報告
「いらっしゃいーって何それ!?この店に呪いでも掛ける気!?」
「…難波くんから貰った…」
僕は30㎝は超えているであろう阿弥陀如来の立派な仏像を抱えて長沢の働くバーに来ていた。
「喧嘩でもしたの…?」
「修学旅行のお土産…」
「井上は出家でもするのか?」
「キーホルダーあげたお返し…」
そう、修学旅行から帰って来た難波くんにお土産で貰ったのだった。
「設我得仏 十方衆生 至心信楽 欲生我国 乃至十念 若不生者 不取正覚 唯除五逆誹謗正法」
「諸有衆生 聞其名号 信心歓喜 乃至一念 至心廻向 願生彼国 即得往生 住不退転 唯除五逆誹謗正法」
第十八願の因願と成就文を宣った…
原文で…
どうしちゃったんだろ…難波くん
京都、奈良で何か取り憑かれちゃったのかな…?
「壮大なサビで打ち震えてくれた?」
「何か違う意味で打ち震えてるけど…」
「そう!良かった!重かったんだよ?大切にしてね。捨てたら許さないからね!プン」
「うーん、捨てたら地獄に行きそうだから手放す時はお寺に奉納するよ…でも高かったでしょ?これ。お土産の域を超えてるけど…」
「あー!センセーから貰ったキーホルダー、良い値段になったから!気にしない気にしない、一休み一休み!」
「あれ…早速売り払ったんだね…」
なら、これは自分で買ったのも同じ事では無いか。気にしなくて良いな。一休み一休み。
「とまあ、そんな経緯で…家に着く前にここで一休みしようかと。結構重い。」
「成る程な。まあ仲良くやってるんだな。」
「そうかな?もう嫌われてる気がしてならないんだけど…」
「そうなの?」
「夏休みもクリスマスも年末年始も忙しくて会わなかったからね。」
「へぇ!学校そんな忙しいの?」
「うーん…学校じゃ無いんだけどな…」
「井上の本命か?」
「うーん…男でも無いんだけどな…」
「まあ、話したく無いなら聞かないさ。」
「まあ…追々な。別にやましい事じゃないんだがな。」
「じゃあ、お前が店に通って来たから、今回は俺の話を少しするか。」
「そう言えば何か前に言ってたな。」
長沢が学校を辞めた経緯を話し出した。
「そんな事があったのか」
「まあ、それで俺は暫く精神病んで学校行けなくなっていてな。そのまま学校も辞めた。」
「僕と同じ状況で長沢の生徒は飛び降り自殺か…」
「確かに井上と同じ状況、しかもその生徒が俺に告白した歳はお前に告白した時の難波くんと同じ歳なんだよなあ。」
「まあ、生徒の性格も違うだろうが。難波くんは小悪魔だしなあ。」
「でも、選択は俺とお前で真逆だった。結果も真逆だ。井上を見ているとやはりあの時の選択は間違っていたのかなって思ったりするな。」
「それはどうだろう?僕はただ難波くんが好きとかどうとかでは無く、何考えてるか分からないのが面白いから付き合っただけで、全然真摯に向き合ってはない」
「ふむ…」
「僕の方が長沢よりもよっぽど酷いことをしてるのかもな。」
「でもお互い様だろ?難波くんも増田に嫉妬して貰いたくてお前と付き合ったんだろ?」
「まあ…そうだよなあ。これと言って難波くんには僕の事は気にも止められても無いだろうしな。」
「まあ、迷える井上に一つ伝えてやろう」
「何だ?」
「難波くんがな俺に、センセーと夏休みもクリスマスも年越しも年明けも会えないんだけど浮気してるとか聞いてる?だとさ。」
「へぇ」
「まあ、井上が思ってるより難波くんはお前の事気になってるんじゃ無い?」
「そうかなあ…」
何だか意外な報告だった。
長沢の学校を辞めた詳しい経緯は「月光」を参照下さい。




