第42話 スゴイ奴?・・・第2王子バルタン
皆様、明けましておめでとうございます。
今年初の第42話になります。
東の砦に到着した王国軍一個大隊。
だが率いる第2王子バルタンは、英雄達也に対して露骨な上から目線を向ける。
その采配の裏で、達也は静かに“本当の戦場”を見据えていた。
権力と無能、そして英雄の覚悟が交錯する第42話です。
二人の英雄が救った東の砦。
そこへ――王国軍一個大隊が到着した。
率いるのは、王国軍軍団長バルタン。
“王国最強の部隊”と称される大軍であり、
同時に――その名は、騎士達の間で決して良い意味では囁かれていなかった。
「英雄“達也”。任務ご苦労。
流石だな、私の指示通りに動いてくれた」
バルタンは、まるで自分の手柄であるかのように、平然とそう言い放った。
「……また始まった」
「手柄の横取りだ」
騎士団の中から、小さな声が漏れる。
「この戦争がここまで拗れてるのは、あの人の采配ミスだろ」
「第一級戦犯だよ」
そんな囁きが、あちこちで交わされていた。
バルタンはその空気を気にも留めず、達也へ歩み寄る。
「貴様が暫く姿を見せなかったせいで、我が軍の損害は計り知れない。
今回の働きだけでは、まだまだ足りぬな」
完全な上から目線だった。
「バルタン殿」
副団長ラーハルトが、静かに一歩前へ出る。
「我が国の英雄に向かって、あまりにも無礼ではありませんか」
「その英雄がいなければ、何も出来ない騎士団の副団長が何を言う」
バルタンは鼻で笑い、一蹴した。
「まぁまぁ、そこは終わってからにしようや」
達也は、いつの間にかバルタンの背後に立っていた。
「で、軍団長様はこの戦場をどうしたいんだ?」
不意の問いに、バルタンは不機嫌そうに振り返る。
「お前が逃した四天王ガニメデは、既に魔王城へ帰還した。
当然、援軍か――あるいは全軍で攻めてくるだろう」
バルタンは淡々と続けた。
「この東の砦は国王軍が死守する。
中央と西の砦は、英雄殿に任せたい」
「なるほど」
達也は軽く頷いた。
「悪くない考えだな。じゃあ、すぐに支度しないとな」
あまりにもあっさりした返答に、周囲がざわつく。
「流石は英雄殿。良い心がけだ」
満足そうに言い残し、バルタンはその場を去っていった。
「達也様……どうして、あんな条件を……」
ラーハルトが困惑した表情で問いかける。
「俺が魔王ならな」
達也は肩をすくめる。
「四天王、全軍で攻める。最初からそうするつもりだった」
「え……?」
「だから部隊は分けない。
中央砦の後方で、四天王全軍を迎え撃つ」
バルタンの案より、遥かに過酷な作戦だった。
「そ、それでは砦が落ちてしまいます!」
ラーハルトが慌てて反論する。
「俺たちが守るのは砦か?」
達也は静かに言った。
「違うだろ。王国の国民だ」
そして、淡々と続ける。
「王国軍の参謀には、もう話を通してある。
知らないのは……軍団長だけだ」
皮肉を込めて、達也は笑った。
「権力を持った無能ほど、厄介なものはない。
無駄な死を減らすためだよ」
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆
中央砦後方に到着した英雄騎士団は、即座に行動に移った。
テントを設営し、団員に食事を取らせ、仮眠まで確保する。
戦場とは思えぬほど、冷静で合理的な動きだった。
「相手は魔王軍四天王“全軍”だ」
達也は笑って言う。
「すぐに動ける連中じゃない。
まず西の砦付近から煙が上がるだろ。
ヒューマンの造った物なんて、真っ先に壊したくなるからな」
それが、戦闘開始の合図。
「それまでは、リラックスしてていい」
翌朝。
王国軍は軍団長バルタンを東の砦に残したまま出発し、昼前には騎士団へ合流していた。
「ケイセン殿、無事に来られましたな」
達也が参謀ケイセンを労う。
「軍団長には、砦に残ってもらった」
ケイセンは淡々と答える。
「命からがらの敗走というものを、少しは味わってもらわねば」
「怖いこと言うなぁ」
達也は苦笑した。
「じゃあ、行ってくるよ。バカ王子を助けにね」
「……あれでも一国の王子だからな」
そして、由香里に振り返る。
「由香里。後は頼む。
四天王、何匹か倒しといていいから」
「おとうさん! 無茶言わないで!」
由香里は完全にパニックだ。
「四天王だよ!? 四天王!!」
「まぁまぁ。俺が戻るまで、頑張ってくれ」
完全なる無茶振りだった。
⸻
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
東の砦で朝を迎えた軍団長バルタンは、
何も知らぬまま、優雅に朝食を取っていた。
「……妙に静かだな」
そう呟いた直後――
「バ、バルタン様! 砦に人がいません!!」
側近が血相を変えて飛び込んでくる。
「なに……?」
「魔王軍、進軍中です!!」
窓の外には、空を覆う影。
空の四天王フレイヤ――翼を持つ魔物を束ねる空の王。
「軍団長バルタンを発見。捕えよ」
号令と共に、魔物達が襲いかかる。
「バルタン様、早く逃げて下さい!
我々が時間を稼ぎます!」
側近二人は馬を降り、命懸けで前に出た。
だが――空からの攻撃に、抗えるはずもない。
「弱者が、戦場に出るな」
無慈悲な一撃が振り下ろされる、その瞬間――
―――“幻日流奥義 空牙”
圧倒的な斬撃が空を裂き、魔物達は消滅した。
「……なにが……起きた……?」
フレイヤが、進軍を止める。
「やはり来たか……英雄・達也」
恐怖が、その声に滲んでいた。
「早く王子を連れて、中央の砦へ行け。
王国軍本隊も、そこにいる」
達也は側近達に向き直り、深く頭を下げた。
「怖い思いをさせて、すまなかった」
それは、計算の上で彼らを危険に晒したことへの、真摯な謝罪だった。
達也は、東の砦の前に仁王立ちする。
「四天王フレイヤ――勝負だ」
四天王の一角との激突。
魔王軍との決戦は、ここから始まる。
第2王子バルタン、ついに本格登場です。
有能な敵よりも、無能な味方が恐ろしい――そんなテーマを意識して描きました。
次回はいよいよ四天王フレイヤとの本格戦闘へ。
由香里の試練も、ここから始まります。




