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5.二日酔いの朝


カーテンの隙間から差し込む日差しでもう朝だと気付くと同時に、これまで経験したことのない酷い頭痛がシャルロッテを襲った。



「うぅ…」


こめかみを抑えながら寝返りを打とうとすると、吐き気まで込み上げてくる。控えめに言って地獄の目覚めだった。



「お嬢様、お目覚めですか?まずはお水を。」


「ん、ありがとう。」


部屋にやって来たミミがよく冷えたレモン水を手渡してくれた。



「ふはぁ…生き返るわ。」


乾き切っていた細胞に水分が染み渡り、土色だったシャルロッテの顔色が良くなる。レモンの酸味で胃のムカムカも少し落ち着いて来た。




「ってあれ…?昨日私どうやって邸まで戻ってきたのかしら…?」


空になったグラスにお代わりを注いでもらいながら、シャルロッテが首を傾げている。


(確かいつものように賭博場に行って荒稼ぎして、過去最高額を手にして気分が良くなって酒場に寄り道してそれから……)



「あ゛ぁ」


彼女の口から令嬢らしからぬ獣のような呻き声が出た。大きな声を出したせいで頭に高い痛みが走り、堪らず手で抑える。



「思い出しましたか?親切な青年がお嬢様のことを送り届けて下さったのですよ。グッタリとしたお嬢様を目にした時には本当に心臓が止まるかと思いました。このようなことは二度とおやめください。」


「…………ごめんなさい。」


酒を飲んだ時の記憶が断片的に蘇る。


初対面で素性の知れない相手だというのに、気を許してひたすら笑って気安く彼に触れていた。最後は足元がおぼつかないからと抱き抱えられた記憶まである。死にそうなほどの羞恥心が込み上げてきた。



「うぅ…消えてしまいたいわ………………」


せっかく良くなった顔色が今度はやらかした事実に血の気が引いていく。



「そんなことを仰らないでください。お嬢様がヘルテル様の学費のために金策に走っていることは知っております。しかし、危険な真似はして欲しくないのです。いざとなったら、私も他の仕事をして支援しますから。」


「ありがとう、ミミ。」


雇われている身なのに本物の家族のような彼女の言葉が嬉しく、シャルロッテはぎゅっと胸の前で手を合わせた。



「それで、お相手はどんな方なのです?家柄は?婚約者はいますか?とても素敵な殿方に見えましたが…」


ミミの全身から好奇心が溢れ出ていた。非常にワクワクした目で見つめながらシャルロッテの返事を待っている。



「いやそれが…名前も知らないのよね。あの雰囲気からして、貴族には違いないと思うのだけど。」


「は」


シャルロッテの口から出た衝撃の事実に、ミミが愕然としている。



「そんなことあります??酔ってらしたから、酒場で会った相手ですよね?そして、初めましてで二人で飲んでいたということは、お相手に声を掛けられたから、つまりは口説かれたとそういうことですね。それなのになぜ、お相手のお名前も知らないのですか!?」


「……見事な推理だわ。ミミ、貴女名探偵になれるわよ。」


「茶化さないでくださいませっ」


主人の稀有なラブロマンスの到来に舞い上がっていたのに、そのチャンスを掴もうともしないシャルロッテについ声が大きくなる。彼女よりもミミの方が本気だった。



「そんなこと言われてもねぇ…会ってすぐ飲み比べ勝負をふっかけられて秒で負けただけだし。会話らしい会話もしてないのよ。」


「どうしてせっかく出会った見目麗しい殿方とそんな勝負をしているのですか………なんて色気のない………」


ベッド脇に立っていたミミは脱力し、目元を腕で覆いふらふらと寝台に手をついた。



「あでも、勝負に勝ったら話を聞かせてと言われていたわ。いつどうやってとかは何も聞いていないけれど。」


「なんとっ……ちゃんと口説かれているではありませんかっ!安心しました!」


ミミが息を吹き返した。ギラついた瞳で未だ寝台にいるシャルロッテにぐいぐい迫ってくる。



「次お会いするときはデートですね!お嬢様、ドレスを新調しましょう。でもドレスサロンに発注かけるとうちでの購入があのクズにバレてしまいますね…一層のこと、お相手にドレスを贈ってもらいましょうか。きっと彼も贈りたいってそう思っていますよ。よし、手紙を送りましょう!」


「いやだから、相手が誰かも知らないのよ?」


「そうでした………………」


また意気消沈して静かになったミミ。 


朝から目まぐるしかったが、まぁいつものことよねとシャルロッテは気にせず、軽食の用意と朝の支度をお願いしたのだった。




午後、シャルロッテが胃に優しいハーブティーを飲みながら次はどうやってレナードから金を巻き上げようかと考えていると、興奮状態のミミが部屋に突入してきた。



「お嬢様!お相手の素性が分かりましたよ!」


叫ぶミミの腕に、ピンクの可愛らしいガーベラの大きな花束が抱えられていた。



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