第9話 英雄の帰還(後編)
異世界の創造神の力によって、達也の魂は現代日本へ――。
娘・由香里の中に宿った父は、眠る娘の代わりに家族のもとを訪ねる。
そこで再び出会う親友、そして妻。
涙と笑いが交錯する夜、英雄は“父”として再び立ち上がる。
「爺さんの孫はみんな嘘つきだな。ひ孫は最低だし、どんな教育してたんだ」
由香里の中で、達也は天に向かって呟いた。
「悪いのう、おんしにまで迷惑かけて」
天から声が返る。
「まぁ今回の件は俺も納得してるしな」
達也は空を見上げて微笑んだ。
「すまんな。その詫びでもないんじゃが、一度だけ娘が窮地の時、お主を召喚できるようにしておいたからの」
天から再び声が響く。
「ありがとうよ。またな、爺さん」
達也は手を軽く上げた。
天が一瞬だけ光を放った。
***
その夜。
由香里が眠りについたあと、達也は静かに呟く。
「今日は疲れたんだろうな。ゆっくり休みな。これからのために」
そっと娘の身体を借り、階段を降りていく。
リビングでは、母・由香と父・正樹がコーヒーを飲んでいた。
「由香里、まだ起きてたの? 眠れないの?」
母が心配そうに言う。
「何かあったら相談してくれ。頼りない親だが、娘のことは必ず守る」
父の声が静かに響いた。
「ありがとう。お前らが由香里の親で本当に良かった」
達也は涙をこらえきれずに言った。
「???どうしたの、頭でも打った?」
正樹と由香が顔を見合わせる。
「……正樹。久しぶりだな」
その声の響きに、正樹の表情が変わる。
「お前、達也か。達也なのか……?」
「やっぱりお前には分かるか。さすが俺の親友にして世界最高の頭脳だ」
由香里の体を借りた達也が笑う。
次の瞬間――由香の平手が飛んだ。
「たっちゃん! 今まで何してたの! 何で由香里の姿なの!」
由香は泣きながら叫んだ。
「すまん。その理由を今から話す。正樹も聞いてくれ。大事な話だ」
達也は二人に、これまでのすべてを語った。
異世界のこと、神々のこと、そして娘の現状。
「信じられないけど……目の前にいるのが達也なら、もう何も言えないわ」
由香の目には涙が光っていた。
「科学では説明できないことがまだまだある。だが、想像を超えてるな」
正樹が苦笑する。
「……色々すまん。今すぐ信じろとは言わん」
達也は目を伏せた。
「でも達也の言うことなら、信じられる」
正樹の言葉に、由香がうなずく。
「そうね。嘘だけは言わなかったものね」
達也は照れたように笑った。
「由香。まだ道場、あるか?」
「あるわよ。正樹が残そうって言ったから」
「当たり前だ。お前の流派だもんな」
正樹が言う。
裏口の先、小さな平屋の道場。
達也はその空間に立ち、静かに深呼吸をした。
「ありがとう。掃除してくれてたんだな……外の匂いと同じだ」
ゆっくりと構え、舞う。
幻日流・演舞流水。流れる水のように、気を纏い、空間を舞う。
由香の瞳から、また涙が溢れた。
「この演舞……たっちゃんにしかできないわ」
「覚えててくれたんだな。ありがとう」
達也は微笑む。
「明日も、ここで舞う。由香、付き合ってくれ」
「ええ、もちろんよ」
その光景を見つめながら、正樹は静かに言った。
「こんな幸せな家族を引き裂いた神とやらは、絶対に許せないな」
――神に家族を奪われた英雄。
――愛する者を奪われた家族と友人。
神々への仕返しが、ここから始まる。
奇跡の再会、静かな夜の約束。
由香里の身体を借りた達也は、家族と再び笑い合う。
だが、彼らの心の奥には燃えるような怒りがあった――。
「神に家族を奪われた者たちの反撃」が、いよいよ幕を開ける。
第10話「神々への反逆」へ続く。




