表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/34

第12話 3日目の奇跡 ―信じる力―

三日目の朝。

久美と瑠璃、そして紅音は、再び達也と向き合う。

戦いの中で、力だけでなく“信じる心”を試される彼女たち。

紅音の中に眠る本当の力――そして、姉妹の絆が奇跡を起こす。

これは、戦いを通じて成長し、赦し、再び手を取り合う少女たちの物語。

参謀に紅音を据え、久美と瑠璃は再び達也と対峙した。

空気が張り詰める。静寂の中、紅音の指先が僅かに震えていた。

だがその目には、迷いがなかった。


「瑠璃。行くわよ」

「OK、久美」


二人の視線が交錯した瞬間、空気が弾ける。

踏み込みの音が畳を裂き、久美が疾風のように飛び出した。

鋭い正拳。達也はそれを半歩ずらしてかわす。

続けざまに瑠璃の追撃――と思ったが、彼女は動かない。

その場で静かに構え、目を閉じている。


(何を狙っている?)

達也の警戒が高まる。


久美は止まらない。正拳、蹴り、膝。流れるような連撃。

達也は受け流し、かわし、反撃の隙を探る。

しかし――瑠璃はまだ動かない。

彼女の静止が、逆に不気味な圧となっていた。


「今だ、久美!」

紅音の声が飛ぶ。


久美が身体を沈めた瞬間、彼女の姿が三つにぶれた。

残像――いや、気の流れを利用した高速移動。

達也は即座に後退する。だが、その退避先には――


「そこよ!」


瑠璃がいた。

右拳に気を纏い、溜めに溜めた一撃を放つ。


「はあああっ!」


轟音が走った。

達也は反転し、十字ブロックで受け止める。だがその瞬間――

背後から鋭い衝撃。


「ぐっ!」


久美が背後から回り込み、左脚に気を集中させて蹴り抜いたのだ。

まるで稲妻が走ったかのような一撃。

達也の身体が道場の端まで吹き飛び、畳がめくれ上がる。


静寂。

紅音、久美、瑠璃――三人が固唾をのんで見守る。


そして、ゆっくりと達也が立ち上がった。

その口元に、穏やかな笑み。


「……今のは効いたぜ。お前たちの、勝ちだ」


その言葉を聞いた瞬間、三人は同時に叫び、手を取り合った。

歓声と涙。勝利よりも、信頼を掴んだ実感が胸を満たす。


「紅音、あなた……やっぱり私の妹ね」

瑠璃が紅音の肩を抱きしめ、涙をこぼした。

「いつか自分の殻を破ってくれると信じていたわ」


紅音も泣き笑いのような顔で頷いた。

「いつも完璧な姉と比べられてた。勝てるわけないって思ってた。

でも由香里とたっくんが気づかせてくれたの。私は――私なんだって」


溜め込んでいた心の痛みを吐き出すように、紅音は言葉を紡ぐ。


久美が涙を拭いながら、わざと軽口を叩いた。

「そんなポンコツ姉を意識する必要なんてないのよ。

私に勝ったこと、一度もないんだから」


「何ですって!? なら今から勝負なさい!

今までの勝ちがまぐれだったことを教えてあげるわ!」


再び火花を散らす二人。

そのやり取りを見て、由香がくすっと笑った。


「久美はね、由香里のことも心配してたけど、紅音のことも気にしてたのよ。

“由香里をいじめてた”って聞いた時、

真っ先に“そんなはずない、何か理由がある!”って、

知らせてくれた人の胸ぐら掴んで叫んでたんだから」


「ちょ、ちょっと由香ちゃん、言わないでよ!」

久美が真っ赤になって下を向く。


「瑠璃だって、聞いた途端に私とお父さんのところへ謝りに来たでしょ。

その時思ったの。本当に、妹を大切に想ってるんだなって」

由香が穏やかに言うと、瑠璃も耳を赤く染めて俯いた。


「久美姉……瑠璃……ありがとう。

信じてくれて、本当に嬉しい」


三人は自然と抱き合い、涙が溢れた。


その光景を見つめながら、達也は静かに呟く。

「本当は、由香里もこの輪に入れてやりたかったんだけどな」


由香がそっと答えた。

「事情が事情ですけど、大丈夫ですよ。あの子は私の娘ですからね」


達也は深々と頭を下げた。

「正樹、由香……ありがとう」

そして久美、瑠璃、紅音にも向き直る。

「お前たちも、ありがとう」


最後に、達也は瑠璃へ視線を向けた。

「本当は瑠璃に真っ先に説明すべきだったが、紅音からになってしまってすまない」


瑠璃は少し寂しそうに笑った。

「あんなことがあっても、あなたが生きてるなんて思わなかった。

でも話を聞いた時、なぜか納得してしまったの。

――あなたのいない世界は、やっぱり退屈ですもの」


その言葉に、達也は静かに笑みを返した。

そして空を見上げるように、ゆっくりと目を閉じた。


「……ありがとう。

お前たちが強く、優しくなってくれて、俺はもう思い残すことはない」


温かな風が道場を吹き抜ける。

その風の中に、誰もが確かに感じた。

“奇跡”とは、戦いに勝つことではない――

互いを信じ、赦し、共に前へ進むことなのだと。

戦いが終わり、そこに残ったのは勝敗ではなく「信頼」でした。

紅音は姉たちに認められ、久美と瑠璃は改めて家族の意味を知る。

そして達也は、父として娘たちの未来を信じる。

この3日間で彼らが手にした奇跡は、単なる力の覚醒ではなく――

“絆の進化”そのものでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ