第26話 親友麻里への想い
ついに篠崎英司、そして麻里との決戦へ。
悪魔に心を奪われた親友を前に、由香里は揺れる。しかし達也の言葉が彼女の迷いを断ち切る。
父はエキドールと、娘は親友と――それぞれの想いを懸けた戦いが始まる。
達也が戻って来て歓喜に湧く家族。
だが――まだ終わりではなかった。
轟音と共に、部屋の奥に黒い通路が開いた。
「いよいよ決戦かな。準備はいいかい」
『はい!』
力強い返事とは裏腹に、由香里の瞳には深い痛みが浮かんでいた。
*
通路を数分歩くと前方が明るくなった。
抜けた先は、時代劇の将軍謁見の間を思わせる巨大な大広間。
その中央。
玉座のような席に――篠ゆ崎英司と麻里が並んで座っていた。
「篠崎英司。そして麻里……。まだ続けるつもりか」
達也が静かに問いかけた瞬間、空気が震える。
背後からエキドールが姿を現した。
「無駄ですよ。精神はすでに悪魔に食い尽くされています」
その言葉と同時に、篠崎親子の身体が変貌を始める。
「麻里! 麻里――!」
駆け出す由香里を、久美と紅音が必死に押さえた。
「離して……麻里が……!」
それでも前へ進もうとする由香里の前に、達也がそっと立つ。
そして指先で軽く額を押した。
「落ち着け、由香里。
お前は……親友の“肉体を弄ばれている姿”を受け入れるのか?」
「受け入れられるわけない!」
涙を浮かべながらも、由香里の声は震えていなかった。
達也は強く頷く。
「なら――取り戻せ。親友を」
由香里は涙を拭き、顔を上げた。
その瞳には迷いがない。
*
「倒せるわけがありませんよ。倒せば親友とやらも消滅しますから」
得意げに語るエキドール。
だが次の瞬間――。
バキィンッ!
エキドールは拳で殴り飛ばされ、床を転がった。
「どうした。もう自慢は終わりか?」
達也の声は淡々としていた。
「な、な……」
返す声は震えている。
「コイツは俺に任せろ。悪魔化した二人はお前たちで仕留めろ」
達也の言葉に、全員が頷いた。
「由香里。親友を……早く解放してやれ」
「はい……もう迷いません。ありがとう、お父さん」
決意を宿した由香里の瞳に、達也は未来を見た。
「エリザベート様の加護で覚醒した私の力、侮らないでいただきたい」
「へぇ、そうか」
達也は微笑む。
「なら――どうして俺はまた此処に戻って来れたんだ?」
「エリザベート様の気まぐれでしょう。父の姿を娘に見せるのがお望みなのでは」
「なるほど。じゃあ……始めようか」
*
エキドールは両手を広げ、悪魔を二体召喚。
それらを自らの身体へ吸収し、禍々しいオーラが迸る。
対する達也は静かに構えた。
「幻日流三式――行雲流水」
エキドールが全力の拳を叩き込もうとするが、達也は目を閉じたまま流れるように回避。
「幻日流奥義――激流怒涛」
次の瞬間、エキドールの身体は滝の激流で切り刻まれるように細切れになり、床に散った。
「馬鹿な……デモンロード以上の力を……?」
断末魔を上げながら再生するエキドール。
達也は両手に気を収束し、一気に放つ。
閃光。
そして――エキドールの身体は首だけを残して消滅した。
「なぜ……女神の加護を破れる……? 人間などに……」
震える声だけが残った。
◆◆◆◆◆
その頃。
達也がエキドールを圧倒していた裏で、
由香里たちはついに――怪物と化した篠崎親子と対峙していた。
それは、決して忘れられない戦いの幕開けだった。
由香里は大切な親友を救えるのか。
そして達也が語った「なぜ戻れたのか」の真意とは――。
次回、篠崎親子との激闘がついに本格化します。




