04 おさかな (黒猫と男子中学生)
リーダーが変わったせいで、ぼくは追い出されてしまった。
まぁ、仕方がない。よくあることだ。それにぼくだけの話ではないのだから、名残惜しくも何ともない。そいつらとは途中まで一緒にあちらこちらへと歩き回った。
その間に別れたり、また増えたり、そして別れて、別れて。気づけばぼくだけになっていた。
けども寂しいことはなかった。
なにせぼく達は自由で、誰にだってしばられないんだから。
とはいえ、腹は減る。良い狩場は他の強い奴らに取られてしまったし、こっそり縄張りに入ったらそれこそ危ない。一斉に飛び掛かられてしまえば逃げるしかない。
うぅ、お腹が減った。
目の前にある、大きな大きな水たまりの中にはたんまりとご飯がいるのをぼくは知っている。けども、なにせぼくは泳げないし、水の中に入りたくない。
それならもういっそ、このまま眠ってしまおう。そう思ってなるべく静まり返った場所の片隅を見つけてそのまま丸くなってすぐ、ぼくは知らない奴に叩き起こされた。
慌てて飛び起きれば目の前にはぼくと同じ黒いやつがいた。そいつはぼくが起きるのを見ると、ついてこいと尾を大きく揺らした。
ぼくはあまりにもお腹が空いていたっていうのもあったし、とくに行かない理由もなかったからなんとなく同じ黒いそいつの後をついて行く。気づけば知らない縄張りの中に入ってしまっていたが、何故かすぐに歓迎されて毛づくろいまでされてしまった。
うん。ぼく、ここの子になろう。
この場所はとても良い場所だった。どこに行っても時々人間がご飯をくれるが、ここはどうしてか他よりも人間の数が少ない。けどもおかげでとても静かで、それこそのんびりとお昼寝だって出来た。
ちょっとお腹が減ったら、仲間達と一緒に狩りにだって出かけたりもした。
それでもずっと空腹という時はなかった。
なにせここにいれば、たくさんの食べ物を持ってくる人間がやってくるからだ。
人間が言っていた。空を見上げて、鱗雲だ、って。
鱗は魚のことだとぼくは知っている。だから空に魚があるのかと思って必死に上を見上げてみゃあみゃあと鳴いてみた。それから出来るだけ高い場所によじ登ってみたけれども、魚の姿なんてこれっぽっちもなかった。
あの人間は嘘つきだ。いったいどこに魚がいるのだろうか。
他の奴らにそう文句を言ったら、違うと笑っていた。
あの白い雲が、人間には鱗に見えるのだと焦げ茶色のおばあちゃんが教えてくれた。
人間はそういう遊びが好きらしい。いろんな形の雲を見ては、あれはなんだ、こうだと話している時もあるとかどうとか。
なんてつまらなそうな遊びだろうか。
ぼくはそれよりもおいしい魚をたらふく食べて、眠って。それから目いっぱい飛んで跳ねて、走りまわって、また眠るのが一番楽しいのだ。
しかしながら、先ほどの魚はなかなかに良いものだった。無我夢中で食べていたら、気づけば人間はいつの間にかいなくなってしまっていた。あの人間となら遊んでやっても良かったのに、どうも今日の機嫌は良くなかったらしい。
いきなり大きな声を出すんだもの、やっぱりびっくりしてしまう。けども他の人間とは違って、あの人間は余計に触ってこないからけっこうぼくは気に入っている。
今度はいつやって来るだろうか。今度はどんな魚を持ってきてくれるだろうか。
ああ、楽しみで仕方がないなぁ。
なんて思っていれば、他の奴が毛づくろいの途中だというのにぱっと顔をあげて、耳をせわしなく動かしていた。
ぼくも同じように耳を動かし聞いてみると、今度は違う足音が聞こえてきた。
おや、今日はずいぶんと人間は元気いっぱいなようだ。
ぼく達は毛づくろいをしながら待っていれば、あの人間よりも小さくて若い人間がやってきた。
ここには人間がやってくる。あの年老いた人間と、この小さくて若い人間だ。
人間は手に持っていたかさかさとどうしても遊びたくなってしまう白い袋を揺らしながら、ぐるりと周囲を見渡す。そして食べ残しの魚の尾びれを見て、目をまくる見開いた。
「魚……ってことは、また糞爺に先越された!」
魚か。魚を持っているのか。けれども魚の匂いはしないけども、とても良い匂いがする。
この人間はつい最近やってくるようになった。あの年老いた人間はいつも魚ばかりだったが、この若い人間はそれ以外にもよく知らないカリカリとしたものや、とんでもなくおいしい食べ物を持ってるのだ。
だからぼくもそうだが、他の奴らもこの人間を大歓迎しているのだ。
「あ、こら。待てって」
ほらほら、早く早くとみゃあみゃあ鳴きながら、後ろ足によじ登る。人間は慌てて袋から今日はカリカリとした茶色い粒を周囲にばらまいた。
ぼく達は一斉においしいカリカリに飛び掛かる。
ごめんね、人間。まずはおしいいご飯を食べさせて。さっき魚はたべたばっかりだけども、これは別腹だから残さないよ。
だから遊ぶのはその後ね。
この人間はぼく達とけっこう遊んでくれる。たまにすごく嫌になるくらい触ってくるのは悩みどころだけども、こうしておいしいご飯をくれるからぼく達のお気に入りなのだ。
秋空に鱗雲。鱗という事はお空に魚がいるはずなのに、どこをどう見ても魚の姿なんて見えやしないと、満腹な彼は欠伸をした。「あ、また糞爺に先越された!」上からまだまだ若い人間が何とも良い匂いのする袋を片手にやってきた。彼は甘えるように、にゃあと鳴いて別腹だと言い張った。




