第11話【前編】 絆 〜血の絆を超えて〜
紅音と瑠璃が加山家を訪れる。
一時は敵対していた少女たちが、ようやく本当の“絆”を取り戻す時が訪れる。
涙と笑顔が入り混じる夜、家族のような温もりが静かに広がっていく――。
「お邪魔しま〜す!」
紅音と瑠璃が、加山家の玄関に明るい声を響かせた。
「待ってたよ。早く上がって」
由香里が嬉しそうに2人を迎える。
「え、瑠璃、あんたまで来たの!?」
久美が声を上げた。
「久美、いい加減にしなさい。瑠璃ちゃんはお母さんが呼んだのよ」
母・由香がピシャリとたしなめる。
「相変わらずガサツね、あんた」
瑠璃が憎まれ口を叩けば、
「それ以上喧嘩すると、ご飯抜きにするよ!」
由香がすかさず吠える。
『ごめんなさい……』
久美と瑠璃は借りてきた猫のように縮こまった。
その様子に、由香・由香里・紅音の三人は笑いを堪えるのに必死だった。
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リビングでは、父・正樹が笑顔で待っていた。
「いらっしゃい。2人ともよく来たね」
穏やかな声が部屋を包む。
「しばらく見ないうちに、2人とも綺麗になったなあ」
まるで本当の父親のようなまなざしだった。
「ご無沙汰しております。正樹パパも相変わらず素敵ですよ」
紅音が軽やかに挨拶する。
全員が席に着き、グラスを手にしたとき、
瑠璃と紅音が立ち上がった。
「その前に――私たちから謝らせてください。
妹・紅音が由香里さんを傷つけたこと、本当に申し訳ありませんでした」
2人は深々と頭を下げた。
「謝らなくていいよ。紅音の気持ちは痛いほどわかるから」
由香里は静かに微笑む。
「ボタンの掛け違いなんて誰にでもあるさ。
それに気づいて引き返せたなら、それでいい」
正樹が穏やかに言葉を添える。
「あなたたち2人は、私の子供のようなものよ。
いつかきっと目を覚ますって信じてたわ」
由香が2人をそっと抱きしめた。
瑠璃と紅音は、由香の胸の中で大粒の涙をこぼす。
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「もういいでしょ〜。お腹すいちゃった!」
久美が照れくさそうに声を上げた。
「久美姉ったら、感動の場面なのに」
由香里が笑いながら突っ込む。
「ほんと空気読めないんだから」
瑠璃も笑いながら悪態をつく。
「でも、久美姉らしいね。ありがとう」
紅音が優しく微笑んだ。
「わが娘ながら、ほんとに呆れるわ」
由香が苦笑する。
その光景を、正樹はスマホのカメラでそっと撮影していた。
子どもたちを見つめるその瞳には、静かな涙が光っていた。
そして――
賑やかな夕食の時間は、あっという間に夜へと溶けていった。
過去の確執を越えて、ようやく心がつながった少女たち。
由香里たちの前に広がるのは、戦いではなく「家族」としての時間。
それぞれの想いが交錯する中、次回は――想いの絆で伝える娘への贈り物




