第31話 姉妹の願い 親の覚悟
達也が異世界へ戻るまで残り2日――。
由香里と久美は、胸に宿る「もっと強くなりたい」という願いを父へぶつける。
親として、師として、達也が選んだ道とは……。
覚悟の修行編、開幕です。
篠崎邸から加山家へ戻ったのは、空がようやく白み始めた頃だった。
達也はそのまま、間借りしている道場へ向かう。
玄関を通り抜けた瞬間、かすかな泣き声が耳に届いた。
由香里と久美だ。
押し殺したような悲しい嗚咽は、胸にずっと残って離れなかった。
道場に入り、一礼。
道着に着替え、いつもの朝稽古を始める。
色々な想いが胸の中で渦巻くが、体を動かしながら整理するのが達也の流儀だった。
「俺に何が出来る……? あと2日で……」
正座して目を閉じると、その思考がふと零れた。
その時――。
道場の扉が勢いよく開き、由香里と久美が飛び込んでくる。
「お父さん……!」
「達兄……!」
そして、二人は揃って叫んだ。
『私たち、強くなりたい!』
真っ直ぐな瞳に決意が宿っていた。
その目を見た瞬間、達也は自分が何をすべきかを悟る。
「……そうか。俺はあと2日で異世界へ戻らなきゃならん。
それでも、厳しい修行をやり抜く覚悟はあるか?」
『はい!』
即答する二人の姿は、未来の英雄そのものだった。
悲しみを抱えながらも、炎のような闘志を宿すその様子が、達也には誇らしかった。
「ではまず――お昼まで、気の流れを自分の身体で感じろ」
言われるまま、二人は静かに膝をつく。
その眼差しは、父を見る娘ではなく“弟子”のそれだった。
達也は道場の中央に座り、深い呼吸で気を整え始める。
吸って、腹へ落とし、背骨を通して天へ返す。
その気の循環が、道場全体を包み込んでいく。
薄い朝日が障子を透かし、三人の影を柔らかく床に落とした。
由香里と久美もまた、深い呼吸で自分の内側にある“気”を探ろうと集中する。
――あと2日。
その現実が、達也の胸に重くのしかかっていた。
二人が泣いていた理由も痛いほど分かっている。
もっとそばにいたい。もっと教わりたい。
そして、強くなりたい――。
その願いに全て応えられる時間はない。
だが、時間がないからこそ伝えられるものもある。
「……よし」
達也が静かに目を開くと、二人の呼吸はすでに整い始めていた。
涙の跡を残しながら、それでも必死に気を探る姿が胸を打つ。
「二人とも、立て」
その声に従い、二人はまっすぐ立ち上がる。
迷いは一つもない。
「これから教えるのは、普通の修行じゃない。
お前たちに流れる“英雄因子”を引き出す、短期集中の覚醒稽古だ」
ピンと空気が張りつめた。
胸の奥が熱くなるのを、二人は感じていた。
「覚悟はあるな」
「「あります!」」
泣き腫らした顔からは想像できないほど力強い声だった。
達也はゆっくり右手を上げ、二人の胸元へ向ける。
「これから先、お前たちが背負うものは大きい。
俺がいなくなっても……守らなきゃならんものがある」
父としての想いと、師としての覚悟がその言葉に込められていた。
「まずは――お前たちの“核”を目覚めさせる」
次の瞬間、達也の気が道場を満たし、二人の身体へと流れ込む。
胸の奥が一気に熱くなり、足が震えた。
それでも二人は踏みとどまり、歯を食いしばる。
「……っ、はぁ……!」
「く……でも、まだ……!」
達也は二人の姿を見て、わずかに口元を緩めた。
「いいぞ。まだ耐えられる。
――なら、行くぞ。もっと深くまで」
その声と同時に、道場の空気が一変する。
ここからが、本当の修行。
二人の未来のために。
そして、“いなくなるその後”のために。
――こうして、たった2日間の修羅の修行が幕を開けた。
読んでいただきありがとうございます!
今回は姉妹が“弟子”として踏み出す大きな一歩の回でした。
次回からは二人の本格修行が始まります。
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