第14話【前編】 「誘拐と決闘」
由香里が帰宅すると、父・正樹が襲われ、母と姉が誘拐されていた。
残された手がかりは、謎のスマホと「指定場所へ来い」というメッセージ。
そして彼女は、封印していた師範の道着を身にまとい、ひとり決戦の地へ向かう――。
夕方、学校から帰宅した由香里の目に飛び込んできたのは――
両手両足を縛られた父・正樹の姿だった。
「お父さん! しっかりして!」
由香里は駆け寄り、必死に身体を揺さぶった。
「……由香里……久美と……母さんが……さらわれた……」
か細い声でそう言い残し、正樹は気を失った。
「誰に!? どこの誰なの!?」
由香里は怒りを露わに問いただすが、返事はない。
床に落ちたスマホを拾い上げると、画面には無機質な文字が浮かんでいた。
――『指定の場所へ一人で来い。二人を助けたければ。』
「お父さん……必ず助けるから」
由香里は父をベッドに寝かせると、自室のクローゼットへ向かった。
奥から取り出したのは、鍵のかかった古い木箱。
震える手で鍵を差し込み、蓋を開ける。
中には、師範から受け継いだ道着が静かに収められていた。
「師範……使わせてもらいます」
白い道着に袖を通し、由香里は玄関へ向かう。
ガレージに入ると、布に覆われたバイクのシルエットがあった。
「免許、取っておいてよかった……」
カバーを外すと、そこには光沢のあるホンダCB400SF。
由香里はヘルメットを被り、跨る。
――キュルルル……ブォンッ!
甲高いエンジン音がガレージに響いた。
「待ってて、お母さん……久美姉」
ハンドルを握りしめ、由香里は指定の場所へと走り出した。
目的地は、山下公園からほど近い港沿いの倉庫。
静かな夜気を裂いて、CB400SFが滑り込む。
由香里はバイクを降り、ヘルメットを外して叫んだ。
「言われた通り、一人で来たわ! お母さんと久美姉を返して!」
倉庫の奥から低い声が響く。
「そこで止まれ」
次の瞬間、天井の照明が一斉に点いた。
まぶしさの中に浮かび上がったのは――
鉄格子の中で椅子に縛られた由香と久美。
久美の顔は傷だらけだった。
「お母さん、久美姉……今、助けるから」
由香里は拳を握りしめる。
「これから我々と戦ってもらう」
暗がりから現れた女が冷たく言った。
「ひとり一つずつ鍵を持っている。時間内に倒せば、二人を助けられる」
「……わかった。早く始めましょう」
男が口を開く。
「特設のリングを用意した。お互い腕と脚に十キロずつ錘を付ける。条件は同じだ」
部下たちが手際よく準備を進める。
やがて、男と女がリングに上がった。
「2対1?」由香里が眉をひそめる。
「時間の節約だ。1時間しかないからな」男が平然と答えた。
「それもそうね。じゃあ――せめて名前ぐらい教えてもらえる?」
「名前を知ってどうする? 冥土の土産か?」
女が鼻で笑う。
「師範の教えなの。倒す相手にも敬意を払うように、って」
「面白い子ね。じゃあ教えてあげる。私はリサ」
「俺はレオだ」
由香里は静かに構えを取る。
「――幻日流、加山由香里」
次の瞬間、倉庫の電光掲示板が点灯し、赤いカウントダウンが始まった。
命を懸けた闘いの幕が、今、上がる――。
今回は物語最大の転機とも言える「由香里の覚醒と決意」の回です。
倉庫での戦闘は、ただの救出劇ではなく、由香里の中に眠る“異世界の力”が再び呼び覚まされる予兆。
後編ではついにその力が目を覚まします。どうぞご期待ください。




