第15話 父と娘 〜喜びの再会〜
第15話では、由香里と“達也”のついに訪れた再会、
そして新堂家に隠された衝撃の真実が明らかになります。
家族の絆、過去から続く因縁、そして迫りくる闇組織との決戦前夜。
物語が大きく動き出す転換点をお楽しみください。
圧倒的な力だった。
加山正樹の身体を借りた“達也”の前では、暗殺部隊でさえひとたまりもなかった。
床に倒れていた由香里が、ゆっくりと目を開ける。
「……師範。道着で助かりました……」
胸元には潰れた弾丸が、道着のアラミド繊維に絡みついている。
由香里は安堵の息をつきながら、天に向かって小さく感謝した。
「それなら後で正樹に言ってやってくれ」
“達也”が静かに返す。
「お父さん? 大丈夫……? 病院に連絡したんだけど、先生来てくれた?」
由香里は混乱したまま連続で問いかける。
「違うの、由香里。お父さん違い」
母・由香がそっと娘の手を握る。
「あなたが一番会いたかった人。……中身だけだけどね」
久美も同じように手を握り、優しく微笑む。
「師範……? ううん……おとうさん……?」
涙まじりの声で由香里が問うと、
二人は泣きながら強く頷いた。
「ごめんな、由香里……」
“達也”はその言葉しか出せなかった。
ゆっくり歩み寄ると、由香里は叫びながら飛びついた。
「おとうさん!!」
堰を切ったように、涙が溢れ続けた。
しかし、その温かい空気を断ち切るように声が響く。
「感動の場面なのに申し訳ないわね」
暗がりから現れたのは、スーツ姿の女性――学年主任の斉藤京子。
「先生が……どうしてここに?」
久美が眉をひそめる。
“達也”が吐き捨てるように言った。
「そいつは神奈川県警公安第一課の刑事だ。紅音の親父、新堂弦之助を逮捕するために潜入してた女狐だ。しかも愛人にまでなってた」
斉藤──本名、
神奈川県警公安第一課 警部補・桜井純子。
「捜査のためよ。でもただのスケベ親父だっただけみたい」
桜井警部補は肩をすくめた。
“達也”は苦笑しながら言う。
「まぁ弦之助だからな。兄貴のことだから、分かっててやってたのかもしれん」
その一言で、場の空気が固まった。
『えっ、兄貴!? 新堂社長と兄弟!?』
全員の視線が一気に“達也”へ向く。
「言ってなかった? たっちゃんとげんちゃんは異母兄弟だよ」
由香があっけらかんと言う。
“達也”は淡々と語り始めた。
「先代、新堂勇太郎。正妻との子が弦之助。
十年後、秘書だった俺の母――朱鷺子が、俺を産んだ。
朱鷺子は夢幻流当主、磯崎龍之進の娘だ」
拳を強く握りしめる。
「勇太郎のクソジジイ、母さんが内偵で潜入してたの知ってて、面白がりやがった。
そのうち惚れて、愛人にして……挙げ句に俺まで作った」
桜井警部補は呆れたように深く息を吐いた。
「勇太郎ならやりかねないわね。……それで本題。
明日、事情聴取をお願いしたいの」
「明日でいい。連絡くれ。人数も時間も合わせる」
短いやり取りの後、桜井警部補は去っていった。
場の空気が落ち着くと、“達也”が柔らかく微笑む。
「由香里……大きくなったなぁ」
「……おとうさん……」
由香里は正樹の体にしがみついた。
「ゆっくり話したいけど、時間がない。紅音と瑠璃に合流するぞ」
倉庫の外には、新堂家のアルファードが待機していた。
車に乗り込むと、紅音と瑠璃が勢いよく“達也”に抱きつく。
「たっくん!!」
「達也!!」
「すまん。お前たちまで巻き込んじまって」
“達也”は申し訳なさそうに頭を下げる。
「"あの子"が黒幕なら、遅かれ早かれ狙われたわ。たっくんがいる時でよかった」紅音が冷静に言う。
「そうね。不幸中の幸い」
瑠璃も頷いた。
車が夜の街を滑り出す。
運転席を見た由香里は、思わず声を上げた。
「……三田村先生!? なんでここに?」
“達也”が答える。
「彼女は夢幻流のくのいち。磯崎龍之進の愛弟子、北条静香だ。
由香里の命を守るために学校に潜入していた」
由香が優しく続けた。
「静香はね、たっちゃんがいなくなってからずっと私たちを守ってくれていたの。
由香里が紅音ちゃんにいじめられていたことも知ってたわ……ごめんね」
北条静香はきっぱりと言う。
「達也様の家族を守るのは当然です」
「ありがとうございます……静香さん……」
由香里は深く頭を下げた。
やがて車は、山手にそびえる巨大な豪邸の前で止まった。
闇の中に浮かぶその姿は、まるで要塞のようだった。
「達也様、目的地に到着しました」
“達也”はゆっくりと車を降りる。
「さて……お仕置きの時間だ。
二度と変なことを考えられないように、コテンパンにしてやる」
夜風がざわりと吹き抜ける。
巨大な闇組織との戦い。
長い因縁の決着が、今始まる。
――――その中心に、“父と娘”の絆があった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
親子の涙の再会から一転、暗躍する巨大組織との因縁が一気に表面化しました。
次話ではいよいよ最終決戦へ。
“達也”と仲間たちが挑む戦いを、ぜひ見届けてください。




