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22 眩しい姿 (父と息子)

 肩には釣り竿に、空のクーラーボックス。今日は全く釣れない日だったが、こんな日もあるだろう。

 のんびりと大里 源太(おおざと げんた)は家までの帰り道を歩いていると、誰かが横を通り過ぎた。一体誰だと思い見やれば、息子の大里 卓(おおざと すぐる)の後ろ姿だった。

 声をかけようかと思ったが、その前に卓はあっという間に源太を置いて先へと進んでいた。

 元気だなぁ、と源太は後ろ姿を眺め、目を細めた。



 卓が今、何を考えていて、どうしたいのか。自分の息子のことなのに、源太はさっぱり分からない。

 先程まで昔馴染みの漁師仲間と釣りをしていたが、あちらの息子は今、絶賛反抗期真っ盛りだと楽しそうに話をしていた。羨ましいと素直に思ってしまったのは仕方がない。何せ自分は父親なのだから。

 と、胸を張りたい所だが、思い返してみれば父親らしいことをどれほどやってきたのだろうかと疑問を抱くほどだった。



 海へと出て、そして家へと帰る。その繰り返しの中、卓はどうやって過ごしてきただろうか。



 ずっと前。それこそ卓の背丈が、源太の腰にもないくらいの頃。並んで歩いていた時のことをふと思い出した。

 確か、あの時も何も釣れなくて、卓は少しだけ泣きそうになっていた。

 正直釣れなくたって家には大量の魚があるから困らない。だが幼かった卓は分からなくて、たくさん釣ってくると言って一緒に出かけたのだ。そして結果はボウズ。

 泣いてしまうかもしれないと思ったが、卓は泣かずに真っ直ぐに家に帰った。そして何も釣れなかったと半べそをかきながらも素直に言った姿はとても男らしかった。



 源太はゆるりと周囲を何気なく見渡し、遠くに見える小中学校の校舎を眺め、ほんの少しばかり目を細めた。



 そこから成長していった卓はだんだんと釣りをしなくなった。

 代わりに学校の友達とサッカーをして遊んでいることが増えた。良いことだと思っている。

 運動神経はそこそこあるらしい。それならきっと漁師にだって、なんて考えが浮かんできた時は慌ててかき消した。



 卓は源太に似て勉強が苦手なようだった。

 うっかり見てしまったテストの点数を見た時は頭を抱えてしまった。それでも何とか授業には追いついている、らしい。もしかしたら先生達が必死に教えてくれているのか。

 さすがにそこまでの話は聞こえてこないから、きっと自分で頑張っている、はずだ。きっと。



 いつの間にか。腰よりも小さかった卓が、ずいぶんと背も体も大きくなっていた。

 外に並ぶ洗濯物の服の見分けがだんだんと難しくなってしまうような勢いだった。とは言え、卓は源太と違って多少は見目に気を使っているのか、時折服を買いに遠出をしている。そして買ったらしい服を見てみると、なんだかよく分からない英字がプリントされているものがほとんどだった。

 よくは知らないが、きっと今の時代はそれよりもシンプルめなのが良いんじゃないかと、テレビでよく見る若者達の服装と比べて思ってしまったが口には出していない。こういうものは言わないほうが良いのだ。何せまだ中学三年生。思春期真っ盛りだ。

 きっとまだまだ背が伸びる。体だって大きくなるだろう。顔なんて源太そっくりだなんだと言われるくらいだから、きっと同じぐらいに成長するかもしれない。そして来年の春、高校へと進学すると同時にこの町を出て行った先で、きっと卓はもっと成長するだろう。

 その姿を間近で見ていたいと、つい願ってしまった。そんなこと、出来やしないというのに。



 源太は足を止め、眩しい西の空を見上げる。


「ああ、眩しいなぁ」


 思わず呟いた言葉が、冷たい海風でかき消された。

 せめて、後一回ぐらいは卓と釣りをしたいが、まぁ無理だろうなぁと、源太は小さく肩を揺らした。

声をかける間もなく、息子が横を通り過ぎた。あっという間に背丈が並び、大きくなった背中がずいぶんと遠くにあった。ちょうど落ちてきている西日が刺さり、ぐっと目を細め、光に消える姿を見届ける。「ああ、眩しいなぁ」誰に言うでもなく、言葉を一つ零した。

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