魔女の生活
町外れの古書店の窓から、淡い朝の光が差し込む。
ルナは無言で本棚を整理し、埃を払う。その動作には無駄がなく、まるで時間すらも彼女の意志に従っているかのようだった。
通りを子供たちが元気に走り抜ける声が聞こえる。
ルナは一瞬だけ視線を上げ、手を軽く振った。
「おはようございます」
小さな声で返す子供に、ルナは静かに微笑むだけ。声はほとんど聞こえないほど小さいが、そこにはほんのりとした温かみがあった。
午後になると、八百屋の老婦人が店先で声をかけてくる。
「今日は雨になりそうだから、早めに買い物済ませなさいね」
ルナは「ありがとうございます」と控えめに答え、立ち止まって小さな会釈をする。
町の人々は、ルナが世界最強の魔女であることも、戦友との記憶も知らない。ただ静かで礼儀正しい女性として、穏やかな存在感だけが漂っていた。
窓辺には、ルナが飼ってるフクロウのアルバがじっと座っている。
首を傾げるアルバの心の声が直接ルナに響く。
「今日も人間どもは平和そうだな」
「ええ……ほんとに。」
ルナの心の声に、アルバは軽く羽を震わせて応答する。
ふと、ルナの足元に見知らぬ猫がすり寄る。町の野良猫だ。
「おや、また来たのね」
アルバが静かに囁く。
「可愛いが、邪魔にはなるな」
ルナは餌をそっと差し出すと、猫は満足そうに顔を上げて舐める。
「アルバ、夕方に通りを見ておいて」
「承知、でも猫には気を付けろよ」
こうしてルナの一日は、ひっそりと、過ぎていく。
人間界で平穏な日々を過ごすことで心が荒んでいた私は魔法も使わずに癒されていった。このまま過ごしていたい、ずっと……
世界の裏側の戦いも、千年の記憶も、すべて胸の奥にしまったまま――。




