舞台は廃工場へ
ルナは待つタイプでは決してなかった……
敵を町の中に入れて戦うことはプライドが許さなかった。
敢えて敵の進行を妨げる作戦でアルバとルアンとで迎え討つ。
町はずれの夜の廃工場。
月明かりが割れた窓から差し込み、埃が銀色に舞う。
ルナは猫から人型に戻し、黒い外套を翻す……
静かに敵を見据えた。
目の前に立つのは――
ああ……カイロスやはりおまえか。
幾百年も執念に囚われた、異能の末裔。
「……ようやく見つけたぞ、魔女ルナ」
声はかすれていたが、確かな狂気に満ちていた。
ルナは冷ややかに微笑む。
「随分な執念ね。けれど――おまえには私を縛ることはできない」
言葉と同時に、ルナの指先から銀の光が走り、時間の流れが遅れる。
埃のひと粒すら空中に留まり、彼女だけが世界を歩く……はずだった。
だが、その瞬間。
カイロスの腕に黒い鎖の紋が浮かび上がり、彼の口から低い詠唱が紡がれた。
「アーク・マグナ、サルヴァ・ポテンティア……
我が血に刻め、異能の根源を。
束縛せよ、封じよ、奪え――ルナ・アルカナ!」
空気が軋み、破れた窓ガラスが共鳴するように震えた。
黒い鎖が虚空から伸び、ルナの身体を絡め取る。
その瞬間――彼女の魔法が途切れた。
「……なっ」
時間は再び動き出し、埃が落下して床に散る。
ルナの目に驚愕が浮かんだ。
彼女の誇りであり、孤独を支えてきた最大の力――
「時を止める魔法」が、封じられている。
「見えるか、ルナ……? これが我が一族の呪術。
お前の力は、私が取り込む。お前自身が、我が器となるのだ!」
鎖がさらに強く締まり、ルナの足元に影が広がっていく。
彼女は必死に抗おうとしたが、鎖が触れるたびに魔力が抜け落ちる感覚に襲われる。
「……っ、こんな……」
かつて戦場で幾千を屠った魔女が、初めて声を震わせた。




