第36話 異世界に来てしまった…
父と娘、再び異世界へ――。
思わぬ転移から始まる新たな戦いと修行の日々。
父として、英雄として、そして娘として。
それぞれの覚悟が試される第36話、どうぞお楽しみください。
光が瞼を刺激する。
目を開けると、そこには信じられないほど高い天井が広がっていた。ギリシャ神殿を思わせる巨大な柱が、何本も規則正しく並んでいる。
「全く……無茶をする。誰に似たんだかな」
そう言って由香里を抱き起こしたのは、達也だった。
「おとうさん……ここは……?」
由香里はふらつきながらも立ち上がり、周囲を見回して問いかける。
「元クソ女神の城だ。まあ、今は違うみたいだがな」
達也はぶっきらぼうに答えた。
「達也。戻って来て早々、問題を持ち込むとはな」
創造神アガレスが、重々しい声で問いただす。
「光の柱に巻き込まれたんだ。すぐに元の世界へ戻してやってくれ」
達也は短く事情を説明した。
「貴方の娘――加山由香里さんですね。英雄因子を持つ彼女を、このまま帰すわけにはいきません」
アガレスは淡々と続ける。
「英雄・達也と共に、我々の世界を救っていただきます」
「おとうさん。私がしたことだから、私が責任を取ります」
由香里は一歩前に出て、凛とした表情で言い切った。
「由香里……お前……」
達也はその決意を誇らしく思う気持ちと、父としての不安の間で揺れていた。
だが――
「ダメだ。お前に何かあったら、由香に顔向けできん」
それが、父としての答えだった。
「創造神アガレスの名において命令します」
アガレスは感情を挟まず宣告する。
「達也、由香里。二人でこの世界を救いなさい」
達也の想いなど意に介さず、強引に話を進めた。
「……アガレス。わかった。で――報酬は?」
達也は即座に思考を切り替えた。
「報酬は、娘を元の世界へ帰すことだ」
「それは俺への報酬だろ。由香里の分は?」
まるで分かっていたかのような切り返しだった。
「……それは、この世界の住人では……」
アガレスが言い訳を始めかけた瞬間――
「俺もこの世界の住人じゃない。そもそも依頼なんだろ? その言い訳は通用しない」
達也は一歩も引かない。
「……わかった。今は、どの程度の活躍をするか分からん。依頼達成後に考えよう」
渋々、アガレスは応じた。
(“セイラ”。正樹の防具は、こちらでも使えるのか?)
達也が心の中で問いかける。
『はい、マスター。正樹様の力もこちらの世界の力です。問題ありません。
正樹様から託された、マスター専用アダマンタイト装備も準備できています』
待っていましたと言わんばかりの返答だった。
「ところでアガレス。エリザベートが支配していた世界の魔王は、倒したはずだが?」
達也は疑問を投げかける。
「エリザベートが放った魔物が進化し、魔王以上の存在となっている。
達也がいた王国軍も追い詰められ、今や近衛部隊しか残っていない」
状況は、想像以上に深刻だった。
「……なるほど。由香里と一緒に、そいつらを全部片付けろってことだな」
「頼む。まずは東の渓谷だ。王国軍最後の砦がある」
達也は静かに頷き、由香里へと向き直る。
「修行再開だ。異世界バージョン。実戦での化け物退治」
「うん。頑張ろう、おとうさん」
こうして――
異世界に場所を移しての修行が始まった。
だが、いつものことながら、順調に進むはずもない。
異世界珍道中。
あるいは、異世界恋模様。
達也と由香里は、次々と新たな戦いへと巻き込まれていく。
そして――
最も危険な存在、“セイラ”の活躍や、いかに。
ここから物語は本格的に「父娘タッグの異世界編」へ突入します。
修行、戦闘、そして少しの波乱も……?
次回からの由香里の成長と“セイラ”の動きにもご注目ください。




