第30話 北条静香報告書
第30話では、北条静香がまとめた“篠崎家の闇の全貌”が明らかになります。
麻里の過去、英司の真実、そして女神エリザベートの影――
達也が初めて抱く“父親としての痛み”を描いたエピソードです。
物語の大きな転換点となる「報告書編」。
どうぞお楽しみください。
篠崎邸――警察が現場検証を続ける中、その裏で達也は北条静香と共に屋敷へ潜入していた。
敷地の奥。
脱出通路のさらに奥に、巧妙に隠された扉があった。
その向こうには、地下へと続く広大な施設。闇の儀式が行われ、悪魔と接触し続けた篠崎家の“裏の歴史”が眠る場所だった。
その調査と、静香から直接報告を受けるため――達也はここに来ていた。
「達也様。これが、篠崎英司と麻里の報告書になります」
静香が差し出したA4ファイルを、達也は無言で受け取る。
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篠崎英司・篠崎麻里
調査報告書
■ 篠崎英司
1977年、静岡県清水市生まれ。
2025年没、48歳。
先祖は京都で代々陰陽師を務める名家。
しかし30年前、京都で発生した連続殺人事件で祖父・篠崎英一郎が殺害され、一家は横浜へ移住した。
父・篠崎英作は不動産業で大成功を収め、わずか10年で不動産、貸金、飲食、鉄道にまで手を広げ、日本屈指の企業へと成長させる。
だがその繁栄の影には、裏社会との深い癒着があった。
陰陽師としての闇の仕事は代々密かに続いており、悪魔との交流が始まったのもこの頃だという。
15年前、英作が謎の死を遂げたのを機に、英司は会社と“闇の役目”を継承した。
そして裏社会との繋がりを一層強める中、ある儀式の最中――女神エリザベートが介入。
以降、英司は彼女に操られ、悪魔を使役する存在へと変わっていった。
■ 篠崎麻里
2009年、横浜市生まれ。
母は篠崎家の顧問弁護士・片山梓。
英司の愛人として関係を持ち、麻里を身ごもった。
しかし――英司の正妻は有力政治家・谷田部彰宏の娘。
圧力によって梓は英司から排除され、麻里は認知すらされないまま屋敷を追われた。
政治的な干渉で梓は弁護士の仕事も奪われ、最終的に失踪。
麻里は施設で幼少期を過ごす。
中学入学を控えた頃、突然英司が施設を訪れ、麻里を篠崎家に連れ戻した。
正妻の息子が事故で亡くなったため、“次の後継者”として見なされたのだ。
だが、その裏では――
英司は既に女神エリザベートに利用され、正妻も息子も“生贄”として失われていた。
麻里はいつ自分が生贄にされるのか怯えながら暮らし、身を守るために母方の姓・片山を名乗って高校へ進学した。
しかし週刊誌のスクープにより、正体が篠崎家の娘であることが露見。
その瞬間から標的となり、執拗なイジメに遭うようになった。
そんな麻里を助けたのが――加山由香里。
この出会いが、二人を親友へと結びつけた。
しかし後に、達也の娘である由香里を潰すため、麻里はエリザベートに悪魔を使役され、操られてしまう。
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報告書を読み終えると、達也はしばらく無言でページを見つめていた。
「……達也様。以上が調査の全てです」
静香が頭を下げる。
達也は短く息を吐き、報告書を静かに閉じた。
「……この内容は、由香里には見せるな」
「承知いたしました」
静香は深く一礼し、その場を離れる。
薄暗い地下施設に残された達也は、拳を握りしめる。
――自分がエリザベートに敵対したせいで、
――自分が守りたい娘に、悲しい想いを背負わせてしまった。
「……何が父親だ。娘一人、幸せにしてやれないなんて」
かすれた声で呟き、唇を噛みしめた。
達也は踵を返し、ひとり篠崎邸を後にした。
その背中には、誰にも見せない深い悔恨が滲んでいた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の話は、麻里の背景を大きく掘り下げた内容でした。
由香里を守ろうとする達也と、守られた側である由香里の友人・麻里。
二つの家族の因縁、そして女神エリザベートの暗躍がより鮮明になってきました。
次回は、達也と由香里、そして仲間たちが“新しい局面”へ踏み出していきます。
今後の展開にもご期待ください。




