第29話 親友からの手紙
激闘を越え、ようやく訪れた静かな朝。
しかし、由香里の心には新たな「戦い」が始まろうとしていた。
親友・麻里から届いた一通の手紙──そこに綴られていたのは、深い後悔と、途切れた絆への祈りだった。
激闘が嘘のように、朝は静かだった。
カーテンの隙間から差し込む光が、疲れ切った身体をそっと起こしてくれる。
「…おはよう、カール。見守ってくれてたんだね」
愛犬カールは寄り添うように由香里の足元で丸くなっていた。
ゆっくりと立ち上がり、いつもの習慣で玄関のポストへ向かう。
新聞は下駄箱の上へ、手紙は宛名ごとに分けて手紙BOXへ。
その中に──見覚えのある筆跡があった。
「…麻里から、手紙…」
胸が小さく震えた。
封を切る手が、少しだけ怖かった。
◆◆◆◆◆◆
由香里へ
ごめんね、由香里。
新堂紅音さんを唆して、あなたをいじめるよう仕向けたのは私。
悪魔に取り憑かれていたとしても、やったのは私なんだ。
助けてくれたのに、裏切ってしまった。
あの時、親友ができた喜びで胸がいっぱいだったのに。
それを自分の手で壊してしまった。
悪魔のせいなのか、自分の本心なのか……わからない自分が悔しい。
もし許されるなら、生まれ変わっても由香里と出会いたい。
今度こそ、ちゃんと信じ合える親友になりたい。
どうして私だったんだろう。
どうして私は、暖かい家庭に生まれたかったと願うだけの人間だったんだろう。
由香里の家族みたいに…なりたかった。
さようなら。
こんな親友でごめんね。
由香里……大好き。
◆◆◆◆◆◆
読み終えた瞬間、涙が止まらなかった。
切なくて、愛おしくて、哀しくて。
胸の奥から溢れた感情が、視界を何度も滲ませた。
その時──
トントン、とドアが静かに叩かれる。
「おはよう、由香里。入っていい?」
久美の声だった。
「…うん」
扉が開いた瞬間、久美は何も言わず抱きしめてきた。
「久美姉……わたし……」
「うん……わかってる……」
二人は声を上げて泣いた。
その泣き声はしばらく止まらなかった。
落ち着いた頃、二人は腫れた目のままリビングへ。
母・由香は静かに「お風呂に入りなさい」と促した。
いつもなら騒がしい二人風呂も、今日は静かだった。
湯から上がると、二人は母、由香と父、正樹にお願いした。
『お父さんに話したいことがあるの』
『もっと……もっと強くなりたい』
それは、涙で滲んだ心からの願いだった。達也の力が必要だと。
こうして──
父と娘たちの、過酷な修行が幕を開けた。
親友から届いた手紙は、過去の痛みを掘り返すと同時に、由香里に新たな強さを芽生えさせる“きっかけ”となりました。
絆が壊れたその先で、由香里と久美はさらに成長へ向かっていきます。
次回、父・達也による本格修行が始まります──。




