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第14話【後編】 加山正樹の中の男 ―父、覚醒す―

倉庫に開いた天井の穴――そこから現れたのは、消えたはずの加山正樹の姿。

だがその中に宿っていたのは、異世界で最強と謳われた男・磯崎達也だった。

再び現代に降り立った“父”が、娘たちを守るために立ち上がる。

そして今、リサとレオに、真の力が叩きつけられる――。

倉庫の天井には、大きな穴が空いていた。

月光とサーチライトが交錯する中、ゆっくりと男が歩み出る。

足音がコンクリートに響くたび、場の空気が変わっていった。


「な、なぜあなたがここに……? その力は一体……」

リサとレオは動揺を隠せなかった。

無理もない。そこに立っていたのは――加山家に伝言を残して消えた、正樹の姿だった。


「やっぱり……男の身体のほうがしっくりくるなぁ」

その男は軽く肩を回しながら、呟いた。


その時、気を失っていた由香がゆっくりと目を開ける。

「……たっちゃん」

そう呼んだのは、目の前の正樹ではなく、別の男の名だった。


「由香、気がついたか。良かった……」

男は、どこか懐かしい優しい笑みを浮かべた。


続いて久美も目を覚ます。

「お父さん……?」

彼女の声はまだ震えていた。


「久美、あれはね――“ダブルお父さん”よ」

由香が涙を浮かべながら、けれど嬉しそうに答えた。


「……?? あっ、達兄!」

久美はようやく気づいたように目を見開く。


「ちょっと借りてるだけだぜ、正樹の体を」

男――達也はいたずらっぽく笑った。


「お父さんの体、壊さないでよ、達兄」

久美は呆れ顔で言う。


「正樹の体だけは守ってね」

由香が真剣な顔で釘を刺すと、達也は口元を吊り上げた。


「任せとけ」


次の瞬間、達也は大地を蹴った。

その跳躍は人間離れしていた。

まるで重力を嘲笑うかのように天井近くまで舞い上がり、リサとレオの目前に着地する。


「な……!?」

リサとレオは息を呑む。だが次の瞬間、リサは冷笑を浮かべた。


「バカな男ね。あの二人を助けたってことは――別の場所にいた新堂紅音と新堂瑠璃は爆死したのよ。

あなた、自分の家族だけを庇って、仲間を見捨てたってわけ」


だが、達也はポケットからスマホを取り出した。

無言で画面を見せる。そこに映っていたのは――生きている紅音と瑠璃。


《ありがとう、たっくん。おかげで助かった》

紅音が微笑む。


《達也、ありがとう。やっぱりあなたには敵わないわね》

瑠璃の声も続いた。


「ば、馬鹿な……どうして!? 二人は自力で脱出なんてできないはず……!」

リサの声が裏返る。


「同時解除でなければ不可能な仕掛けのはず……なのに……!」

レオも焦りの色を隠せない。


「まぁな。四人とも巻き込まれるかもと思って、紅音と瑠璃にも監視役をつけといたんだよ。とびきりのやつをな」

達也は軽い口調で言った。


「監視……? そんな報告はなかった。奴らに悟られずに潜んでいたというのか? ありえない!」

レオが声を荒げる。


「お前ら、あれで“隠形”してるつもりだったのか?

監視カメラに映らないだけで安心してるとは……幼稚だな」

達也は呆れたように首を振る。


「紅音たちを拉致したビルは、完璧な防犯体制だったのよ。それをどうやって――」

リサの声は震えていた。


「夢幻流に“不可能”はねぇよ」

達也は静かに言い切った。


「連絡が来た時には、もうアイツが紅音たちの近くにいて、解析を終えてた。

監視カメラには偽の映像を流して時間を稼いだ。解除方法がわかった瞬間――全てを同時に破壊すれば解除できるってな。

あとはタイミングを合わせるだけだ」


その言葉には揺るぎない自信があった。

それがこの男――異世界最強の勇者・磯崎達也。


リサとレオはすぐさま戦闘体制をとった

だが次の瞬間!


「なっ――!」

レオが反応するより早く、達也の拳が腹にめり込んだ。


「ぐっ……!!」

衝撃波が走り、レオの体が宙を舞い、数メートル先の鉄骨に激突する。

金属が悲鳴を上げ、粉塵が舞った。


「これが……人間の動きか……」

レオは呻きながら立ち上がろうとしたが、膝が笑っていた。


リサが震える声で叫ぶ。

「バカな! あの肉体で、ここまでの力を……!」


「肉体なんざ、器にすぎねぇ」

達也は冷ややかに言い放つ。

「重要なのは“魂の制御”だ。異世界で学んだのは、力の根源ってやつだよ」


リサが歯を食いしばり、腕を突き出した。

手首に巻かれたブレスレットが赤く光る。

そこから数本の鋭いエネルギーブレードが放たれ、達也に襲いかかった。


だが――


達也は微動だにせず、右手を前にかざした。

刹那、空気が歪み、目に見えない“膜”が形を成す。


エネルギーブレードはその膜に触れた瞬間、霧のように消えた。


「……なっ!」


「その程度じゃ、蚊にもならねぇな」


次の瞬間、達也の姿が霞のように消えた。

リサの背後で“音”がした時には、もう遅い。


「後ろだ」


その声と同時に、達也の掌底がリサの背中を打った。

凄まじい衝撃にリサの身体が宙を舞い、床を数回転がる。


「う……そ……この世界の人間じゃ……ない……」

リサが血を吐きながら呟く。


「違ぇよ。俺は――この世界に帰ってきた父親だ」

達也は静かに言った。


立ち上がろうとするレオを見て、ゆっくりと拳を握る。


「お前らが弄んだ命の数、娘たちの涙。全部、ここで終わりにする」


倉庫の空気が凍りつく。

次の瞬間、轟音が響いた。


達也の拳が地を打ち、地面が波打つように隆起する。

その衝撃でレオの身体が宙に浮かび、壁に叩きつけられた。

鉄骨が折れ、壁が崩れ落ちる。


リサも立ち上がろうとしたが、達也が一歩踏み出すと――その圧に、膝をついた。


「幻日流奥義 空牙」


達也の声と同時に、無数の風刃が走り抜けた。

髪が揺れ、コートが裂け、空間そのものが震える。


リサとレオの周囲を取り巻く風が一瞬爆発し、彼らは床に叩きつけられた。


沈黙――。


埃の中に立つのは、ただひとり。

磯崎達也。


彼は正樹の身体を借りたまま、深く息を吐いた。


「これで、あとは由香たちを守るだけだな」


振り返った達也の顔は、戦場の男ではなく――

家族を想う父親の顔だった。

異世界で鍛え抜かれた磯崎達也の力が、ついに現代に顕現した。

リサとレオの策略を打ち砕いたその姿は、かつての勇者ではなく――家族を想う“父”の姿だった。

しかし戦いはまだ終わらない。

リサたちの背後に潜む「黒幕」の存在が、静かに動き出していた……。

次回、第15話【前編】「父と娘 ―決意の朝―」へ。

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