第32話 修行 そして…
第32話は修行回です。
日常の温かさと、本気の実戦訓練。
由香里たちの成長、そして久美と静香の全力のぶつかり合いを描きました。
強さだけでなく、信頼と絆が深まる一話をお楽しみください。
「さぁ、たくさん栄養つけて。午後も頑張ってね」
昼食の卓には、由香の手料理が所狭しと並んでいた。
「あっ、久美姉ズルい! その唐揚げ、私の!」
「何言ってるの。早い者勝ちよ」
いつものように始まるおかず争奪戦。
「久美、由香里。いい加減にしなさい!」
由香の雷が落ちる。
だが、彼女の手に持つ皿には――山盛りの唐揚げ。
飴と鞭である。
「それだけ食べられるなら、修行レベルを上げても良さそうだな」
山盛りのご飯を平然と平らげながら、達也がさらりと言った。
久美と由香里は顔を見合わせる。
(ヤバ……)
二人とも、食べるペースが微妙に落ちた。
「育ち盛りは腹いっぱい食べておけ。食べたものは全部、力になる」
達也はおかわりの山盛りご飯を口に運びながら続ける。
その様子を、加山夫妻は幸せそうに見つめていた。
――この先の未来でも、同じ光景が見られますように。
そんな願いを胸に秘めながら。
◆◆◆◆◆◆
午後の修行が始まった。
道場には、道着姿の北条静香が静かに立っていた。
「これから実戦形式の修行だ。
まずは俺と由香里、次が静香と久美。
その後、相手を入れ替えて静香と由香里、俺と久美。
二戦やったら休憩。その後、もう二戦だ」
達也と由香里が中央で向かい合う。
制限時間は三十分。
一礼。
――その瞬間。
達也が一気に間合いを詰め、一撃を放つ。
由香里は気のシールドと腕の防御で受け止める。
すかさず達也の横蹴り。
今度は横へ跳んで回避し、蹴りが通過した刹那、踏み込み正拳を叩き込む。
達也は気のシールドと右腕のブロックで受け止めた。
静香と久美は、二人の攻防から目が離せなかった。
全力ではないとはいえ、異世界の英雄と互角に渡り合う由香里。
その成長は、目を見張るものがあった。
「なかなかやるな。じゃあ、少し本気を――
……ってヤベぇ。道場壊すところだった。
よし、基本の組み手でいこう」
慌てて力を制御する達也。
「達也様。道場内部にはシールドを張っていますが、
達也様の幻日流は、許容範囲を超えてしまいます」
静香が冷静に指摘する。
頼んだことをすっかり忘れていた達也は、頭を掻いた。
「お父さんらしいね」
由香里がくすっと笑う。
「悪かったな。ジジィは忘れっぽいんだよ」
年のせいにして誤魔化す達也。
「達兄はまだオジさん。中年だね」
久美が茶化す。
「久美……後で覚えておけよ……」
本気でぶっ飛ばす気の達也だった。
「久美姉は次でしょ。今は私の相手に集中してよ、お父さん!」
由香里が少し嫉妬混じりに言う。
「わかったわかった。ちょっと本気出すから、ガッカリするなよ」
達也は嬉しそうに構えた。
気を丹田に落とし、力を溜める。
由香里がステップを踏み、間合いに踏み込んだ瞬間――
目の前の達也が歪んだ。
正拳が空を切る。
背後に気配を感じ、前へステップして回避した――はずだった。
しかし、四方八方から同時に襲い来る衝撃。
気づいた時には、由香里は畳の上に倒れていた。
「……やっぱり、お父さんは凄い……」
差し出された手を取って立ち上がる。
「俺の幻影拳を受けて、その程度で済むとはな。
腕を上げたな、由香里。とりあえず合格だ」
達也は由香里の頭を優しく撫でた。
二人が道場の隅へ下がる。
中央に立ったのは、久美と北条静香。
「次は私たちの番ね」
久美はやる気満々だ。
「久美様相手でも、手加減はしませんよ」
静香も臨戦態勢に入る。
「望むところよ。本気で来ないと、ケガするのはそっちよ」
余裕の久美。
「久美。静香は忍者だ。手裏剣の使用は認めてくれ。
刃は殺してある。シールドを張れれば怪我はしない」
達也が念を押す。
「構わないわ。勝つのは私だから」
「舐められてますね……後悔しますよ」
静香は気を膨らませた。
――静寂。
久美が地面を蹴り、静香に突進。
静香の姿が歪む。
久美の四方八方から攻撃が襲いかかる。
幻影拳――達也の技。
「甘い! 初見じゃなければ対策できる!」
久美は背後にシールドを張り、正面の攻撃だけを叩き落とす。
「幻影拳を防ぐなんて……やるわね」
静香も久美の実力を認めた。
「じゃあ、今度は私の番」
久美が踏み込み、目の前で七体に分身。
七方向から同時に襲いかかる。
静香は幻影を残して回避する。
「流石ね……分身なんて……」
静香は焦りを覚える。
幻影は作れても、分身はできない。
「私の分身をかわしたのは、貴方が初めて」
久美も静香を認めざるを得なかった。
互いを認め、全力でぶつかる二人。
スピードの静香。
パワーの久美。
意地とプライドの激突。
幻日流と夢幻流の真っ向勝負。
「幻日流奥義――炎舞三式・焔!」
「夢幻流奥義――雲散霧消!」
霧を裂く炎。
炎を喰らう雲。
雲間を走る光。
炎の塊が爆発するように膨れ上がり、霧も雲も吹き飛ばして静香を襲う。
「くっ……大きすぎる……!」
受け身を取りながら、静香は道場のシールドに叩きつけられた。
同時に――
シールドが砕け散り、静香は畳に打ち付けられる。
「勝負ありだな」
久美も満身創痍だったが、立っていた。
この戦い、勝者は――久美。
静香もなんとか立ち上がり、久美に歩み寄って手を差し出す。
「ありがとう。久しぶりに……本気で戦えました」
二人は固く握手を交わした。
――修行は、確実に次の段階へ進んでいた。
修行編も、いよいよ一段階上へ。
久美と静香の戦いは、実力と誇りの真っ向勝負でした。
次回、「そして…」の先で物語は動き出します。
ここからの展開も、ぜひ見届けてください。




