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第16話 親友との確執 〜お仕置きの時間です〜

篠崎家──

由香里を取り巻いてきた“全ての黒い糸”が集まる場所。


そこへ、ついに達也たちが正面から殴り込みをかける。

待ち受けるのは武装部隊、刺客、そして由香里の親友・麻里の影。


異世界最強の父と、逃げずに立ち向かう娘。

「親友との真実」がついに語られる前夜の物語。

山手の奥、敵のアジトは闇に沈んでた。

豪奢な外観とは裏腹に、どこか冷たい。人の気配がない。いや──“静かすぎる”。


最初に異変を感じ取ったのは、北条静香だった。

運転席から降り立つと同時に、周囲の空気を鋭く読む。


「……おかしい。正面の見張りも、巡回もいない。必ず迎撃態勢で待っているはずなのに」


冷たい夜気に彼女の声が溶けた。

紅音も眉をひそめる。


「作戦が失敗したのに警戒しない? あり得ないよね」


静香は即座に判断を切り替えた。


「達也様。敵はあなたが来るのを前提に“誘い込む作戦”を取っています。

正面は罠だと思われます。……提案します。屋敷裏手の竹林を抜け、背後から侵入を」


プロの忍としての声音だった。


しかし、“達也”は笑った。


「いや、正面から行く」


その言葉に、三人が同時に振り返った。


「たっくん、罠だよ?」紅音が言う。

「わざわざ危ない道を行く必要はありません」静香も冷静に諫める。


だが、“達也”は首を横に振った。


「問題ねぇよ。罠ごと潰す。

それに……正面から行った方が“向こう”の震え方が面白い」


その自信は、もはや異世界の勇者そのものだった。


横で聞いていた由香里は、不安げに口を開いた。


「おとうさん……その、“向こう”って…」


そう聞いている間に正門前に"達也"は立っていた。


「幻日流秘奥義 虚空烈波」


重厚な強化鋼の門が、まるで段ボールのようにへしゃりと潰れ、内側へと吹き飛ぶ。


轟音。

砂埃。

動揺した叫び声。


すると屋敷の奥から、一斉にライトが点灯した。

夜闇に浮かび上がるのは、数十名規模の武装部隊。

全員が防弾装備に黒い面頬。

敵が誇る“親衛隊”だ。


「来たぞ! 迎撃しろ!」


「目標は男一名だ! 絶対に近づけるな!」


銃口が一斉に“達也”へ向く。

だが、本人は微動だにしない。


「……威勢はいいが、遅いな」


引き金が引かれた。


無数の銃弾が雨のように“達也”へ降り注ぐ。

しかし。


「幻日流奥義 風立ちぬ」


すべての弾が、掠る前に“風圧”で逸れていった。


紅音と瑠璃が同時に息を呑む。


「たっくん……身体の使い方、前より鬼じゃん……」


「反則レベルだよこれ……」


静香でさえ、瞳を細めた。


「……異世界での力、完全に持ち帰っている……」


対して、“達也”は肩を回しながらひと事。


「……この世界の銃、弱すぎんだろ」


部隊が恐怖に凍りつく。


「幻日流奥義 大地鳴動」


次の瞬間、“達也”の拳が地面を叩き割った。

アスファルトが波のように盛り上がり、地震の衝撃波となって武装部隊を襲う。


数十人がまとめて吹き飛び、壁や地面に叩きつけられた。


「う、うそだろ……!?

人間じゃねぇ……!」


「何なんだあの怪物はッ!」


由香里は震える膝を押さえ、父の背中を見つめる。


(……お父さん……本当に……)


怖い。

でも、それ以上に誇らしい。


(私を守るために……こんな……)


胸の奥で熱いものが溢れていった。


 


そのとき、屋敷のバルコニーに複数の影が現れた。


黒スーツに身を包んだ男たち──幹部クラスだ。


中央に立つ男が声を張り上げる。


「幻日流の化け物め! ここは名門 篠崎家ぞ!貴様が正面から乗り込んでいい場所では」


「黙れ」


その一言で、幹部全員が無意識に後ずさった。


「俺がどこに入ろうが勝手だ。邪魔するなら、一人残らずぶっ倒すだけだ」


紅音が静かに言った。


「……ねぇたっくん。この奥にいるの?」


「いるさ。屋敷の一番奥に。篠崎英司──そしてあいつらもな」


瑠璃が険しい目をした。


「あいつらってことは……麻里も?」


「可能性は高い」


その言葉に、由香里の胸がぎゅっと締めつけられた。


「……麻里……」


親友。

でも、私をいじめの渦に巻き込んだ謎の人物と関わっていた子。

真相はまだ何も分からない。


でも。


(ちゃんと確かめる……逃げない……)


由香里の目に、迷いと決意が灯った。


 


「達也様!」


静香が跳び上がるように声を上げた。


屋敷の屋根から、全身を黒で覆った刺客たちが一斉に降下してくる。


「上からも来ます! 20……いえ30名!」


“達也”は鼻で笑った。


「上か。じゃ、まとめて落とすか」


「幻日流奥義 雷鳴瞬歩」


一瞬で十数メートルを跳び、屋根の上に到達する。


「なっ……!」


「化け物が……!」


刺客たちの悲鳴が響き渡る。


「幻日流秘奥義 神那多」


次の瞬間──


屋根全体が爆ぜた。


"達也”が拳で瓦と梁を粉砕し、刺客をまとめて叩き落としたのだ。


崩れる屋根を背景に、“達也”がゆっくりと降りてくる。


「さて……そろそろ本丸だな」


 


静まり返る篠崎家。

敵は恐怖して一歩も動けない。


紅音が小声で呟く。


「……たっくんが本気出したら、もう戦争じゃん……」


「うん……」瑠璃も震える声で返す。


静香だけは冷静だった。


「この破壊力……篠崎家の“奥”が黙っていないはずです」


そう──

"奥”すなわち篠崎家の当主、篠崎英司


そして、その背後にいる本当の黒幕。


 


"達也”はゆっくりと娘へ向き直った。


「由香里。怖かったら下がってろ。俺が全部片付ける」


しかし由香里は、首を横に振る。


「……行く。麻里のこと……自分で確かめたい」


親友との決着。

逃げずに向き合うために。


"達也”は、満足そうに微笑んだ。


「よし。なら一緒に来い」


 


彼らは篠崎家の奥へ、ゆっくりと進んでいった。


まだ誰も知らない──

この先で“親友の真実”が待ち受けていることを。達也”は優しく娘の頭を撫でた。


「篠崎家だ。麻里の親父、篠崎英司の本丸。お前を狙った連中の中枢は、ここにいる」


由香里の指先が小さく震えた。

麻里は幼い頃からの親友だった。

しかし裏で何かが動いていた──その事実が、胸を締めつける。


「……麻里……どうして……」


瑠璃が肩に手を置く。


「麻里が黒幕じゃないかもしれない。親がやってたってケース、山ほどあるよ」


紅音も、静かに続けた。


「そう。だからこそ確かめるんだよ。由香里の“親友”が、本当にどう思ってたのか」


由香里は唇を噛んだ。

逃げられない現実が目の前にある。


そのとき──“達也”が一歩前へ出た。


その背中は、娘を守る父のそれであり、武神のように大きかった。


「全員、準備しろ。これから由香里の親友の実家──篠崎家に殴り込みをかける」


静香が思わず息を呑む。


「……正面突破、本気なのですね」


「当然だろ。あいつらは俺が生きて戻るなんて思ってねぇ。だったら見せてやるよ──勇者は現代に戻っても死なねぇってな」


"達也”の目に宿る闘気に、紅音と瑠璃も思わず背筋を伸ばした。


 


屋敷の正面。

重厚な鉄製の門の向こうに、わずかな灯りが揺れる。

篠崎家は沈黙のまま、侵入者を待ち構えている。


「静香、紅音、瑠璃、由香里。俺の後ろだ。突っ込むのは俺一人で十分だ」


静香が鋭く言う。


「待ちなさい。あなたの力は理解していますが、敵は……」


"達也”は笑って制した。


「俺一人で十分って言ったんだ。

屋敷ごと叩き割るだけだからな」


その瞬間、門の奥で灯りがふっと揺れたまるで屋敷そのものが怯えているようだった。


由香里は父の背中を見つめ、拳を握りしめた。


「……麻里。私は逃げないよ。お父さんと一緒に、ちゃんと向き合うから」


"達也”がわずかに微笑む。

優しく、短く。


「いい子だ。そうでなきゃ、俺の娘じゃない」


そして──


「──全員、行くぞ。お仕置きの時間だ」


夜の静寂を切り裂き、“異世界最強の父”が歩み出した。


その足音だけで、篠崎家の空気が震えた


闇を切り裂く、殴り込みが始まる──。

第16話はいかがでしたか?


達也の圧倒的な戦闘力と、由香里の揺れる心情を対比した回となりました。

次回、ついに“篠崎家の奥”へ──

麻里は敵なのか、それとも……。


親友との決着と、黒幕の正体が明かされる核心編に入ります。

続きもぜひお楽しみに。

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