第35話 親子の絆の物語
現代での修行を終え、ついに訪れる別れの時。
父として、英雄として生きる達也。
そして、その背中を追うことを選んだ娘・由香里。
これは戦いの物語ではなく、
「親子の絆」が未来を切り拓く瞬間を描いた物語です。
今できるすべての修行を終えた仲間たち。
加山家の面々と達也は、静かに帰路についた。
「達也、またね」
「たっくん……元気で……」
瑠璃と紅音は、名残惜しさを胸に秘めながら見送る。
「紅音、泣かないの」
瑠璃は穏やかな声で言った。
「これからは、達也がいなくても出来るって証明し続けなきゃ。それに――二人で約束したでしょ。最後の日は“家族と共に”って」
毅然とした態度の中に、姉としての優しさが滲んでいた。
「……うん。たっくん……私、頑張るからね」
紅音は涙を拭い、自分自身にそう誓った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
由香里たちは自宅へと戻った。
「久美、お風呂入れて。由香里はお母さんと夕飯の手伝い。お父さんはリビングの用意。たっちゃんは道場の片付け!」
一家の司令塔――由香の号令が飛ぶ。
最初に久美と由香里が風呂へ入り、騒ぎすぎて由香に怒られるのはいつものこと。
次に由香、正樹、そして最後に達也が入った。
「はぁ……気持ちいいなぁ。これがこの世界で最後の風呂かもしれんしな」
感慨深く湯船に浸かりながら、達也は調子に乗ったのか歌い始める。
「夏を待ちきれなくて」から始まり、「ff」、最後は「また逢う日まで」。
それは、昔から変わらない彼のルーティンだった。
「達兄、ご機嫌だね」
久美が笑う。
「おとうさん、早く異世界に帰りたいのかな……」
由香里が少し不安そうに言う。
「そんなことないわよ」
由香が優しく首を振った。
「きっと、あなたたちの成長が嬉しいのよ。親にとって、子供の成長ほど嬉しいものはないもの。それに――この世界に戻ってきてから、あんなに嬉しそうなたっちゃん、初めて見たわ」
由香自身も、子供たちの成長を心から誇らしく思っていた。
そこへ、風呂上がりの達也が現れる。
「やっぱりこの世界の風呂は最高だな。異世界だと、基本は水浴びだからさ」
異世界の文化レベルを、悪びれもなく口にする。
由香が腕によりをかけた料理が並び、達也は待ちきれない様子で席に着く。
正樹の「いただきます」の号令とともに、いつもと変わらぬ賑やかな食卓が始まった。
食事を終え、達也は道場へ向かう。
勝手口を抜けたところで、ふと足を止めた。
「……綺麗な月だな」
道場に入り、この世界で使っていた装備を片付け、異世界仕様の装いへと着替える。
「中世ヨーロッパって感じの服だよな。これはこれでアリかもな」
正樹が興味深そうに言う。
「重いんだよ。甲冑だからな」
達也は苦笑した。
正樹は空間から淡く光る鉱石を取り出す。
「純度の高いアダマンタイトだ。お前の中の“セイラ”さんなら、お前に合う装備を作ってくれるはずだ」
「ありがとよ。相変わらず世話焼きだな」
達也は感謝を込めておどける。
「お前みたいなのを相手にしてると、自然とそうなるんだ。少しは無茶を控えろ」
正樹は呆れたように言った。
達也は苦笑しながら、その鉱石を自身の中へと収めた。
「たっちゃん……由香里のことも、私のことも助けてくれてありがとう」
由香が静かに頭を下げる。
「助けられて良かったよ。異世界に戻された時は、正直焦ったけどな」
達也は照れたように言った。
「……おとうさん」
由香里は、溢れる想いを言葉にできなかった。
「由香里……色々背負わせて、すまなかったな」
達也は心から謝った。
「ううん……でも、これからもずっとおとうさんと一緒にいたい……」
それは、娘の偽りのない願いだった。
「……すまん。向こうには、俺を待ってる約束があるんだ」
達也は胸を締めつけられる思いで告げる。
「うん……わかってる。向こうの人たちも、おとうさんを必要としてるんだよね」
由香里は葛藤を抱えながらも、受け止めた。
二人はしばらく、何も言えずに立ち尽くした。
互いを必要とし、互いの立場を理解しているからこそ、言葉が見つからなかった。
「由香里……」
「おとうさん……」
二人は強く、抱きしめ合った。
『……マスター、そろそろ時間です』
“セイラ”の申し訳なさそうな声が響く。
達也は道場の中央へ進む。
地面から、光の柱が立ち上った。
光は次第に強さを増し、達也の身体を包み込む。
「おとうさん!」
由香里は迷いなく、光の柱へと飛び込んだ。
次の瞬間、光は天へと昇り、消え去る。
「……由香里、あなた……」
そこには、もう二人の姿はなかった。
「無事だといいがな。父親そっくりで無茶をする」
正樹が呆れたように呟く。
「たっちゃんもいるし……きっと大丈夫よ」
由香はそう言って、正樹を見る。
「……あの子、あんなに思い詰めてたなんて」
久美は悔しそうに言った。
「相談してくれたら、一緒に行ったのに」
「あなたまで行ったら、お母さんたちはどうするの」
由香は久美の額を、指で軽く突く。
「久美の性格なら、そう思うのも無理ないな」
正樹が苦笑して代弁した。
こうして――
異世界へ戻った達也と、父の背中を追った由香里。
これから始まるのは、
最強の父と娘が紡ぐ、異世界英雄譚。
第35話までお読みいただき、ありがとうございます。
現代編はここで一区切り。
次回からは、父と娘が並び立つ異世界編が本格始動します。
最強の父と、覚悟を決めた娘。
二人が紡ぐ新たな英雄譚を、ぜひ見届けてください。




