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第40話 英雄騎士団の礼と、父の背中

戦いのあとに訪れる、静かな時間。

英雄としてではなく、一人の戦友として向けられる敬意。

そして父の背中を見つめる娘の想い。

第40話は、剣を振るわない戦場での“成長”の物語です。

砦の中央広場は、いつになく静かだった。


瓦礫は片付けられ、血の匂いも薄れ、

戦いの痕跡は――空気の奥にだけ、かすかに残っている。


そこに、

英雄騎士団が整列していた。


「……すごい人数」


由香里は、小さく息を呑んだ。


正面には、達也。

その背後に、副団長ラーハルトを筆頭とする幹部たち。

さらに、その後ろには――騎士団全員。


一糸乱れぬ姿勢。

誰一人、私語はない。


「……あの」

由香里は、そっと達也の袖を引く。

「……これ、やっぱり……大げさじゃ……」


「大げさじゃない」

達也は、前を向いたまま答える。

「戦場で命を預けた相手に、礼を尽くす」

「それは、誇るべきことだ」


由香里は、言葉を失った。


――ああ。

この人は、本当に。


(……こういうところが……)


尊敬と、誇らしさと、

ほんの少しの、距離。


胸の奥で、何かが静かに動いた。



ラーハルトが、一歩前に出る。


「英雄騎士団、総員――」


その号令に、

全騎士が、同時に膝をついた。


「っ……!?」


由香里の目が、大きく見開かれる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

思わず声が出た。


だが、ラーハルトは頭を下げたまま、はっきりと言った。


「由香里様」

「あなたは、本戦において左翼崩壊を防ぎ、

敵指揮系統を混乱させ、砦を救われました」


「その功績は、

一個小隊に匹敵――いえ、それ以上です」


「……っ」


由香里は、唇を噛む。


(そんな……)

(私、必死だっただけなのに……)


だが、騎士たちの視線は、真剣だった。

そこには、誇張も、忖度もない。


――純粋な、評価。


「英雄騎士団は、ここに宣言します」


ラーハルトは、拳を胸に当てた。


「由香里様を――

“英雄の娘”としてではなく、

“戦場を共にした戦友”として、敬意を表する」


その瞬間。


「……っ」


由香里の胸が、熱くなった。


達也が、横目で彼女を見る。


「どうする」

「逃げるか?」


「……逃げません」


由香里は、前に一歩出た。

足は、少し震えている。

でも――立ち止まらない。


「……ありがとうございます」


深く、深く、頭を下げる。


「私……まだ、全然足りません」

「怖くて、必死で……」


顔を上げて、

まっすぐ、騎士たちを見る。


「それでも」

「また一緒に戦う時が来たら……」

「背中、預けてもらえるくらいには、強くなります」


一瞬の静寂。


そして――


「……はっ!」


誰かが、こらえきれず声を漏らした。


「十分だ……」

「いや、将来が怖すぎる……」


「さすが、達也様の……」


ざわめきが、笑いへと変わっていく。



儀礼が終わり、

人が散っていく中。


由香里は、砦の壁の上に立っていた。

夕陽が、戦場跡を赤く染めている。


「……おとうさん」


「ん?」


「……私」

少し迷ってから、言う。

「今日は……ちゃんと、戦えた?」


達也は、しばらく沈黙し、

そして――珍しく、柔らかく笑った。


「ああ」

「俺の背中を見失わなかった」

「それだけで、十分だ」


「……そっか」


由香里は、拳を握る。


(でも……)

(いつか――)


背中を見るだけじゃなく、

並んで立てるくらいに。


「……ねえ」

由香里は、顔を上げて言った。

「次は……もっと、役に立つから」


達也は、夕陽の向こうを見つめたまま、

短く答えた。


「期待してる」


それは、

英雄としてではなく、

父としての言葉だった。


砦に、夜が降りてくる。


戦いは終わった。

だが――


由香里の中で、

新しい戦いが、静かに始まっていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

今回は大きな戦闘ではなく、由香里の心が一歩前に進む回でした。

父と娘、英雄と戦士――その距離がどう変わっていくのか。

次回も見守っていただけると嬉しいです。

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