第25話 正義と自由
創造神エリザベートとの最終決戦──
人類の「自由」を信じる達也と、管理こそ救いだと信じる神の衝突がついに決着します。
そして、封印の果てに訪れるのは“再会”か“別れ”か。
異世界勇者・達也の選択が、現代の世界と家族の運命を変えていきます。
どこまでも家族の物語。第25話「正義と自由」、開幕です。
創造神エリザベートの居城。
神と人間の激突が空間を震わせ、異次元にまで波紋を広げていた。
『脆弱なヒューマンを導くのが私の使命なの』
「それが傲慢だと気づけないのか」
『管理してやらないと何も出来ないのよ』
「偏見だ。一人一人には自由がある」
エリザベートの言葉は冷たく、達也の反論は揺るがなかった。
『自由と我儘を履き違えないで。責任を放棄するヒューマンは導かなければ動かない』
「そんな者ばかりじゃない。考え、責任を背負える者もいる」
『大半は責任転嫁し、攻撃し合う。だから私が管理するのよ。愛をもってね』
「それはお前の自己満足だ。責任を学ばせなければ、種として成長しない」
『導く存在がいなければ暴走するだけよ』
「結局は自分たちより優秀な存在を生ませないためだろ。ヒューマンはもっと成長できる」
『成長できるのが一握りでは意味がないわ。反乱分子になるだけ。決められたレールを歩けば皆が幸せになれる』
「力への服従が幸せとは限らない。アイツらの物語は自分で決めるから価値があるんだ」
互いの主張は平行線のまま。
達也は一歩、ふっと足を止めた。
すかさずエリザベートが攻撃を叩き込む。
だが——達也はすべてを風のように躱した。
『戦う気がなくなった? なら早く倒れなさい』
苛立つエリザベートをよそに、達也はポケットから玉を取り出した。
「……悪いな、じいさん。もう限界らしい」
そして静かに宣言した。
「全能神の名において、創造神を封印する」
『な……なぜ貴方がそれを……?』
「お前が父を手にかけることは予測していた。全能神のじいさんから預かってたんだ」
達也が最後の言葉を唱える。
「――confinare」
封印玉が空間を吸い込む渦を生み、
エリザベートの体を引きずり込んでいく。
『バカな……私は間違っていない……!』
柱にしがみつき抵抗するも、力尽き、闇色へ変わる封印玉の中へ――。
◆
達也の前に、新たな影が姿を現した。
ユグニスの弟、創造神アルバン。
「バカな姪だ。父を殺し創造神になったのに、覚悟が足りんかったか」
アルバンは封印玉を受け取り、後ろから現れた老人へ渡した。
「全能神のじいさん。出られたのか」
「達也。迷惑をかけたな。お前に会えたのは天の采配じゃろう」
「こちらこそ助かった。じいさんの知識がなければ勝てなかった」
ガイアは達也を見つめ、厳かに告げる。
「エリザベートは封印できたが、お前の元の世界はまだ危機の中。……達也、救ってきなさい」
アルバンが続ける。
「特例であと三日だけ向こうに行ける。肉体も用意しておいた。もう娘の中に入る必要はない。家族と勝利をつかんでこい」
さらに光の球が達也の胸へ吸い込まれた。
「ただいま、マスター」
セイラの声――。
「あの攻撃を受けたのに……生きてたのか?」
「はい。核のコピーをアルバン様に預けてありました」
心配を軽く受け流すように答えるセイラ。
ガイアは感心したように笑った。
「良き相棒じゃ。お前たちは最強のコンビよ」
達也は頷き、拳を握った。
「……よし。じゃあ向こうの世界も世直ししてくる」
光に包まれ、達也は元の世界へ帰還した。
◆◆◆
「……終わった……の?」
由香里が震える声でつぶやく。
「うん。みんなのおかげだよ」
紅音が優しく微笑んだ。
久美はへたり込みながら笑う。
「はぁ……アタシ途中で死ぬかと思った……!」
「余裕あったよ」瑠璃は肩をすくめる。
「絶対ウソ!」
久美が食い気味に突っ込むと、全員が思わず笑った。
そして——最も深く息を吐いたのは母・由香だった。
「由香里……本当に強くなったね。やっぱり、あの人の娘だわ」
その言葉に、由香里はそっと胸に手を当てる。
(……お父さん……)
目を閉じた瞬間——
背後に、懐かしい温かさが満ちた。
「よく頑張ったな、由香里」
消えたはずの声。忘れられない声。
振り返ると——
そこに、“異世界勇者・達也”が立っていた。
「……おとう……さん……?」
涙が溢れる。
達也は優しく、由香里の頭に手を置いた。
「よくやった。お前たち全員……俺が誇る最強の家族だ」
その言葉に——
久美も、瑠璃も、紅音も、由香も、正樹も。
誰も涙をこらえられなかった。
家族が、本当の意味でひとつになった瞬間だった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
いよいよ最大の山場である「神編」が一区切りつき、達也はついに現代へ帰還しました。
長い間すれ違っていた父と娘が、ようやく同じ場所で同じ未来を見られるようになります。




