守る為の刃
黒い鎖に絡め取られ、膝をつきかけるルナ。
彼女の白い頬を汗が伝うのは、何百年ぶりのことだった。
カイロスが再び鎖を操りルナに迫る。
だが、その瞬間、夜空から羽音が響く。
アルバが鋭い爪を光らせ、鎖の根元を引き裂いた。
「ホーホー!」
ルナは頷く。アルバの力を借り、鎖の呪縛を完全に断つ。
「ありがとう、アルバ」
ルナの声には感謝と信頼が混じる。
炎と闇が交錯する中、ルナとアルバは一瞬の呼吸で息を合わせる。
火球と羽撃のコンビネーションが、カイロスを追い詰めた。
と、思ったその時……
カイロスが口元で低く詠唱した。
「アルカ・テラノーヴァ――
空よ、我が意志に従い地に鎖を落とせ!」
ルナの体が重く感じられ、アルバの翼も鈍る。
空中で自由に飛べるはずの二人が、一瞬で地に縛られたような感覚に襲われる。
「アルバ、落ち着いて……私たちなら!」
ルナは短く呟き、地面の力を利用しながら炎と影の攻撃で反撃を試みる。
アルバも低く羽ばたき、鎖に爪を引っ掛ける。
「……くっ!」
その声を遮ったのは、鋭い金属音だった。
ギィン――ッ!
闇を切り裂くように、ひと筋の刃が鎖を完全に叩き斬った。
火花が散り、ルナの身体を縛っていた枷が消え失せる。
「……誰だ」
カイロスが声を荒げた。
月光の下、静かに歩み出た男。
無駄のない動作で剣を構え、その瞳には一片の揺らぎもない。
「……ルアン」
囁くように名を呼んだのはルナだった。
男は振り返らない。ただ片手で剣を下ろし、低く言葉を放つ。
「……立てるか」
その一言に、ルナの胸が熱くなる。
――変わらない。昔と同じ、戦場で幾度も背中を預けた時と同じ。
無口だが、決して揺るがぬ強さ。
「貴様……何者だ!」
カイロスが怒声を上げる。
ルアンは答えない。ただ足を踏み出し、剣を振り上げた。
その動きは速すぎて、鎖の術が反応する前に斬り裂かれていく。
「……俺はただ、彼女を守る」
刃が光を放ち、廃工場の影を切り裂いた。




