
「……倒した」
誰かが呟いた。
「四天王を……由香里様が……!」
戦場に、歓声が広がる。
「流石です、由香里様……!」
イライザは剣を下ろし、心から称賛した。
「達也様の娘……いや」
ラーハルトは静かに言う。
「英雄・加山由香里だ」
由香里は大きく息を吐き、剣を下ろした。
「……みんなのおかげだよ」
少し照れたように、でも誇らしげに微笑む。
英雄騎士団と共に立った戦場で、
由香里は――確かに“英雄の一人”として証明されたのだった。
四天王一角、討伐完了。
だが――
魔王軍との戦いは、まだ終わらない。
次なる戦場で、父と娘の物語はさらに加速していく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
由香里と英雄騎士団が積み重ねてきた絆が、ようやく一つの形になりました。
次話からは、魔王軍の本格的な反撃が始まります。
父と娘、それぞれの戦場も交錯していきますので、引き続きお楽しみください。




